さわらないで
「いってきます」
(のどがかわいたな)
「あ、お母さん」
「おはよう、もう行くの?」
「うん」
お母さんが近寄ってくる
コートの背を手で払う
首もとをなおす
コートを引っ張る
靴下をあげる
―すごく気持ち悪い
鳥肌がたつ
吐き気がする
「ありがと」ひきつりながら部屋にもどる
気持ち悪い、気持ち悪い
涙が出そうだ
なんでこんな気持ち悪いんだろう
手が見える
どこまでもついてくる
動くたび、ベタベタ…ベタベタ 気持ち悪い
泣きそうだ
吐きそうだ
気づけば私は人からさわられるのが無理になっていた
「気持ち悪い」「寝てる間にさわった?」
「好きでもさわらないで」
「みきちゃん、みきちゃん…みきちゃん」
色んな声がする
女の人にさわられるのが嫌い
お母さんを思い出すから
治したほうが良いよって言って触ろうとする男の人もきらい
嫌い 嫌い