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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第三章
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第六十七話 滲み出る不穏

朝食を摂った後、早速アランはフィーネの部屋に来ていた。


「さーて、今日は何をするかね皇女殿」


「何よその呼び方」


「せっかくなら親しく行こうかと」


「ッ!やっぱり貴方、私の使用人に……!」


「ならないよ?そこまで行ってないからね?」


「貴方って人の気持ちを弄ぶのが趣味なの?」


「なんでそうなった」


たった一つの言葉で評価落ち過ぎだろ。


「俺の友達にあらゆる者を渾名(あだな)呼びする奴がいてな。ソイツに(なら)って言ってみただけだ」


「面白い友達がいるのね。ちなみに、その子だったら私をどう呼ぶのかしら」


「どう呼ぶんだろうな……フィッチ?フィーネッチ?リフレッチ?」


「語呂悪いわね」


「アイツは語呂を問わずに人を『〇〇ッチ』って呼ぶからなぁ」


本当にシエルの考える事はよく分からない。


「そう言えば今更だけど、アンタは友達とかいないのか?」


「私は……その……あまり……」


「あ、すまん。今のは忘れてくれ」


「友達がいないって訳じゃないわよ!ただ私は貴方みたいに学園に通ったりしてないから!同年代の相手と関わる機会が無くて、ずっと友達がいないってだけだから!」


「こんなすぐに矛盾した事言う奴初めて見たよ」


「あ……」


自身の失言に気づいたのか、フィーネは口を手で覆い隠した。


「……やっぱり良くないわね。感情的になると(ろく)な事にならないわ」


「良いじゃないか、これくらい。アリシアだって友達ほとんどいないし」


「貴方あの人を呼び捨てにしてるのね……アリシア・エルデカの騎士じゃなかったの?」


「あーそれは色々と訳があってな」


さすがにこの状況でアリシアと友達っぽい関係にある事は言わない方が良いだろう。フィーネに追い打ちをかけかねない。


「まぁ貴方達が本物の主従関係に無い事は大体分かってたわ。そもそも学生だしね。そういう時期じゃないもの」


「アンタはこの歳でもう皇女としてのアレコレに専念してるんだな」


「確かにそういう事もしてるけど、私だって勉強はしてるわよ?皇族お抱えの講師が来て、それで色々と学んでるわ」


「ふーん。家庭教師みたいなモンか」


「そうなるわね。でも、そう考えたら少し貴方達が羨ましいかも」


「どうしてそう思う」


「さっきも言ったけど、私は同年代と関わる機会が無いから、気兼ねなく話せる相手が少ないの」


「少ないって事は、誰かしらはいるのか?」


「ええ、一人だけね。オルレア・ロースタッド、私の専属使用人。貴方も昨日会ってるはずよね?」


「あぁ、会ったな。あの人とそんなに仲良いのか?」


あまりオルレアさんがラフな態度を取ってるイメージは出来ないが。


「仲が良いって言うのかしらね。どちらかと言えば、私が一方的に話したい事を話してるだけな気がするけど。彼女に迷惑に思われてないか、ちょっと不安になる時があるわ」


(多分大丈夫だと思うけどな〜)


昨日話した感じ、オルレアさんはフィーネに悪い印象を抱いている様子は無かった。普通に『面白い(かた)』って言ってたし。


「フィーネはどうやってオルレアさんと知り合ったんだ?」


「元から皇城の使用人だったのよ。ロースタッド家はそういう家系だから。その中でもオルレアは聖裝士だからね。護衛も兼業してたの。皇国騎士団の指南を受けてた時期もあったらしいわ」


「色々経験してる人なんだな」


「その分とっても優秀な人なのよ。我ながら良い人材をスカウトしたわ!」


「よくスカウトできたな、そんな人を」


「そこは皇族流の交渉術ってヤツよ。まぁ大した事は何もしてないけどね」


「ふーん。皇族にも金と権威以外の交渉手段って存在するんだな」


「あるわよ、それくらい。貴方皇族を何だと思ってるの」


「俺の理解も及ばないような身分のお偉いさん」


「変わった答え方するわね……」


実際、山育ちの俺からすれば王族や皇族なんて程遠い身分だ。少なくとも自ら関わろうとは思わない。

学園でも元々はアリシアと関わる気なんて全く無かった。アイツから声をかけて来なかったら今でも関わりは無かっただろう。


「王族や皇族なんて怖くて関わりに行けねぇよ。関わっても良い事無いし、むしろ何かしらの地雷を踏む可能性を考えれば、無関係でいた方が俺みたいな平民にとっては賢明だ」


「一般家庭なの?貴方の出身って」


「そうだぞ。エルデカ王国のウィーリンって街に住んでる平民家庭アートノルト家に生まれた一人っ子だ。ちなみに母さんは専業主婦、父さんは工房で働いてる」


という設定だ。学園入学のために師匠が俺の身分として用意した偽りの人生。

そもそもアートノルトという名も入学前に師匠が適当に考えた偽名に過ぎない。俺の名前はアランだけだ。


「貴方のご両親がどんな人なのか気になるわね」


「母さんは普段は優しいけど怒ると怖いタイプだった。父さんは仕事熱心な人だったけど、酒癖が悪かったな。(たま)に二日酔いして母さんにこっぴどく怒られてた。その度に平謝りする父さんが見れて面白かったよ」


「本当に平和な家庭ね」


よし!騙せたな!


「その状況からどうしたら貴方のような聖装具を使わない異端者が育つのかしら」


「それについては聖装具に原因があるから。俺も両親も関係ない」


「異端者としての戦い方を貫徹してるのは貴方の意思でしょう」


「そうなんだけども」


俺だって出来るならこんな真似したくねぇよ。なんもかんも聖装具が悪い。


「病むに病まれぬ事情があったんだよ。なるべく詮索しないでくれると俺としては嬉しい」


「そこまで言うなら聞かないでおくわ。今はね」


「後で聞くのかよ」


「貴方の信頼を得られた時にでも聞かせてもらうわ」


「そうか。じゃあ是非とも頑張ってくれ」


一切の期待が込もってない発言と共に席を立つ。そろそろ行くべき時間だ。


「もう行くの?」


「ああ。十分のんびり出来たからな。後は仕事の時間だ」


「そう。なら頑張ってね。私に出来ることなんて無いと思うけど、知りたい事とかあったら教えるから」


「それはありがたい。なら次来る時までに質問を考えておくよ」


そうしてフィーネの部屋を出ると、皇城の廊下を左右を見る。誰もいない事を確認すると軽く伸びをした。


「ん──っしょ。とりあえず向こうの信頼は得られたって感じかな」


最初からあれこれ質問してもフィーネも困るだろう。ある程度信頼を得て、それこそ俺に協力したいと思わせられたらベスト。そうなったら欲しい情報を得やすくなる。

今日のところは上手く行った。短い付き合いになるだろうが、今後も上手く接していこう。


「さってと、街行くか」



***



アランが向かったのは皇都の中心地から少し離れた場所。中心地と比べれば人通りも少なく、静かだ。

道を歩き続け、やがて路地裏に入る。この先はしばらく路地裏区域が広がっている。

手にした地図を頼りにアランは進む。日が通りにくい路地裏は、まだ昼になっていないにも関わらず薄暗かった。


「ここをこっちに行って……次は右に曲がって……」


歩き続けた時間は三分ほど。そこでアランは右側の建物に木製の扉が付いているのを見つけた。

改めて地図で場所を確認するが、ここが目的地で間違いない。

地図を片付けてから、アランは扉を開けた。


「これは……」


扉の向こうには地下へと繋がる階段があった。階段を降りると、やはりそこには地下室が広がっていた。

縦にも横にも八メートルほどの大きさがある部屋だ。部屋の奥にも扉がある。別の部屋に続いているのだろう。


(何か収穫があると良いんだけど)


ここから先は何が起こるか分からない。手袋型魔導器『虚空の手』を身につけ、準備を整えてから探索を始めた。


一番最初の部屋は何もなかった。置き物の一つも無い閑散とした部屋だった。

何も無いと分かったので、すぐに次の部屋へ移動した。

だがここで問題が生じる。


「って、暗いな……」


ここは地下である故に外の光が入ってこない。部屋の中に灯りを付けられる物も無さそうだった。


「《炎球(フレアボール)拡散(スプレッド)》」


手元に生成した火球を拡散させる。各方向に飛び散った小さな炎は空中で停滞し、辺りを照らす光源となった。これで探索できる。

部屋には何も置かれていないテーブルや棚があったり、紙屑やガラス片が落ちていたりと。誰かが居た痕跡はあるが、それまでだ。

その『誰か』が何者なのかを示す手がかりは無い。


(既に使い捨てられた後みたいな状態だな。魔力の気配も無いって事は、今は誰も居ないのか)


別の部屋も炎魔法で照らして探索してみるが目ぼしい物は無かった。もしかして当てが外れただろうか。

期待が薄れていくのを感じながらも、さらに奥の部屋へと移動した。



その部屋は行き止まりだった。しかも今までの部屋よりも広い。

部屋の奥の壁際にテーブルと本が置かれているが、それ以外は何も無い部屋だった。


(本か。ようやくそれらしい物が出てきたな)


他の部屋には本は無かった。この本の内容によっては、ここに居た人物を知るヒントになる。


(さーて、中身を拝見させてもらいますよっと)


日記や観察記録、計画書の類が望ましい。これで一般の文芸書だったら焼き払ってしまおう。


本を手に取ってみる。目算で五十ページほどありそうな青い本だ。

表紙には何も書かれてなかった。これで一般の文芸書の可能性は消えたと言って良い。



一ページ目を(めく)ったが、そこはただの白紙だった。

二ページ目も白紙だった。三ページ目も真っ白。四ページ目も空白が紙を支配している。

段々と嫌な予感がしてきた。明らかに内心で期待が落ちていくのが分かる。


次第にアランのページを捲る手は雑になって行く。パラパラと素早くページを捲り、真っ白なページを眺め続け、


「…………ん?」


そこで手を止めた。今一瞬、何かが書かれていた気がしたのだ。

ゆっくりとページを戻していく。今見た物はどこに書かれていたのか。


捲って、捲って、捲って、捲って、捲って───。


「……あ」


十ページほど捲った所にソレはあった。

そこに書かれていたのはたった一言。









こんにちわ








「ッ!?」


直後、アランは右へ体を逸らした。一瞬遅れてそこをナニカが通り過ぎる。回避していなければ直撃だった。

後方へ下がり、すぐにソレから距離を取る。よく見るとソレは青い液体で構成された槍のような物だった。


「これは……」


攻撃が放たれた方向、そこには巨大な青いスライムが居た。

今まで全く気配なんて感じなかったし、そもそもとして魔法生物がこんな場所にいるはずが無い。

おそらく誰かが仕込んでいたのだ。そして気付かぬ内にアランはその罠を起動させてしまったのだろう。


「ははっ、まさか初っ端から当たりを引くなんてな」


出入り口はスライムに塞がれている。倒さなければ、この部屋から出るのは難しい。

幸いこの部屋は広い。戦うには十分なスペースはある。


目の前にはジリジリとこちらに迫ってくるスライム。ただのスライムなら簡単に殺せる。例え巨体であっても体内の核を撃ち抜けば終わりだ。

だが、アランはそれができなかった。


(コイツ……核が無い?)


このスライムは半透明だ。スライムの向こう側の光景も朧げにだが透けて見える。

このタイプのスライムは外見から核の位置が分かる。だからこそ気づけた。

このスライムには核が存在しないことに。


核を持たないスライムはアランも初めて見た。スライムは必ず核があり、その核を壊さない限り、もしくはスライムの魔力が尽きない限りはいくらでも体を再生できる。

だがこのスライムは核が無い。つまり急所が存在しないのだ。

コレをどうやって倒せば良いのか。


「あー面倒くさい……」


嘆息しながら、アランは戦闘態勢を取った。

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