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身蝕者  作者: 村田鉄則


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1/2

 元々ホラー長編賞に応募するつもりでしたが、文字数が絶対足りなさそうなので、ここで投稿します。

 私の友人の彼氏が先日、糖尿病になった。その彼氏は社会人なのだが、二ヶ月ほど前に受けた会社の定期健康診断の結果も正常で、病気の前兆も何もなく、突然のことで友人も驚いているらしい。正常だったHbA1cや血糖値 が、わずか二ヶ月で悪化することがあるのだろうか。

 担当している医者も見たことがない症例で頭を抱えているらしい。

 最近、こういった突発的な病気が私の周りでは広がっている気がする。


「本当、いきなりすぎたね。彼氏って20代前半だっけ。若くても、いつ病気になるかわかんないんだね・・・」

 大学近くの喫茶店で、私は、その件の友人と話をしている。彼女と私は同じ薬学部に所属していて、ゼミも一緒だ。グループ発表が近いので、ここに集まったのだ。

 学部柄、少し病気の詳細が気になっていたので、私は彼女に糖尿病の話を振ったのだった。

 しかし、彼女は、口を噤むだけだった。

 沈黙が続く。


「大丈夫?」


 数分後、私がそう呼びかけると、張り詰めた心の糸が切れたのか、突然、彼女は、とめどない涙を流し始めた。私がすぐに、ティッシュを渡すと、それで顔と鼻を拭いた。

 その後しばらく経って、気が落ち着いたのか。固く閉じていた口を(ひら)き、彼氏に何が起こったのかについて、訥々(とつとつ)と語り始めた。

 誰か他の人に無理矢理口を操られているような感じであった。それは、まるで、イタコが霊を自らの身体に降ろしてきたかのようだった。

 さらに気がかりなのが、声に人間らしい抑揚というものが無かったことだ。


 ※※※


 彼は、夢を見たの。怖い夢。

 あの日、彼の泣き声を聞いて私は起きたの。

 起きて目の前を見ても横にいたはずの彼がいない。

 もしや、と思い、掛け布団をのぞき込むと、中でうずくまって泣いてた。

 裸だったのと、大人げなく泣き叫ぶ声とで、その様子がお腹の中に居る赤ちゃんのようにも見えた。


 私は、彼に、大丈夫?って声をかけた。

 けど、無視。ずっと・・・泣き続けるばっかり。

 しばらくすると、私を抱きしめてきた。

 一瞬、身体を求めてると思ってたけど、違った。

 それは、不安だから母親に抱っこされたいというような生物的な欲求みたいな感じだった。彼、震えてたし。


 どうしたの?って聞くと、彼はこう言った。


「目が無い、んだよ、俺の夢。夢の俺が夢」


 私は正直、彼が何を言っているかよくわからなかった。

 そんな私をよそに彼が私を抱きしめる力は、どんどん強まっていった。

 苦しい、と私が述べても彼は止めようともしない。

 何かおかしいと思った私は、彼を持ってる力全てを使ってどうにか振り払い、すぐにベッド脇のソファに置いてあったスマホを手に取り、警察を呼んだ。

 今思い返すと、ひどい話だけど、私は彼が薬物をやってるってそのとき思ってた。

 だから、呼んだのが救急車じゃなくて警察だったわけ。警察にもその旨を伝えた。

 電話をかけた後、ふと、ベッドの方を見ると、また、彼は布団の中でうずくまっている様子だった。


 その後、警察が来たけど、当たり前だけど、私の下宿に薬なんてなかった。

 結局、いろいろ話あって、救急車で彼は全裸のまま運ばれた。

 それから数日たったけど、病院の看護師さんの話では、彼は、まだ気が気でない状態で、「目が無い俺の夢」ってぼやき続けてるらしいの。

 よくわからないよね?

 彼は検査の結果、糖尿病だった。まあ、ここはLINEで話したね。

 で、これは・・・これは・・・言ってなかったけど、彼氏は、《《発症したその日に失明したのよ》》。こんなの言えるわけないじゃない。おかしいって思われるもん。前日まで元気にデートしてその後、私の下宿のベッドの上で身体を交えたんだよ。脳梗塞とだったらまだわかるよ。だって糖尿病だよ。いきなり発症するわけないじゃん。目が見えなくなるのだって、あれはどんどん身体が蝕まれてく結果であって、前兆があるんだよ。意味がわからないよ。本当。


 ※※※


 彼女はそう述べた後、頭を抱え、大きな声で泣き叫んだ。そして、目の前の机に突っ伏し始めた。

 皿に載ったケーキが彼女の顔で潰れる。

 だが、彼女はそんなこと全く気にしていない様子だった。身体を震えに震わせ、その泣く声は脈々と続き、(とど)まることはない。

 私は、すぐさま立ち上がり、彼女の身体をさすり、大丈夫だからと何度も呼びかけた。が、彼女の感情の高ぶりは全く収まらない。彼女の金切り声が、ずっと耳朶に響き、蝸牛神経を通って、私の心を、脳を、蝕んでいく。


 私は、いつの間にか、気が途切れ、ぼうっと彼女の背中を見て立ち尽くしていたらしい。


 気づいたときには、喫茶店のマスターが心配して駆けつけて彼女を介抱してくれていた。彼女は興奮のあまり、失神して倒れていたのだ。

 気を取り戻した私は、状況を鑑みて、救急車を呼んだ。

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