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私の手が届くなら

「貴女が『聖女』かな……? ゴホッゴホッ! ……まずはお父様が迷惑をかけた、すまない。そしてお父様……私はもう生きることは諦めております。これ以上期待を持たせるようなことはしないでください」

私がセルヴィンからかけられた第一声は謝罪だった。

そして、肝心のセルヴィンは生きることを諦めていた。

「セルヴィン! 何をいう! お前が諦めては治るものも治らんぞ!」

「では私の死病が治るというのですか! うっ⁉︎ ガハッ!」

セルヴィンは、いきなり叫んだ勢いで吐血してしまった。

これはまずい……。

「セ、セルヴィン! しっかりしろ! 」

「セルヴィン様! 落ち着いてください! 陛下の言う通り本人が生きることを諦めてはいけません! 貴方は私が必ず治してみせます!」

「ハァ……ハァ……。……聖女よ、それほど安い言葉はないぞ? 必ず治す。私が病を患ってから何回も聞いた言葉だ。どいつもこいつもそう言った。だが結果は変わらなかった。それがどれだけ辛いかわかるか?」

うっ⁉︎ 何も言い返せない……。 だけど……。

「申し訳ございません。セルヴィン様の思いも考えずに軽はずみな言葉を口にしてしまいました。……確かに辛い思いをしていらっしゃることでしょう。ですが辛いと思うのは、まだ生きることを完全には諦めていない証拠です!」

「⁉︎ …………なるほど、そう言われればその通りかもしれないな。私はまだ心のどこかで生きたいと思っているのかもしれない……」

「ならば最期にでも私に賭けてみませんか?」

「……貴女は口が上手い。そんなことを言われたら賭けてみたくなるではないか……。わかった、好きにしてくれ」

よかった……。なんとか納得してくれた。

「それでは、失礼します」

この世界の医療技術では王子を蝕む元凶が何なのかは判断できない。もちろん私にも。

そして、その代わりに魔法がある。でも、魔法はなんでもできるわけじゃない。ことに聖魔法は使えるものが少なく、使えても大病などをを治せるものはほとんどいない。

魔法の優劣は女神からの愛によって変わるって言われてるけど、私はなぜか女神からとても愛されているらしい。今までの経験上。

それでも王子を絶対治せるなんてことはない。治せなかったらどうしよう、なんてネガティヴな感情が芽生るのをどうにかしてねじ伏せる。

やるんだ。治してみせるんだ。

私は、自分の力を信じ、セルヴィンの胸に手をかざして詠唱を始めた。

「《潔癖の証、聖なる光よ、穢れを祓い安寧を与え給え》」

セルヴィンを、最上級聖魔法の白い光が包み込む。

そして私は願う。それは病が治ってほしいということだけではない。

この国の人たちが幸せに暮らせますように。

家族が幸せに暮らせますように。

私は神様ではないから全てを平等に救うことはできない。

その代わり、せめて私の手が届く場所であればそれは必ず救ってみせる。

それが私が治療師になろうと思った時に決めた誓い。

やがて、セルヴィンを包んでいた光は霧散した。

「ご気分はいかがですか? セルヴィン様」

「呼吸が……楽だ……。ま、まさか……本当に……治ったのか……?」

「ええ、どうやら成功したようです」

「セルヴィン! なんともないのか⁉︎」

「はい、お父様。自分でも驚くほどどうもありません。聖女様、本当にありがとうございます」

王子はそう言って、深々と頭を下げた。

「あ、頭を上げてください。聖女様だなんて! 恐れ多いです!」

「いや、そんなことはない。貴女は私を救っただけでなく、この国も救ったのだ。もっと誇っていい」

「……勿体無いお言葉です。お役に立てて本当に良かったです。あと、まだセルヴィン様のお身体は病に侵されたことによって弱っております。これから十分に療養して、ゆっくりと元の体に戻していってください」

「ああ、言う通りにしよう。生きることを諦めかけていた私に、再び生きる喜びを与えてくれた貴女への感謝は一生忘れないだろう」

「ティアット殿、私からも礼を言おう。息子の命を救ってくれて、ありがとう」

「そういってもらえるとありがたい限りです。それではこれからはお身体に気をつけて、もし、また何かあればいつでも呼んでください! 」

そうして私は部屋を後にした。

「お疲れ、ティア。うまくいったみたいだね……おっと」

あれ、ユーリの顔を見た瞬間腰がぬけた。

とっさにユーリが支えてくれる。

「あはは、緊張の糸が切れて力が抜けちゃったみたい」

「そうみたいだね。でも、この状態じゃ歩けないな……。よいしょ!」

「え、えっ⁉︎ 恥ずかしいよ!」

いきなりユーリが、私の背中と膝裏に腕を回して持ち上げた。

いわゆるお姫様抱っこだ。

「そんなこと言ったって歩けないだろ? 子供達も待ってるからこのまま連れて行くよ」

「もう……しょうがないんだから……」

ああ……やっぱり私は幸せだなぁ。


15000pv達成しました!

こんなに多くの人に読んでもらえるとは思わず、感謝の気持ちでいっぱいです!

これからも引き続き、楽しんでいただければ幸いです!


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