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放課後に職員室に集まれ、と言われた。部活前に行くと、私の他に十数人の同級生がいた。そして、教頭が私たちを待っていた。
「よく来た。呼び出したのは他でもない。進学者を対象とした特別授業の説明をするためだ」
教頭曰く、放課後に進学者を対象とした授業を行うそうだ。ここにいる十数名が、これに参加する。日程は、追って知らせるとのことだった。
私の隣にいたのは、同じクラスの鹿島〈かしま〉くんだった。背の高い、ほっそりとした男子で、口数の少ない人だ。彼とは一度も喋ったことがない。ひょっとすると事務的な会話くらいはしているかも知れないが、思い出せないということは殆どないのだろう。
その鹿島くんに話しかけられた。
「江波って、先生と仲良かったんだ」
「そうでもないけど」
「じゃあ、この前、どうして二人でいたんだよ」
それは何時のことだろうか。最近は話す頻度が増しているので、心当たりが多すぎる。
「それって、何時」
と聞いたが、鹿島くんは答えてくれなかった。私を睨み、そのまま去ってしまった。
そのことを隣のクラスの友達に話すと、彼は、
「あいつ、いつも先生のことガン見してるからな。多分、好きなんじゃねぇの」
と吐き捨てるように言った。
私は鹿島くんの存在に注目していなかったので、それが本当かどうか分からなかった。だから、家に帰って春臣にも聞いてみた。すると、春臣はそれが広がりつつある噂だと言った。
「めっちゃ見てるらしいぜ、授業中とかに。こえーよな、オタクって」
「鹿島くん、オタクなのか」
「らしいぜ。ほら、駅の近くにアニメの店があるだろ。あそこで見た奴がいるんだってさ。鹿島の奴、アニメの雑誌とか人形とか買い込んでたらしいぜ」
「アニメくらい、俺や春臣でも見るだろ」
「違うって。あいつの見るアニメは、オタク向けなんだよ。何て言うか、女ばっかり出てくるアニメ。萌え、とか、そんな感じの」
なんとなく分かった気がする。私たち一般人が気持ち悪さを覚える類のアニメだろう。深夜にやっているのを、何度か見たことがある。
「深夜の奴か」
「それそれ。あいつ、先生にアニメの面影でも重ねてんじゃねぇのか。先生、美人だし、ミステリアスな感じだろ」
確かに、先生はミステリアスだ。そして、美しい。あんな人は、そうそういないだろう。
きっと、鹿島くんは私に敵対心を持ったのだろう。私が先生と近しいことが気に入らないのだ。嫌がらせなどされなければいいが。