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俺もたまには喧嘩する side:ユリウス

朝、俺は心地よい眠りから目を覚ます。

隣を見ると珍しくティアがまだ寝ている。

どうやら今日は俺が先に目を覚ましたようだ。

ただ、気のせいか外がいつも起きてる時間帯より明るい気がする。

そして、俺は壁にかかってある時計を見た。

「…………寝坊してんじゃねぇか‼︎」

おいおいおいおい! もう俺がいつも仕事に出る時間の10分前だぞ⁉︎

「ん……。おはようユーリ。今日は先に起きたんだね」

俺の声に目を覚ましたティアが、呑気な声で挨拶して来た。

「ティア! なんで起こしてくれなかったんだ⁉︎ もう家を出る10分前なんだけど!」

「え⁉︎ ご、ごめん! すぐにご飯作るね!」

このとき俺は起こしてくれなかった妻に、理不尽にもイラついていた。

「ご飯はいらない! もう行ってくる!」

制服に着替え終えた俺は、感情のままに怒鳴ってしまう。

「そ、そんな。私が送ってあげるから!」

「いらないって言ってるだろう!」

「⁉︎ そ、そんなに言わなくてもいいじゃない! ユーリのバカぁ!」

ティアがそう叫んだのを最後に、俺の視界は突然歪んだ。

「いてっ」

そして気づくと3番隊の訓練場のど真ん中に転移させられ、急な転移に対応できなかった俺は無様に尻餅をついていた。

「た、隊長? 今、空中から出て来ませんでした?」

いきなり出て来た俺に、部下たちは唖然とした表情を向けてくる。

尻餅をついた格好を見られ、羞恥心がこみ上げてきた。これも全部ティアのせいだ!

「き、気にするな!」

「き、気にするなって言われても……」「なんか怒ってません?」

「少し、妻と喧嘩しただけだ……」

「あの人と⁉︎ 隊長、何したんですか⁉︎」「聖女様を怒らせるなんて……」

「な、なんで俺が悪いみたいになってんだよ」

「いいから話してください!」「次第によっては俺たちが成敗してくれる!」

……俺に味方はいないようだ。おかしいな? なんで一回しか姿を見せていないティアに、俺と部下たちの時間をかけて築いてきた信頼が負けているんだ?

なんで部下たちにこんな話をしなければならないのか疑問に思いながらも勢いに押されて今朝の顛末を話した。

「クズ野郎だ……」「もう俺はあんたを隊長とは思わねぇ」

なんということでしょう。固く結ばれた絆は見る影もないではありませんか。

「お、俺が悪いのか⁉︎」

「ま、まだ言いますか!」「あんな奥さんが作ってくれる朝ごはんを拒否したあんたの罪は重い!」

「も、もう知らん!」

それからというもの部下たちは、俺に冷ややかな目を向け続けてきた。

……やっぱり俺が悪いのだろうか。

俺は冷静に今朝のことを思い出す。

先ず、俺は何に怒ったのか。

それはティアが俺を起こしてくれなかったことだ。

だが、よく考えたらティアが俺のためにわざわざ起こす義理はない。

俺の仕事なのだから俺が自分で起きるのが道理だろう。

そして怒った俺に、ティアはまずなんと言った。

自分のことのように慌てて謝って来たではないか。

そんなティアに俺はなんて言った?

怒ったままで挙げ句の果てには俺のためを思って作ってくれようとした朝食を拒否した。

…………なんてこった、俺は本当にクズ野郎じゃないか。

謝らなければ……。でも、なんて言う?

ヤバイ、こういう時口下手な俺は何も思いつかない。

ここはプライドを捨ててでも部下たちに聞いたほうがいいかもしれない……。

そうして今日も仕事を終え解散の時、未だに冷ややかな視線を向けてくる部下たちに俺は頭を下げた。

「どうやって謝ればいいかわからない。誰か教えてください!」

『………………』

「はぁー、ようやく認めましたか」「このままだったら本当に隊長のこと見限ってましたよ」

あ、あぶねぇ。言ってよかった……。

「それじゃあ俺たちが教えて差し上げましょう!」

そうしてあれこれと指導され……。

「ほ、本当にこれで大丈夫なのか?」

「ええ! 完璧ですよ!」「あとは隊長の気持ちだけです!」

「そ、そうか。ありがとう。それじゃあ行ってくる!」

ふぅ……。

現在家に扉の前。家に入るのが1番気まずい。

ええい! 覚悟を決めろ!

「た、ただいまー」

「パパおかえりー!」

まず飛び出して来たのは、我が最愛の娘だ。

「ただいま、リアナ。ところでさ……ママはどうしてるか知らない?」

「ママー? なんか今日元気なかったよ? 部屋にいるー」

「そ、そうか。わかったよ」

うう、やっぱり怒ってるよなー……。

俺は、俺とティアの部屋に向かう。

そして、ドアの前で部下たちに習ったことを頭の中で反芻した。

…………いざ行かん!

バンッ! 勢いよくドアを開ける。

「ひゃっ⁉︎ ゆ、ユーリ?」

「誠に申し訳ありませんでしたー!」

俺は両手に花束を持った状態で土下座した。

き、きまった……。

ティアはどんな反応を……。

「…………ぷっ、あははははは!」

ティアの突然の笑い声に思わず顔を上げた。

「そんな格好で何やってるのユーリ? あはは! わ、笑いが止まらない」

「………………」

なんかめっちゃ笑われた。

「そ、そんなにおかしい?」

「花束持ちながら土下座する人初めて見たよ。何それ?」

「ぶ、部下たちにどうやって謝ればいいか聞いたら……」

「あはっ、面白い部下さんたちだね」

そうか……。あいつら明日殺す……。

「そ、それより、本当にごめん。冷静になって俺がどれだけ酷いことをしたか気づいたよ」

「……うん。いいよ、許してあげる。私も起きれなくてごめんね?」

「ううん。ティアは悪くないよ。これからは自分で起きられるように努力する」

「そう、わかった」

よかった……。本当によかった。

許してくれなかったらどうしようか気が気じゃなかった。

「それじゃあ、晩御飯にしましょうか」

「ああ、楽しみにしてるよ」

そうして俺は、この日から自分で起きるようになったのだった。


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