第六十八話 まさかの邂逅
スライムは巨体を震わせ、体の一部を棘にしてアランへ放った。
元が液体でも当たれば一大事だ。横へ飛んで回避するが、そこへさらに棘が放たれる。
「《身体強化》」
床を蹴る。強化した脚力により、一蹴りでアランは壁際まで飛び退いた。
アレは核を持たない特異なスライムだ。普通のスライムには無い特殊な能力を持っている可能性もある。油断は禁物だ。
(まずは観察……色々試してみるか)
飛来する棘を飛び退いて回避する。次いで唱えた雷魔法にて雷撃を撃った。狙ったのは回避した棘だ。
棘は雷撃に貫かれ、爆散した。どうやら攻撃は通じるらしい。
しかしスライムは痛覚を持たない生物だ。体を破壊された事に反応を示すことなく、スライムはアランに触手を放つ。
「おっと」
触手を跳躍して回避し、さらに様々な属性の魔法を放つ。
火属性と水属性の魔弾、風属性の斬撃、氷属性や土属性による束縛など。
相手が液状である事から分かっていたが、やはり火属性と水属性の効き目は微妙だ。だがそれ以外は問題なく通用した。
(後は倒し方だな。どうすれば奴を殺せるのか……)
駆けるアランの背後に鋭利な触手が降り注ぎ、行く先々に触手が鞭のように薙ぎ払われる。
軽い身のこなしでアランは回避し続ける。変幻自在の攻撃とは言え、所詮は本能任せの単純な攻撃。
今更この程度の攻撃に当たるアランではない。
対するスライムも全く倒れる気配を見せない。何度魔法で攻撃しても、すぐに体が再生する。
「チッ……面倒くせぇ」
床に降り立ち、息を整える。
何度破壊しても再生されるだけだ。だがあのスライムには核が無いどころか、魔力が尽きる気配もない。
核はスライムにとって生命源であり、同時に魔力の生成機関でもある。
核が無ければいつか魔力は尽きる。このような戦い方をしているなら尚更だ。
それでも死なないという事は、つまり───。
「やっぱりあのスライム、外部から魔力供給を受けてるな」
その根源はまだ特定できない。そうなるとスライムへの魔力供給を断つことは難しい。
根を断てないなら、ここは木を丸ごと焼き払うしかない。荒技だがやるとしよう。
「─汝、その禁に触れるべからず。其は万象を蝕む原初の理。全てを否定し、全てを絶やす。我が身は孤独を歩むものならば─」
アランはスライムへと突貫した。
正面からはスライムが触手を何本も放ってくる。巧みな体捌きでそれらを回避しながらも、瞬く間にスライムとの距離を詰めていく。
「─咎人よ、ここに眠れ。我が法威を以て、永遠の安寧を齎さん─」
それは魔法の範疇を超えたナニカ。
多くの知識と圧倒的な魔法技術を持つアランにしか扱えない、アランだけの究極の魔法。
スライムの目の前、自身の射程圏内に飛び込んだ瞬間、アランは右手をスライムの体に突っ込んで──。
「《原始回帰・崩魂瓦解原法絶権》」
直後、スライムの体が消滅した。
それは一瞬の出来事だった。魔法を発動した瞬間、スライムは粒子となって消し飛んでしまった。
「はぁ……久しぶりに使ったから疲れたな」
額の汗を拭う。今回は情報不足故に乱暴な手段を取らざるおえなかった。
まずは準備が必要だ。再びあのスライムと遭遇した時のための対策と、スライムを足掛かりに敵の居場所を突き止める方法を考えなくてはいけない。
(にしても……結局何だったんだ?あのスライム)
核無しで命を維持し、大量の魔力を操る。仕組みとしてはリデラの炎霊と似たようなものだ。
あのスライムは誰かに作られたものに違いない。そしてそれが出来るという事は、相手は聖裝士か魔装士のどちらかだ。
(つまり敵は最低でも二人以上。精神干渉が出来る奴とスライムを作れる奴。まぁスライムを作るのが全てなんて事は無いだろうけど)
スライムを作ったのはあくまで能力の一環だろう。そのスライムを何かしらの方法でトラップとしてこの部屋に潜ませていた。
先程の本と言い、スライムと言い、明らかに相手はこちらがこの場所に来ることを想定している。
「想定されてる場所に手がかりなんて残すわけないし、これ以上ここにいるだけ無駄か」
調査を切り上げたアランは地下室を去った。
向かうは次の拠点候補地。残っている候補は十七箇所あるが、どれだけ的中するだろうか。
***
その後、続けて三箇所の候補地を巡った。
最初の二箇所はハズレだった。目ぼしい物も無ければスライムもいない、本当にただの空き地だ。
だが三箇所目は当たりだった。
再びスライムと遭遇したので、今度は倒し方を変えてみた。
「《氷天絶爪》」
武器型魔導器『波零剣シモナギ』、氷属性に特化した蛇腹剣。
伸長した刃を振り回してスライムを氷漬けにし、さらに刻んで粉砕した。
戦っていて分かったが、このスライムは体のほとんどが海水で出来ている。正確には魔力で海水を再現しているのだろう。
故に温度によってはスライムを凍らせる事も、蒸発させる事も可能だ。
「《劫斬炎舞》」
凍ったスライムの断片が散らばった瞬間に、もう片方の手に持った武器型魔導器『劫刀カグラ』に魔力を込める。
完全な状態のスライムを蒸発させるのは難しいが、ここまで体積を小さくした断片であれば容易だ。
炎を纏う『劫刀カグラ』で片っ端から断片を切り、蒸発させた。
「……よし、これでひとまずオッケー」
二つの魔導器を『虚空の手』に収納した。
目の前には一つだけ凍ったスライムの断片が落ちている。敢えてアランが残したものだ。
(久々に使うけど、上手くいくかな……)
『虚空の手』からある物を取り出す。
それは注射器のような物だった。氷漬けになったスライムに針を刺すと、上部のシリンジを押した。
針を伝って中に青い液体が入ってくる。これはスライムの魔力だ。
この注射器のような物は打った相手の魔力を抽出できる魔導器だ。抽出とは言っても少量なので、戦闘で役立つことは無い。
抽出した魔力の使い道は色々ある。アランはこの魔力からスライムの生成者の居場所を特定しようとしていた。
(さすがにちょっと少ないな……この魔導器〈共振方式〉だから、これだと発信源の魔力を拾いきれないか)
抽出した魔力と発信源となる魔力を反応させ、発信源の位置を特定する。原理としては磁石と似ている。
自分の磁石と相手の磁石を引き合わせる事で、相手の磁石がある方向が分かる。だが遠距離で磁石を引き合わせるには、それ相応の磁力が必要になる。
遠くの魔力の発信源を拾い上げるには、それと同じ魔力をこちらも多く集めなくてはいけない。
「次は多めにスライムを残すとするか……」
注射器を『虚空の手』に収納すると、足元の凍ったスライムを炎魔法で消滅させた。
これでここの調査も終わった。建物の外に出ようとして、ふとアランは気づく。
「……お腹空いたな」
思えばもう昼時だ。そろそろどこかで昼食を摂るべきだろう。
建物から出たアランは街に向かった。
皇都なら大体なんでも食べれる。また贅沢な海鮮料理でも食べようか。
考えながら人通りの多い街を歩いていた───その時。
「…………ア、アラン?」
後ろから誰かに名前を呼ばれた。
男の声だった。それも若い。
リフレイムに知り合いなど数える程度しかいないが、一体誰が──。
「…………え?」
そこにいたのは一人の少年。
美しい青髪と青い双眸。そして女子人気の高い整った顔立ち。
装いは学園の制服と違って私服だが、それはそれでいつもと違う味がある。
彼の事はよく知っている。学園に入学してから今まで数え切れないくらい顔を合わせてきた。
この少年は───。
「え、は……え?リ、リオォォォォォォッ!!?」
「なんで君がここにいるんだぁぁぁぁぁ!?」
アランの友人の一人。
学年実力序列第七位、リオ・ロゼデウス、その人だった。




