第六十四話 襲来、ヘッドハンティング
ややお久しぶりです。綿砂雪です。
色々あって投稿が遅れました。今後も同じように投稿が遅れることが多発すると思います。すみません。
それでは本編をご覧ください。
「とりあえず、これが今日一日皇都を歩き回って得た情報だ」
午後六時頃、皇城内のアリシアの部屋にてアランとアリシアは集まっていた。テーブルを挟んで椅子に座って向かい合いながら話し合っている。
「これは……たった一日でよくここまで調べましたね」
机の上に並べられた物を見て驚くアリシア。あちこちにペンで印が付けられた皇都の地図や、様々な情報が書き込まれたアランのメモ帳などが置かれている。
「地図に書いてんのは敵の拠点候補。皇都の空き地やら使われてない建物、人の寄り付かない場所やらと色々調べて、そこから敵が拠点に選びそうな場所をマークしてる。いつぞやの『リフレイム地下刑務所連続脱獄』で逃げた囚人の人数は約二百人。こんだけの人数を拠点も無しに匿うのは不可能だからな。ほぼ間違いなく敵の拠点は存在するだろう」
「では、こちらのメモ帳に書いてあるのは?」
「国王殺害予告と連続脱獄についての詳細、皇族と関係の深い貴族連中の情報、リフレイムの情勢や歴史とかだ。敵がどこのどいつか憶測立てるために調べてみたが、まぁ簡単には分からんよな。敵の詳細は明日以降の調査結果次第で考えるしかないな〜」
一通り語るとため息を吐く。皇都を歩き回った故、流石に体に疲労が溜まってた。
「……で、アンタの方はどうだった?皇城の様子は?」
「ああ、それでしたら……」
アリシアも自身の手帳を取り出すと、テーブルに置いてアランに見せた。
「これが今日の皇城の出入りの記録です。あくまで私が分かる範囲なので、欠けたり曖昧な部分もありますが」
「十分だよ、それで」
手帳に記されているのは皇城の出入り記録。今日皇城を出入りした人物の名前、もしくは所属などの大雑把な概要と出入り時刻がいくつも記されている。全てアリシアが自作したものだ。
「ふーん、なるほどねぇ……やっぱ皇族の出入りは少ないな。国王殺害予告もあったから当然だけど。けどこっちの方は……」
隅々までアランは内容を眺めていく。この情報が一体何の役に立つのか、正直アリシアは理解出来ていなかった。
アリシアがアランに頼まれたのは皇城の監視。皇城の安全確保のためというのもあるが、それとは別に皇城を出入りする人物についての情報や皇城内での人物の動きについても調べるという目的がある。
そのために今日は朝から聖装能力を使い続け、皇城の様子を見張っていた。
「出入りについては分かったよ。皇城内の様子はどうだった?」
「特に問題は起きませんでした。強いて言うなら、殺害予告の件があったので全体的に警備が強化されているという事でしょうか」
「なるほど、平和だったなら何より。面倒だろうけどこの後も監視頼むよ。悪いね、ずっと聖装能力使わせっぱなしで」
「いえ、皇城を見張る程度であれば大した負荷は無いので、心配には及びません。むしろ貴方の方こそ体は大丈夫なのですか?」
「そりゃ疲れてるよ。今日はさっさと寝て明日からの調査に備えるとするかね。一人で皇都のあっちこっちを回るから、流石に明日だけじゃ全部の拠点候補は回れないだろうけど」
「……なにも一人で回る必要は無いのでは?皇国騎士団や皇都の警備隊も、今回の事件解決に必要であれば協力を要請しても良いとの話は聞いています。人手が必要であれば増やすことは出来ますよ」
「いや、それが一番ダメだ。確かに効率は上がるが、そんな大人数で動いたら相手にこっちの動向がバレる。それで拠点を移されでもしたら面倒だからな」
「つまり相手に悟られないために貴方一人で行動するということですか」
「それもあるが、もう一つ。敵の能力に引っ掛からないためってのもある。今回の脱獄、何でも地下刑務所内の看守たちは全く気づけなかったそうじゃないか。脱獄させた人数は二百人以上。いくら相手の手腕が良くても、こんな人数をバレずに連れ出すなんて不可能。できるとすれば精神干渉で監視を誤魔化すくらいだな。そうなると敵は間違いなく聖装士か魔装士。それも精神干渉系の能力を持ってる奴だ。そんな奴に大人数でかかってみろ。もし仲間が精神干渉受けて仲間内で撹乱でもされたら、さらに事態は面倒になる。そうなるくらいなら一人でやった方がマシだ」
テーブルの上に置いた物を片付けると、アランは席を立った。
「そういう訳だから今後もそれぞれの役割を頑張ろうってことで、今日の話し合いはお〜わり。俺は部屋で情報整理してるから、なんか発見があったら教えてくれ」
「ええ、分かりました」
部屋のドアに近づき、そのまま部屋を出ようとして、
「……ああ、そうだった」
不意に思い出して、アランはアリシアに向き直る。
「一つアンタに聞きたいことがある。この前、ロマーシュアの教会で『リヴァイアサンの断片』が魔装士の連中に奪われただろ?あの一件以外で『リヴァイアサンの断片』が奪われた報告はあるか?」
「報告ですか………いえ、特には聞いていません。そもそも、エルデカ王国内で保管されていた『リヴァイアサンの断片』はロマーシュアにあった物だけで、他の断片は別の国で管理されてますので。私のところまで情報が来ることがないのです」
「ふーん。じゃあ仕方ないか」
アリシアなら知っているかもしれないと思ったが、流石に他国の情報までは把握していなかったようだ。
今度こそ要が済んだアランはドアノブに手をかける。だがその直後、
「アラン君」
呼び止めるアリシアの声。何事かと思って振り返ってみれば、
「…………ありがとうございます。ここまで協力してくれて」
言われたのは予想もしていなかった感謝の言葉。一瞬こそアランは戸惑ったが、すぐにいつもの調子に戻る。
「……そう」
無愛想な返事を残して、アランは部屋を去った。
***
廊下に出て、そのまま隣の自室に戻ろうとしたアランだったが、自室の前に誰かが立っていた。
黒髪とダークスーツが特徴の女。どこか見覚えがある気がするが、すぐには思い出せなかった。
「あの、私に何か用ですか?」
ひとまず声を掛けた。礼儀の為とはいえ、一人称に『私』を使うのはやはり違和感がある。
「おや、戻られましたか。わたくし、フィーネ皇女様の専属使用人を務めているオルレア・ロースタッドと申します」
深々とお辞儀しながら、自己紹介をしてきた。
「お忙しい中申し訳ないのですが、今お時間ありますでしょうか」
「え…まぁ、ありますけど」
「でしたらフィーネ様の部屋に来てもらえませんか?フィーネ様がアラン殿にお会いしたいそうで」
「皇女様が?」
訳が分からない。そのフィーネという奴が誰かは知らないが、なぜ皇女が会いたがっている。
(今日はこれ以上やる事はあんまり無いし……まぁいいか)
正直言って面倒だが、断る理由も思い付かなかったので誘いに乗る事にした。
「……分かりました。ぜひお会いさせてください」
「ありがとうございます。それではフィーネ様の部屋まで案内します」
***
先導するオルレアに付いて行くこと一分ほど。アランはある部屋に行き着いた。
「こちらがフィーネ様の部屋でございます。それでは、私は他の要がありますので」
去っていくオルレア。アランは一度深く息をすると、扉をノックする。中から「入っていいわよ」と声が聞こえたので、扉を開いた。
室内は実に美しいものだった。清楚さと美しさを感じさせる、白を基調とした室内。煌びやかな品の数々が置かれている。
この光景を見ていると既視感を感じる。確か前に王城のアリシアの自室に入った時も似たような内装だった。
「よく来てくれたわ、アラン・アートノルト。ひとまずこんにちわ」
話しかけてきたのは一人の少女。少女はテーブルの傍らに置かれた椅子に座っている。
セミロングの銀髪と蒼眼。青と銀を基調とした高貴なドレス。
その姿にアランは見覚えがあった。
「……もしかして、昨日の昼の」
「ええ、そうよ。あの時はちゃんと自己紹介できてなかったから、改めてさせてもらうわね」
少女は椅子から立ち上がった。
「私はフィーネ・リフレイム。この国の皇女よ。よろしくね、アラン・アートノルト」
その仕草から一挙一動に至るまで、全てに気品を感じる。
彼女こそが正真正銘、この国の皇女なのだと、言われても疑う者はいないだろう。
「そんな場所に立ってるのもなんだし、こっちに座ってちょうだい」
フィーネの対面に置かれたもう一つの椅子を指して言う。聞きたいことは色々あるが、ひとまずアランは席に着いた。
「本日はお招きして頂いたこと、誠に光栄に存じます、フィーネ・リフレイム様。私にどういった御用でしょうか」
「そう畏まらないで。楽にしてくれていいから」
「は、はい……分かりました」
「敬語も外して良いわよ」
「え、本当によろしいのですか?」
「私は素の貴方と話したいの。そんな取り繕った態度の貴方と話すために呼んだわけじゃないわ」
「……そう言うなら、そうさせてもらうけど」
確かに礼儀を崩した方が楽だが、なぜこんな対応を求めてきたのか。さっぱり理解できない。
「それで……フィーネ、で良いのか?フィーネはどうして俺をここに?」
「まぁそう焦らないで。まずは紅茶でも飲んでゆっくりしなさい」
最初からテーブルに用意されていたティーポットを手に取り、ティーカップに紅茶を注ぐ。それをアランに差し出した。
「はい、どうぞ」
「えっと……頂きます」
ぎこちない動きで紅茶を飲む。
皇族が飲む紅茶なだけあってやはり美味しい。豊かな味わいと紅茶の温かさが心を落ち着かせてくれる。
一口飲むと、カップを置いた。
「……それで改めて聞くけど、なんで俺を呼んだんだ?」
「それは単純に、貴方と親睦を深めたかったからよ」
「親睦……?」
リフレイムに滞在する期間は決して長くない。五日後の海礼祭が終わればエルデカ王国に帰る。用事がない限りは自分からリフレイムのあれこれに関与するつもりも無い。
そんな短期間でわざわざ親睦を深める意味は無いと思うが、この皇女は一体何を考えてる?
「一つ、貴方にお願いしたいこと……と言うより、お誘いみたいなものがあってね」
一泊を置いて、フィーネは言う。
「貴方………私の専属使用人にならない?」
「え、ならないけど」
ノータイムで拒否した。




