狂気に満ちた女の子
「あなたが千草さんですか?」
千草はねこ都のマンション前を散歩していると、ピンクのねこに声をかけられた。
耳には黒に近い灰色のラインがそれぞれ二本。
目は大きくて、かわいらしい。
千草はパッと見で自分より年下だなと感じた。
「そうだけど」
全く知らない人に声をかけられ、少し焦る千草。
ピンクのねこは黙ってこちらを睨んでくる。 何か、したのだろうか?
「そうでしたか。 私の名前はピオネクトです」
「ピオネクトさんか。 どこかで聞いたことある名前だね」
千草は誰から聞いたのかなと記憶を探り出す。
どこかで聞いたことがあったのだ。 そう、それは……。
「あさぎさんは知っていますよね」
「え? あ、うん」
千草ははっとした。 そうだあさぎから聞いたのだ。
ピオネクトというねこについて、あさぎは愚痴を零していた。
千草は思い出す。 あさぎはこのねこに何かをされていたのだ。
何をされていたか……。
と、彼は思い出した。
「あのねこ、殺していいですか?」
「ピオネクトさん、何を言って……」
ピオネクトのその赤い目は狂気に満ちていた。
絶対奴を殺さなくてはいけない。 そんな狂気に満ちた執着が赤い目から覗かせた。
千草は背筋が凍った。
「許せないんです。 私から紅さまを奪ったことが。 あいつさえいなければ私は紅さまと幸せになっていました」
紅。 千草はそれもどこかで聞いたことがあると感じた。
「紅って……確か、あさぎの元彼だったよね」
「そうです」
「なら、あなたは紅にとっての何なの?」
「恋人です。 紅さまを世界で一番愛している恋人です」
「どうして君があさぎと関係があるの?」
千草はおかしいと感じた。
「紅さまはあいつと別れた後、私と付き合いました。 ですが紅さまはあいつの身体が忘れられないと言います。 私のことを愛してくれないのです」
「ピオネクトさん……。 あの、あさぎは紅のことは」
「あなたには関係ないですよ。 では」
ピオネクトは帰っていった。
一体何だったのだろうか、千草には分からなかった。
しかし、千草は感じた。 あの狂気の満ちた目。 あさぎを殺そうとしている目をしていた。