プロローグ
正夢注意報、発令中。
「ねぇ有輝兄。有輝兄は何を見るの?」
そう笑顔で尋ねながら、彼女は僕に近づいて来た。
ここはいつもの場所。
お気に入りのソファに寝転び、お気に入りのテレビを眺め、お気に入りの音楽を、お気に入りのヘッドフォンで聞き、お気に入りの飴を食べている、何時ものゆったりとした時間。
彼女も僕と同じように、こんな何時もの時間を過ごす事が好きなのだから、わざわざ尋ねてくるのは……まぁ何時ものように、何時ものような事をしたいのだろう。
見ると、やはり何時ものように、利き手の左手を背中に隠し、どっかのグループの1人が、それを言う時みたいな笑顔を浮かべて、ゆっくりと近づいてきた。
「そうだな……。暇だし、ポ◯モンでも見ようと思ってるけど?」
この先に起こることは、全て知っている。
もう何度も繰り返されてきた事だ。
次に彼女が何を言うか、どんな笑顔を浮かべるか、全てハッキリと、知っている。
知っているからこそ、変える気も、変えようという気も起きない。
どうせ足掻いても変わらないのなら、最初から足掻きたくない。
何かの"流れ"とか言うものに、身を任せるのは楽だ。
自分では何もしなくても、"流れ"とか言うものが、勝手に僕を流してくれる。
結末は知っているが、どういう感じでその結末に辿り着くのか、それはまだ知らない。
結末だけは理解していて、その結末は変わらなくて良いと思っているのに、その過程だけは、変わっていて欲しいと願う。
せめて、ほんの少しでも、退屈じゃない日々を。
そんな事を願いながら、僕は、僕の心臓を目掛けて振り下ろされてくる包丁を、ほんの少しの笑顔を浮かべながら、受け入れた。