アイドルですか!?
次の地への移動中、俺はタキオの昨日の言葉が頭を離れなかった。
元の身体に戻るって事でいいんだよな?
「まーちゃんどうしたの?」
「うん、次のライブどうしようかなと……」
次のライブは心斎橋の近く。
今回はかなのおばあちゃんのお見舞いに行ってから向かう予定だ。
「今日は女の子のグループが多そうやな……」
「グループ名的にはそうだよね……」
前回の江坂とは違い、少し小さめのライブハウスの予定でかわいい名前のグループが多かった。
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お見舞いに行くと、おばあちゃんはかなを暖かく迎えてくれた。
おばあちゃん痩せたな。
俺は前回の覇気のイメージが強い。ベッドに座る少し弱っている姿が気になった。
「ようきたなぁ、今日は大阪なんか?」
「せやで、心斎橋で夜からあるんや」
「まひるちゃんもひなちゃんも、迷惑かけたなぁ。かなちゃんがまた弱気な事言ったらしばいたってな!」
そう言うとおばあちゃんは飴をくれた。
その後、かなはおばあちゃんと少し話す様子だったので席をはずした。
お見舞いを終えるとライブハウスに向かう。
機材を前で下ろして、階段を降りると……すでに何組か来ている様子。
「よろしくお願いしまーす!」
「うわっ今日結構うちらと同じくらいの歳ちゃうん??」
「ほんとだねー、みんなバンド?」
「なんか……ユニット?」
すると、ブッキングマネージャーが話しかけてくる。
「"ハンパテ★"のみなさんよろしくです! 楽器持ってきてるんですね、音出します?」
ん? 今、音出すって事だよな?
「もうリハですか?」
「いえいえ、ギターとか繋がれるのかなと?」
えっと……当たり前だよな?
「繋ぎますけど……あの……今日のブッキングってもしかして…………」
「もちろん! インディーズアイドルで集めてるよ!」
ちょ、山野さん! なんてブッキングを!
「いやいやアイドルじゃないんですけど!」
「えーっ! あの音源生で弾いてるの!?」
後で来た西田さん曰く、ライブハウスの手違いで写真とバンド名を見てアイドルだと思っていたらしい。
俺たちはある意味最大の危機を迎えてしまったが、普段通りやるしかない。
「"サカナ"の時はこんな事無かったんだけどなぁ……まぁ、君たちがアイドルみたいにかわいいって事さ!ははは……」
西田さんは苦笑いした。
♦︎
リハーサルに入ると、ガヤガヤしたホールが静まる。あ、うん、そうだろうな。
その後の反応は完全に二極化した。
「すごい!」と話しかけて来る子も居れば睨まれてる気がする子もいる。
もしかして良くは思われていないのか?
そうこうしているうちにライブハウスがオープンすると、いかにもな男から以外にも女の子もそこそこはいる。俺たちを見に来た人には衝撃的だろうな……
「すいません! 写真って売ってないんですか?」
「置いてないです……」
「えー、もう売り切れちゃったんですね……」
いやそもそも置いていない。
「CD買ったらサインとか握手してくれますか?」
うーん、握手くらいいつでもするけど……
そんな中、ひなに人だかりができる。
「すいません、一緒に写真……」
「握手!」
「かわいい! ヤバい!」
「デュフフ」
たしかにひなは"なんとか"の人に受けが良さそう。
俺はチラッとかなをみた。
かなは苦笑いしたが、ひなは目が死んでいた。
あ、アイドルってすごいな。
♦︎
ライブが始まると会場は不思議な熱気に包まれる。ほとんど見たことなかったけど……見に来たい気持ちは分からないでも無いな。
出番近くに楽屋に行くと、次の子達が着替えていて少し気まずい。大分なれたんだけど、アイドルの楽屋と言うのが罪悪感が産まれ物販に戻る。
少し間を置いて楽屋に戻ると……
弦が切れてる……