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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第三章
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第七十話 人でなし

「人を殺す……か。なんでまたそんな事を」


「仕事中の君を見るのは初めてだからね。なんとなく聞きたくなったんだ」


(ろく)でもない答えしか出ない事くらい分かってるだろうに……って、ん?仕事中??なんでお前それを」


「だって君、さっきまで何かと戦ってただろ。明らかに君の魔力が減ってる。自由時間っていうのも嘘で、本当は今も仕事の最中だったんだろう?今更僕に隠せると思ったかい」


「ははっ、よく見てるじゃん」


まさかそこまで見られていたとは思わなかった。さすがは序列七位だ。


「ちょっと面倒な事が起きててな。まぁ海礼祭までにはなんとかするよ」


「そうか。僕に手伝える事とかあるかい?」


「無くはないが、わざわざお前の手を借りるほどじゃない。お前は気にせずアイツらと一緒に観光を楽しんでたらいい」


「君がそう言うならそうさせてもらうが…………それで、さっきに質問は答えてくれるのか?」


「…………もう一度言うが、碌でもない答えしか出ないぞ。少なくとも旅行中に聞くような事じゃない」


「構わないよ。ただ君の価値観が気になってね」


「へぇ、価値観か」


「君が気づいてるか知らないけど、君の価値観はかなり特殊だ。満場一致で誰もがそう言えるほどに変わっている」


「それは自覚してるよ。なんか周りとズレてるんだろうなぁとは思う」


学園に入学してから多くの人と関わってきた。

生徒、教師、平民、貴族、王族、犯罪者、その他諸々。様々な人間とその者の価値観に触れて、改めて自分の価値観に立ち返った時、自分は少しズレてるのかもしれないとは思った。


「正直、俺からしたらどうでもいい。価値観なんて千差万別なのが当たり前だ。人によっては俺の価値観を異常だと指摘したり、『何か特別な経緯があったんじゃないか』とか言うが、そんな面白い過去は俺にはない。()()()()()なんだよ。俺の価値観は」


「生まれつきなのか?」


「ああ。昔から傷つく事にも傷つける事にも抵抗がなかった。人を殺しても『あぁ殺したな』としか思わない。特別な感慨も後悔もない。ただ殺したという事実が残る、それだけだ。例えるなら……ほら、いるだろ。生まれつき虫を抵抗なく殺せる奴と、触れることすら嫌がる奴。それと同じだ」


「同じ……なのか?」


「同じだと思うぞ。虫を触れる奴と触れない奴。当人の過去の経験がそこを分ける事もあるだが、ほとんどは生まれつき、気づいたらそうなってるものだ。殺しも同じなんだよ。殺せる奴は殺せるし、殺せない奴は殺せない。至極単純な理屈だ。まぁアリシアは言っても納得してくれなかったけどな」


「確か、前にアリシア様に本気で説教されたって言ってたね」


「あれはヤバかった。依頼で敵を殺しても最初はまだ状況的に仕方ないって許されてたんだけどな。三回目か四回目かで遂にお咎め食らって、一時間くらいガチ説教されたよ。依頼の邪魔だから殺しただけなんだけどなぁ。合計しても精々三十人程度だし。怒られてからはマジでどうしようもない時だけ殺すようにしたけど……めんどくさいったらありゃしない」


「殺す方が君にとっては楽なのか?」


「楽だな。生かしたまま倒すとなると、使える手札が大幅に減る。威力や攻撃する箇所も絞らないといけない。要するに常に手加減が求められるってわけだ。一度人を殺せばその違いがよく分かる」


「そういうものなのか」


「そういうモンだ。お前らは殺しを難しく考え過ぎなんだよ。殺しなんて自然界じゃ当たり前の行為だ。一々騒ぎ立てるような事じゃない」


どうでも良さそうに言って、アランは空を見上げる。その表情からは全く罪の意識が(うかが)えない。


「それだけ価値観が違うのに、よくアリシア様と仲良くできたね」


「仲良くなったのは序列戦の後にアリシアが言い出した事がきっかけだからな。互いの価値観のズレを知ったのもその後だし。そのせいで多少のいざこざは起こるが、今更縁を切るほどじゃない。何度もアリシアと鬼ごっこしてる身としては尚更な」


「君の反抗精神は本当にどうかと思うよ……」


ガチ目に引いてるリオだった。


「まぁ答えられるのはこんな所だ。俺は誰かを殺しても何とも思わない人でなしだが、そうじゃないなら人は殺さない方が良い。きっとそこには越えてはいけない境界がある」


それは境界の向こう側に立つ者なりの忠告だった。

アランとリオの価値観が違うように、一度境界を超えたが最後決して埋められない隔絶ができる。

命の価値や殺す事への抵抗感。外してはいけない人としてのリミッターが外れてしまうのだ。


「…………もしもの話だが」


言うべきか否か、悩んだ末に言葉を吐き出す。


「もし……君が僕らを殺したら、君はどう思う」


「………今日は変な質問が多いな」


「自分でもらしくない質問だと思う。ただ勘違いはしないでほしい。これは決して君への信頼が薄れたことの表れというわけじゃない」


「言われなくても良く分かってるさ。入学時から寮でお前のお隣さんをやってきた身だ。お前の心情くらい理解できる」


故に彼は言葉を返す。


「仮にお前らを殺したとして、俺がどう思うかは、その時になってみないと分からない。それでも一つ、確信を持って言えるのは……」


リオに顔を向けながら、




「…………俺は、お前らを殺す事なんて考えたくないよ」




心底嫌そうな表情で、人でなしはそう言った。


「……そうか、妙なことを聞いてすまない。お詫びと言ってはなんだけど、この後行くレストランの代金は僕が出すよ」


「マジで?やったータダ飯だー!答えた甲斐があったわ!」


「さっきまでの調子はどこ行ったんだ……」


一気にいつもの明るい雰囲気に戻ったアランにリオが困惑していると、アクセサリーショップからフィアラたちが出てきた。


「待たせたわね、二人とも。そろそろ行きましょう」


そうして再び彼らはレストランへ向けて歩き始めた。

フィアラたちは先程の店で買ったアクセサリーを早速身に付けている。アクセサリーなどに慣れが無いアシュリーは微妙な顔をしているが、不満という訳ではなさそうだ。


「フィアラ、この後行く店ってどんな場所なんだ?」


「あの店?なんでも有名な郷土料理があるらしいわよ。それ以外にも人気のデザートがあるらしいし、とにかく気になってたのよね!」


「そうか。それは楽しみだ」


「アランも連れて行けて良かったわ。そう言えば、アランはいつまで遊んでいられるの?」


「…………」


「アラン?」


「っえ?ああ、悪い聞いてなかった」


「もう、考え事?頭脳派だからって四六時中頭を使うこともないでしょ」


「流石に俺も四六時中考え事してるわけじゃねぇよ。で、何が聞きたかったんだ?」


「いつまで貴方は遊んでいられるのかについてよ」


「いつまでか……あと一時間半くらいは遊んでられるよ。その後は用事あるから」


「短いわね……まぁ貴方は遊びに来てるわけじゃないし。仕方のない事ね」


「でもアランって皇城に泊まってるんでしょ?そこで美味しいご飯とか出ないの?」


「確かに!実際どうなんだアラン」


「そりゃ皇城だし、美味い飯は出るぞ。ベッドもふかふかで快適だ」


「うわっ、なんかズルい」


「その代わり皇城の中だとほぼ常に礼儀作法に気を使わないといけないからな。結構ダルいぞ」


「急に可哀想になってきた」


「どっちなんだよ」


羨んだり憐れんだり、アシュリーの感情はコロコロ変わる。


「あーあ、俺も休みを満喫したかったよ」


「力を持つ者は大変ね」


「絶対俺より向いてる奴いたと思うんだけどな。なんで平民出身の奴を他国のすごーい祭典に出席させようと思ったんだ。うちの国王は」


「まぁ良いじゃないか。それだけ君が評価されてる証拠でもあるわけだし。僕だって出来るならそれくらい評価されたいものだよ。本当に君たち『学園最高戦力者』は桁外れだ」


「例年通りに考えたら、リオやロベリア・クロムウェルくらいの実力が学年トップになるからな。本当にボクらの代は異常だな」


「むしろリオって今の三年生の学年最上位者より強い説あるんじゃない?」


「流石にそれは無いよ……」




***




約一時間半後……。


「じゃあ俺はそろそろ行くから。お前ら観光楽しめよー!」


「君も色々頑張れよー!」


時間が来たという事で、アランはリオたちと別れた。

ここからは仕事の時間だ。次なる敵拠点の候補地へアランは向けて歩き出す。


(はぁ……行きたくねぇ)


出来るなら今日一日ずっと彼らと遊びたかったが、そういう訳にはいかない。

海礼祭まで今日を含めて三日しか残っていないのだ。今日中に拠点候補を周って情報を集め、明日には首謀者の素性を確定させる。遅くとも二日後には捕える寸法だ。

かなり無茶だがやり切るしかない。リオたちがここに遊びに来ているなら尚更だ。

友人の休暇を守るために頑張るのも悪くない。


「…………ああ。そうだな」


そこで改めて認識する。

リオもアシュリーもフィアラもレオンも、俺にとって掛け替えの無い友達だ。それは心の底から断言できる。

一緒にいて楽しくて、幸せで、叶うならこれからも彼らと仲良くしていたい。

だから間違っても彼らを殺すなんて真似はしたくない。

そう、したくないはずなのに────。


(最低だな……俺は)


心底嫌になる。自分の価値観を憎んだのはこれが初めてだ。

リオには『その時にならないと分からない』なんて言ったが、あれは嘘だ。答えは既に分かっている。






大切な友人を殺すことになったとしても─────俺は涙一つすら流さず、躊躇なく殺せてしまうだろう。

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