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身蝕者  作者: 村田鉄則


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2/2

 先日、喫茶店で気を失った、あの友人は意識を取り戻し、何も身体の内には異常は認められなかったので、退院した。しかし、恋人に起こったできごとが余程ショックだったのだろう。彼女は、休学して自宅療養のため、実家に帰った。

 グループ発表は、発表準備をサボっていたメンバーたちをどうにか集め、短い時間ながらも相談し、なんとか形にできて教授を納得させることができた。

 グループ発表のリーダーであった彼女が不在の中、コミュ障ながら私は自分の持てる力を全部費やした。ってか、レジュメ作りやパワポ作りは私がほぼ全てやっている。そのため、グループ発表当日には、かなり身体全体に疲労が溜まっていた。

 そのため、私は自宅に着くやいなや、帰宅を告げる挨拶もせず自分の部屋に向かった。

「おかえり~」と母の声が聞こえたが、声を返す気力が無く、無視して突き進む。

 もちろん行き先はベッドの上だ。

 いますぐにでも寝たかったのだ。

 布団の中に入ったからだろうか、グループ発表の準備に追われているときには思い出さなかったのだが、ふと、彼女の彼氏が布団にうずくまっていたことを思い出した。彼が見た夢の詳細はわからないが、目が無い自分を夢の中で見たことで彼氏は失明したということだ。

 私は、そんなことを思い返したがために少し寝るのが怖くなった。

 そのとき、

「どうしたの?何も言わずに部屋に行って。体調でも悪いの?」

 母が私の部屋にノックもせず入ってきた。

「いや、嫌なことっていうか、ゼミの発表で疲れただけ」

 私はベッドに入ったまま、そう返す。

「まあ、それならいいんだけど・・・最近、周りで病気が増えてるから、心配で」

「どういうこと?」

 私がそう聞き返すと、

 母は、私を一瞥したかと思うと、言いにくそうに目を伏せた。

 そして、しばらく間が空いた後、口を開いた。

「お母さんのお兄ちゃんが突然、強烈な頭痛で倒れて病院に運ばれたの知ってるよね」

「うん」

 先日、母の兄が救急車で運ばれたことは知っている。しかし、すぐ退院したと聞いていた。ので、深く聞くことはしなかったのだった。

「お義姉(ねえ)さんには、期末試験の勉強の邪魔になるから、あなたには言わないようにって釘を刺されたんだけど、もうこれを自分だけで抱えるのは、我慢できない。あれ、実は・・・突然の頭痛で倒れた後、()()()()()()()()()()()()()()()のよ」

 私は、その言葉を聞いた瞬間、目を見開いた。

 似ている。

 あの彼氏の件と。

 母は、そこから長い話を始めた。

 まるで、AI読み上げボイスのように淡々と。


  ※※※

 私は、お兄ちゃんが病院に運ばれたとき、お義姉さんから電話で知らせを受けて車を走らせたの。

 総合病院に着くまでには片道2時間は、かかった。

 お兄ちゃんは、検査の結果、緊急治療は必要ないと判断されて、ICU近くの病室に移動してた。一般病棟に移る前の病室ね。

 私が病室に入ると、お兄ちゃんはわざわざ遠くから来てくれたことが嬉しかったみたいで、私を見るやと、すぐに笑ってた。お兄ちゃんの様子は、見た感じ、無事そうだったし、私は安堵の吐息をもらしたの。

 けれど、何か違和感があった。私が話しかけても、時折、無視することが多かったの。お兄ちゃんはまだ54。私と2歳しか変わらない。耳が遠いわけないじゃない?しかも、隙あらば「自分の耳が無くなる夢を見たんだ」って言うの。どういうこと、って感じ。やがて、病室にお医者さんと義姉さんが一緒に現れた。

 二人とも表情が強張ってて、私が挨拶しても最初は無視してた。

 お義姉さんは、私がいることに途中でハッと気づいて、軽く会釈をしてくれた。けど、お医者さんはじっとお兄ちゃんの様子を見てるだけだった。私がいることなんて気にしてない感じで。

 お兄ちゃんはその後、様々な検査を療法士さんやら検査技師さんやらから受けてた。私たちは邪魔になるから、その日はもう、お兄ちゃんの家に行ったの。私は泊まることにした。運転疲れもあるし、お兄ちゃんの症状のことが不安で、精神的な疲れがあるしね。

 夕飯を一緒に食べているとき、お義姉さんが話してくれたんだ。

 お兄ちゃんが倒れたのは深夜2時だったらしい。突然、お兄ちゃんの部屋からベッドから飛び降りた音がして、その隣の部屋で寝ていた義姉さんが起きて、寝ぼけ眼で様子を見に行ったら・・・

 暗闇の中、お兄ちゃんはベッドの横で、三角座りになって、前後に揺れ続けていたらしいの。ゆりかごが揺れてる様子に近かったんだって。

 「どうしたの?」と話しかけても、こちらの意図は読み取れず、ずっと、揺れながら「無くなった耳が夢で」と呟いていた。意味がわからないよね。

 お義姉さんはすぐに119番を押し、状況を説明し救急車を呼んだ。なにか発作のようなものが起きていると思ったのね。

 救急車が来るまでお兄ちゃんのそばで居たんだけど、お兄ちゃんが急に三角座りの姿勢をやめたらしいの。そして、仰向けになったかと思うと、すぐにお兄ちゃんは頭を抱え苦痛の表情を浮かべ始めた。

 救急車がたどり着いた頃にはお兄ちゃんは気を失っていたらしいわ。


 次の日、私とお義姉さんが診察室に向かったとき、お医者さんが居て、深刻そうな表情を浮かべていた。

 お医者さんは、三つ受けた聴力検査の結果から、お兄ちゃんに突発性難聴に近い傾向が見られること、病院で覚醒した直後と今ではお兄ちゃんの聴力レベルが悪化していること、耳鏡検査や神経所見やMRI検査の結果、メニエール病や聴神経関連の難聴でも無いらしいことを伝えてくれた。

 

 まあ、いわゆる突発性難聴に近い症例らしいけど、突発性難聴は徐々に悪化することは無いらしいのよ。あと、突発性難聴はそもそも片耳だけに起きるから。両耳とも聞こえないのはおかしいし。だから、突発性難聴に近い何かでしかないの。本当に謎の病。ステロイドとかビタミン剤とか服用する治療が検査した日から始まったんだけど、効果は無く・・・


 現在は、全く両耳が聞こえない状態なの。

 原因は何だろうと思ったんだけど、私が思うに・・・

 夢。

 そう、夢。

 絶対、倒れる前にお兄ちゃんが見た夢のせいに違いないの。

 

   ※※※ 

 

 そう結論づけた母は、夕飯の支度に戻った。

 こんなとき、父が居たら心強いのに、と私は思うのだった。

 この家で今、母を支えられるのは、私しか居ないのだ。

 

【参考文献】医療情報科学研究所(2020) . 『病気がみえる vol.13 耳鼻咽喉科 第1版』 .メディックメディア .


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