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俺の音楽ここにあります!  作者: 竹野きの
メジャーに向けて
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トラブル

「インディーズの話題の子達ですよ?」


「知らねーよ、文化祭じゃねーんだぞ? 俺らが呼んだ客の印象最悪だろーが」


はぁ、ブッキングでは有るよね……

俺はニヤリとパーカーのツノを立てて、お兄さんに言う。 西田さんがこっちに歩いてくる様に見えた。


「わたし達の後にでますか? いいですよ?」

「おっ、まぁトリなら?」

「リハーサルだけ準備出来たので先にさせてもらいますね!」


「おっ、おぅ」


多分トリで出た事ないんだろうな。正直トリのメリットは名誉くらいしかない。俺はブッキングマネージャーに話すと「面倒は嫌なので助かります」といわれた。


かなは心配そうに俺を見る。

「まーちゃん、ええの?」

「ライブハウスが序盤と判断する位だからそんな大したバンドじゃないとおもうんだよね、これで丸く治るならいいんじゃない?」


「それやったらええねんけど……」


そのバンドの機材はディーゼルのアンプにギブソンレスポールのカスタムショップ。

ベースはワーウィックとかなりお金がかかってそうな機材。


まぁ、こちらはアンプすら持ってないからね……。ただ、そんなバンドには負ける気はしない。


俺は2つのギターを繋ぎ準備した。


「ジャパンのムスタング……ハハハ」

明らかにバカにした様に笑った。

本当にマナーがなってない。それに"マスたん"を舐めてるとか、笑いたいのはこっちなんだけどね! その機材でどんだけいい音を出してくれるのやら?


西田さんは、俺があっさり対応したからのか、すこしニヤリとして後ろに座り直した。


「はいはい! かわいいかわいい」


なんか俺らに恨みでもあんのか? ひなはすこし気にしているが、品のないヤジだなぁ。


「では、3曲めの"|Fast fashionファストファッション"やりまーす!」


イントロのギターリフから、Aメロの複雑ドラムへ。もちろん今回からボコーダーが採用されている。


音のバランスもいい感じだな。

完全な"ハンパテ★(はんぱて)"にクオリティで勝てるバンドはそうはいない。


さてと、反応は?


さっきのバンドの男はホールから居なくなっていた。



♦︎



正直予想はしていたけどガッカリした。

次のリハーサル、あのヤジ男の表情が明らかに暗い。 まぁ、それはいいんだけど、抑えの雑なバッキングにほかの楽器と合わせきれていない楽曲、機材だけですか?


俺はこれだけはいいたい。

本気でやっても、世に受け入れてもらえず売れないバンドは沢山いる。

俺だってそうなんだ。だからそういうバンドは否定しないし敬意さえも持っている。


だけど、正直こういう貴重な機材を持ってるにもかかわらず、音楽に向き合わず、舐めてるバンドが正直一番大っ嫌いだ。文句や評価を気にする前に仕事しろ!


リハーサルが終わるとどうやら内輪でもめ始めた。


「おまえがあんな事いうから……」

「だって仕方ねーだろ? あんなに上手いと思うわけねーじゃん」

「あー、俺ら超ダセー。マジやりたくないんだけど?」


男はこっちを見ると叫んだ。

「何みてんだよっ」

「ちょ、おまえマジやめろって」


やべ、めんどくさい。

冷静に、中学生の女の子に絡むとかクズすぎるだろ……。西田さん……いない!?


そのままパーカーの胸元を掴まれる。

ちょっと、おっぱいに当たってますけど?

どうやらこいつは俺を泣かせたいのかも知れないな。


「は? おまえバカにしてんだろ? なんとかいえやゴルァ!」


ただ、俺は罵声にはなれていた。

色んなバイト暦なめんなよ!


あまりに、普通に対応したからか手を振り上げる。 ちょ、マジで殴る気かよ?


その瞬間、男は視界から消えると、鈍い音がする。


ん? あれ? えっと……かなさん?

かなは男をぶん投げた後、膝を入れ、襟元を掴むとキレていた。


「うちのまーちゃんに何しとんねんっ?」

「う、うう……」

関西のヤンキーの様なかなに唖然とする。

男はコンクリの床に打ち付けられ、動けない様だった。


「かな、やめて! また良くない事になるよ!」

ひなが止めにはいる。

……また? ただ、かながかっこよすぎ!


「すいません、うちのメンバーが……」

さっき止めようとしてた人だ。


「いえ……」

そういうと男を連れてきえた。


「まーちゃん、怪我してへん?」

「うーん、おっぱいがちょっと小さくなってしまった……」


「アホな事いうてるから大丈夫そうやな!」



♦︎



その日のライブは、何だかんだでCDやグッズも売れて順調だった。


ライブが終わると、ブッキングマネージャーに謝罪された。


「すまない、こんな感じになるとは思わなかったんだ。でも君達は最高のライブをしてくれたからまた出て貰いたいと思ってるんだけど……」


「いいんです、これも経験だと思っています。今後も是非出させて下さい」


西田さんは少し不満気だったが、俺的には結果は悪くなかったとおもう。ブッキングなんて色んなバンドが出るから仕方ないと思う。


そんな矢先、あの男は捨て台詞を吐いた。


「いいよなぁ、才能のある奴は。マジこんなとこ絶対出ないわ」


はぁ?

才能? ふざけんなよ? そんな話はもっと……脳内でキレるより早くあの西田さんがキレた。


「ちょっと待てお前ら」

普段優しい西田さんだけどベースは髭の怖いおじさん。桁違いの迫力を見せた。


迫力に負けたのか男は大人しく固まる。

「おい、お前。才能ってなんだ?」

「おっさん怒……」

「なんだと聞いているんだ」


「練習しなくても上手く弾けるとか……」

「そんな奴が今日出ていたか? いや、そんなアーティストが世界にいるか?」


「いや、だってそんな歳でとかおかしいだろ!」

「お前はギターをやってるんだったな?」

「はい……」

「確かにスタートで手になじみやすかったり、近い楽器をしていれば上手くなるのは早いだろう。だけどそれだけではない事は分かってるんじゃないのか?」


いつにも増して西田さんのキレが増す。


「そんな高いいいギターを買えたのは才能か? 親の力か? ある意味才能かもしれんな?」

「いや、俺らも一生懸命に……」

「なら、なぜそんなに汚れている? うちの子達の楽器を見てみろ? それに比べたら安い物かも知れない、だけど毎日丁寧に拭いてオクターブのチューニングやメンテナンスだってしっかりしている。これは才能か?」


「……」


「気づいていない様だから、アドバイスしよう。君達の今日の敗因は"意識"だよ」


「い、意識ですか?」


「綺麗な音を聞かせる気がない、人に見せる気がない、人を楽しませる気がない。それが君達の音。いや、君の音だ」


「俺だけっすか?」

「僕の聞いた感じだとベースとドラムの子は少しはしようとしてるように感じるよ?」


「……」

「正直、そう言った事が出来てから才能を語ってくれないかな?」


西田さんは、最後は落ち着いた口調で、ゆっくりと言った。


俺の言いたい事は全て言ってくれた様に思った反面、まだまだ見せる、楽しませると言った部分は俺自身意識しきれていないと思う。


それだけやってから才能を語れと言った西田さんはメジャーじゃないその次を見てるのだろう。


俺は昔、聞いたことがある。バンドの全盛期にクオリティ、パフォーマンスなと洗練されたメジャーバンドが大きなホールで対バンでライブをした。


その時に、そんな積み上げてきたバンドの中で一瞬にして観客を虜にしたパフォーマンスを見せたバンドがいたんだと。


才能の壁はそこにきて初めて言えるのかも知れない。


その伝説級のバンドの名は"X JAPAN"当時はもちろん"X"だけの時なんだけどね。


西田さんの過去はほとんど聞いた事が無いけど、もしかしたらメジャーでその壁に挑んだ事が有るのかも知れないと思った。


西田さんが伝えた後、男は俺たちに

「今日はごめんな?」


と言った。謝り方としては微妙だけど、その行動はもしかしたら何か心に響いた物があったのかも知れないと思った。


それぞれ挨拶を済ませると、俺たちは帰り道をまたいつもの3人で歩いて帰る。


「かな、今日すごかったね? なにか武道でもやってたの?」

「あれ? まーちゃんに言うてへんかったっけ? ちっちゃい頃から転校するまでばあちゃんと合気道やっててん」


「そうだったんだ!」

「拓也の時にこの事言ったと思ってたわ!」


ちょっとまて……拓也が重傷ってマジだったんじゃないか??


「でも、ありがとう。助けてくれてなかったら殴られてたと思う……」

「いやいや、こういう時のためのやし! なんかな、ばあちゃんの時代は住んでたあたりが物騒やったんやて、それで護身術として始めたらしいんやけど」


「なるほどね!」

「あたしもいざというときは助けてね!」

「当たり前やん! あれ?携帯が鳴っとる」


そう言うとかなはスマホを取り出し話始めた。


「どうしたん? うん、今ライブ終わったから帰ってるで?」


家からの電話なのかな? 珍しいな。

するとかなの表情が暗くなり、電話をきった。


「ごめん、まーちゃん。うちのばあちゃんが倒れたらしいからうち大阪行ってくるわ」


涙目のかなはそう言って走って帰った。

◯用語補足


・オクターブチューニング

作中ではオクターブと書いてますが、開放弦と12フレットのチューニングを合わせる事を言います。弦の太さなどでズレるのでそこを調整してフレットの音階をあわせます!


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