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私は友達が少ないので、矢地さんに協力すると言っても、大したことはできない。だが、春臣ならば話は違う。春臣は人脈が広く、明るい性格なので陰湿なことや汚いことが嫌いだ。私が矢地さんのことを話すと、二つ返事で協力を引き受けてくれた。
「春臣も、協力しれくれるって」
部室でそのことを告げると、矢地さんは驚いていた。そして、やけに嬉しそうだった。
日誌を書き終えて帰ろうとすると、先生が校門の前で待っていた。この寒空で、コートすら羽織っていない。それでも寒そうにはしていなかった。
先生は私へと歩み寄りながら、
「やあ、いじめてる奴は見つかりそうかい」
と尋ねてきた。
どうして知っているのかと私が聞くと、質問を質問で返すなと言われた。私は腑に落ちなかったが、何も分かっていないと答えた。
先生は、そうか、と呟き、
「私に、悪気はないよ。だけど、君はさっさと手を引くべきだ」
と私に忠告した。
私は、かぶりを振って笑った。
「今さら、なかったことにはできません」
「できないことはないだろう。全ては、君のさじ加減だ。やるかやらないか。早く手を切らないと、君はきっと嫌な思いをするだろう」
先生は、冗談を言っているわけではなさそうだ。表情も真面目だ。
つまり、先生は私のことを心配しているのだろうか。それとも、私がこの件に関わると、彼女にとって都合が悪いのだろうか。
「俺が関わると、先生が困るんですか」
「いや、私は困らないよ。嫌な思いをするのは君だ、と言っているじゃないか」
「じゃあ、いじめのことを知ってるのは、先生だけですか」
「ああ、私以外の教師は知らないだろう。かく言う私も、知ったばかりだ」
どこで知ったのか気になるが、恐らく教えてくれないだろう。この人は生徒と距離が近いから、その伝手で耳に入ったのかも知れない。
私は、先生の忠告には従わなかった。だが、それでも心に留めておくことにした。ひょっとすると、先生はいじめの首謀者に心当たりがあるのかも知れない。それが乱暴な連中で、私に危害が及ぶのを心配しているのかも知れない。私としても怪我はしたくないので、細心の注意を払って行動しよう。
先生の存在には触れず、春臣にも注意を促してやった。春臣は眉唾に思っていたようだが、それでも気をつけると約束してくれた。
大晦日が近づくと、部活が休みになって登校する必要がなくなった。三箇日が終わるまで、私と春臣はいじめについて話さなかった。私は殆ど家にいたが、春臣は他の学校の友達とも遊んでいたので、家を空けることが多かったからだ。