―プロローグ―(挿絵)
2019年9月11日
俺、一之瀬太郎は1つの人生を終えようとしていた。
35歳ギタリスト。
13歳でギターをはじめてから、ロックスターを目指し、ハードロック、ハードコア、メタルといった、"コアなジャンル"でインディーズバンドをしている。
一言でいうとインディーズバンドは過酷だ。
ツアー、宣伝、ライブ、レコーディングのほとんどを自分たちで手配する。
そのくせ対価は空いた時間にバイトをしなくてはいけない位の収入だ。
大体のバンドは水物だと思う、たとえ一時的にブレイクしても、その名前を使いお金にしなければ食べていけない。特にごく一部のマニアにしか知られていないようなバンドは方向を変えるべきなのだ。
この日スタジオにてメンバーに事実上解散を告げられた。
「あのさ、俺らってもう結構な歳だろ?」
まあな……。
「これからはさ、世代交代で新しく頑張ってるバンドや、若手をサポートしていくべきだと思うんだよ」
そういうと俺の目をみて続けた。
「太郎はギターもうまいし、講師やスタジオミュージシャンの誘いも来てるんだからその道もありだと思う」
メンバーの言いたいことはわかるのだが、俺は何となく納得はできなかった。
ただ、いえることは、現時点ではただのフリーター。
解散することで、事実上俺の20年のロック人生は終了を意味するということだけだった。
♦
その日の帰り道。
俺は、ビールとつまみを買ってアパートに帰った。
テレビを付けていつものセットポジションへ。
思い返せば長いようで短かった20年だった。
13歳のころ、友達の間でメタリカが流行り、夢中になって練習をした。
別に嫌いな音楽はなかったけど、なんていうか『ロック』なことがしたかったんだ。
オタク気質な俺は、色々とギターのテクニックを漁り、友達にプロになれるといわれ俺は上京した。
20代の頃は、コアなシーンでブレイクし、
それからそのシーンにしがみついてただけだったのかもしれない。
まぁ最後の日の酒が缶ビールなのは俺らしいのかな。
(続いては人気急上昇中の高・・・)
テレビでは音楽番組がやっていた。
新しい新人のバンドらしい。
「なんだよこれ、若いのにめちゃめちゃうまいな!」
世代交代か……昼間のあいつの言葉がよぎる。
「いや、でもこれどうせバックでスタジオミュージシャンが引いてんだろ!」
何となく見ていたテレビに愚痴りながら、俺はそのまま眠りについた。
これが俺としての人生が終わり、これから起こる事を予想することなんてできなかった。
○用語補足
・スタジオミュージシャン
メジャーなどでの演奏のサポートや、レコーディング等で代わりに弾いたりもする。
また、のど自慢等のバッグの奏者もスタジオミュージシャンで実はめちゃめちゃうまかったりします。
・シーン
そのジャンルを取り巻く環境。作中では、ハードコアがその地域などで流行ったときの中心だったことを指す。
・メタリカ
へヴィメタルのレジェンドバンド。聞いたことない方は聞いてみてください。