きつねじゅうに
「うぅぅ……。コンちゃんありがとお……」
「ここーん」
社内で、そして今度は電車内の冷房で冷やされた私のお腹は絶賛ピンチ。コンちゃんにお腹に乗ってもらって温め中なのです。他の人には見えてないけど、動物の体温暖かい。それにしても座れて良かった。
『……車内、大変混み合いますのでー……』
カーブにさしかかったのか大きく揺れた車内で人がずざーっと動く。荷物が覆いかぶさってコンちゃんに当たりそうで危ない。必死に防御。
それにしても、凄く蒸れる。湿気の固まりな車内で頭がぼーっとしてくる。人が少なかったらいいのに、終電間際の電車はギュウギュウで余裕は無い。あー意識がー……。
『……次はーおいなりーおいなりー。油揚げの御求めは、オイセ庵へ。次の停車駅はおいなりです』
ハッとまぶたを開く。気が付いたら意識が飛んでいたみたい。それにしても聞き慣れない駅名だなーと車内を見渡したら、【蒸れ】が【群れ】になってた。
「いやー今日も暑いですこゃ。油揚げを炙ったのに、冷酒なんてこの後どうです」
「いいですこゃねー」
さっきまでいたはずの人間の乗客はいつの間にかみんなお狐様に。頭の上から三角耳が生えてる以外は人間と同じ感じの狐さんもいれば、顔がまるまる狐の人、少し目が尖ってるだけの人……。――あらまぁあらまぁ。私はいつのまに、こちら側に。そしてお腹に抱えていたコンちゃんの代わりに、小さな子供が乗っている。
――まさか……。
「コンちゃん?」
「こぁ」
私を振り向いて、そうだよという感じで返してくる。思わず頭を撫でたら、ふわふわした三角耳がついてるし、私の膝に当たるのも小さな尻尾だ。
周りの乗客は、「お子様連れは大変だよね」みたいな優しげな表情で私たちを見ている。私が産んだ訳じゃないけど、私の子供みたいなものなんだろうかコンちゃん。今度ぐだりさんに聞いてみようと思ったら、電車が終点に着いたみたい。
「えー……。ここどこ〜」
「こぁー」
駅のホームに降りてみると、乗客はさっさとみんな改札から出て行って、あっという間に私たちだけに。電灯だと思って見上げた物は、よく見たら狐火が入ってるし、まさに別世界。コンちゃんが私の手をきゅっと握ってくれてるから怖くないけど、ちょっとこれどうしよう。流石に知り合いなんかいないだろうし……。
「あら、以前こちらにいらしたおばあ様の懇意になさっている方じゃありませんか?」
白い尻尾の美人さんが声をかけてくれた。あ、確か夢の中(?)で、出会った気がする。
「こちらでは、普通の電話じゃ使えないですしね」
いつの間にか、電池残量が少なくなっていた私の携帯は、電池マークの代わりに弱った狐の顔になっていた。電波は管狐マークに自動的に変わってる。コンちゃんが息を止めて気合いを入れると電池マークが少し元気になるけど、息を吐いたらまた弱り狐マークへ。
「夜も遅いですし、私の部屋で良ければどうぞー」
「なんだかすみません」
「こぁこぁ」
小さな狐を連れてる人ならば、悪しき思いは無いしおばあ様のお知り合いだからと安心されてしまった。やっぱり九尾の方のお孫さんだそうな。案内された先は小綺麗なマンション。いいところだー。
「明日、私が出社する時にあちらに行きましょう。あちらへの扉、日の出で開きますから」
「そんな訳で、電車乗って、隣町の神社から戻りました……」
「こーん」
「なんとぉ……。夜中でも連絡して下されば強引に繋ぎましたよー!」
翌朝、ぐだりさん所の神社に顔出したら、ずっこけられた。やっぱり世界の境界は、案外ゆるいらしいです。
今回出てきた白し尻尾の白尾さん。きつねろくにも出て来た方だったりします。