第12話 「もふもふ」したい時に、「もふもふ」が出来ません
恥ずかしい……恥ずかしい。
どうしてこうなったのだろう……。
なんでだろう……泣くつもりなんてなかったのに……。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい……これからどうしよう。
昨晩のこと。
深愛は――悶々としていた。
泣いたことで、ラルフやキャサリンのとの出来事も少しは落ち着くことが出来た。
悩んだところで仕方がない。そう割り切れた――何故割り切れた?
たぶん、それはアルバートの言葉のおかげだ。
「それを私は知っていますから」
彼はそう言った。そして「本当の私」を知ろうとしてくれているとも。
その言葉が、深愛に勇気をくれた。もう一度、心を開いてみようという勇気を。
だが。その「副産物」が――これだ。
猛烈に恥ずかしい。居ても立っても……否。自分を消し去ってしまいたいほど恥ずかしいっ!!!
◆◆◆
コンコン。
部屋の扉がノックされる音に、深愛は全身をびくりとさせる程驚いた。
「ミア様。アルバートです。扉を開けてもよろしいですか? 」
あ……ああ……あああ……ああああ……アルバートだわ……。
どうしよ、どうしよ、どうしよ、どうしよ……逃げようかっ!?
抱きかかえていた枕を放り投げ、動揺し完全に狼狽えている深愛の思考がまともに働くわけがない。
ベッドから降り――部屋の中をウロウロウロウロ。
「……失礼いたします」
深愛からの返事がないことを心配したアルバートが、強行して扉を開けた。
「……何をされているのです、ミア様? 」
衣服は着替えてはいる。
だが両手を肘の高さで前に突き出し、両の手のひらをだらんと垂らしている。
それはまるで、深愛の世界でいう「おばけ」の格好だ。
それをアルバートが知っているかどうかは知らないが。
今の深愛は「挙動不審」に――見えた。否。「見えた」ではなく、「そのもの」だった。
「さ、さ、探し物よ」
ちゃんと話そうとしているのに。口がまともには動いてくれない。
「一緒に探しましょう」
アルバートがそう言って微笑む。
うわぁぁぁっ!! けして平穏ではない深愛の「心」が大騒ぎだ。
「いいいいいえ。だ、大丈夫よ。
そ、それよりアルバート。きょ、きょきょ、今日は髪型がち、違うのね」
いつもは灰黒の髪をオールバックにしているが、今日はそれをせず、前髪も額にかかっている。
「おかしいですか? 少し変えてみたのですが」
照れたように笑うアルバート。
それを直視した瞬間。深愛の心臓が、食道を逆流し、口から吐き出されるのではないか。というほど暴力的に暴れまわった。
「本当に大丈夫ですか?」
深愛の顔は――茹で上がったばかりと見えるほど見事に「真っ赤」。
そう言えば、呂律もうまく回っていないようだ。
昨日の今日で疲れているのかもしれない。
アルバートの心配は、尽きない。
「ミア様。今日の講義はお休みしましょう。
今日は一日ゆっくり休み、明日からまた始めることにいたしますので」
「そ、そうね。それは有難いわ……ええ」
やはり体調が優れないのか。と心配のアルバート。
だが深愛は――アルバートとふたりっきりになることが、「命取り」になりかねない程、心臓が興奮し、これはかなりヤバイ。
ふたりの思いはお互いにすれ違ってはいるが、「今日は休む」という結果は同じになった。
「そ、そう言えばミタリーやデューは今日はいないの? 」
「ええ。少し用事があると、ふたりで買い物に出かけております。
今日は私がミア様の身の回りのお世話をいたしますから。
ミタリー程お茶の淹れ方は美味しくありませんけどね……」
なんだ? アルバートがやけに優しい――ねぇ。勘違いしちゃいそうだよぉ。
その笑顔も……心臓のバクバクが止まらないぃ。もふもふしたいぃっ!!
でも「もふもふ」要員が二人揃っていないなんてっ!!
結局――アルバートを二人きり。
何も変わりはしない。むしろ事態は悪化したような……。
そうだ。こういう時はお話をして気持ちを落ち着けよう。
深愛は思い立ち、乱れているベッドのシーツを直しているアルバートに声をかけた。
「ねぇ、アルバート。
よくデューがアルバートのことを「アル」って呼んでいるけど……二人は仲がいいのかしら? 」
「そうですね。幼馴染みですよ。
デューはああいう性格ですから。「アルバート」という名前でも長すぎると言いますから。
……ああ、そうですね。
今度はミア様も私のことを「アル」と呼んでくださるととても嬉しいです」
あああああ。どうしよう……。
終始笑顔のアルバート。それも愛称で呼べ――と。
昨日の今日……。気持ちがおかしくなりそうだ。別な意味で。
深愛の心の動揺は、収まる気配をまるで見せない。
「あ……「アル」と……?」
「ええ。そうやってお呼びください。とても嬉しいですよ、ミア様」
そう言ってニッコリを微笑むアルバート。
人付き合いが苦手な深愛が、いきなり自分からそう言われても戸惑っているだけだろうが。
それでも少しずつ。少しずつ――溶け込んでいかれたら。と、アルバートは考えている。
ミタリーやデューがいたら、事態はもう少し変わったのだろうが。
この日一日。深愛の調子は狂いっぱなしで――アルバートが親しみやすいようにとやればやるほど、深愛の行動がおかしくなる。そんな悪循環が続いていた。が。
アルバートが、その最大の原因に気がつくことはついに出来なかった。




