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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第三章
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第六十三話 調査開始

翌日の午前九時、アランは地図を見ながら一人で皇都を歩いていた。

理由はもちろん事件解決ため。海礼祭が始まる四日後までに事件を解決するべく皇都を探索している。


(よーし、まずは()()()からだな)


思索にふけりながら、目的地を目指して歩を進める。

今回の事件はなかなかに厄介だ。無計画に挑んでどうにかなるような規模の話ではない。

だからこそ、事件解決のための計画は既に考えていた。



***



時は遡ってその日の朝七時。本格的に事件解決のために動く前に、アランはアリシアと話し合いをしていた。


「さて、今日から事件解決のためにエッサホイサする訳だが……その前にアンタに言っておく事がある。まず一つ、これは事件とは全く関係ない話だが、今回俺はアンタの騎士としてリフレイムに来た。それについて報酬は用意されてるって話だったな?」


「はい。報酬金として百万セルク、他にも欲しい物があれば可能な限り用意すると父上は言っていました」


「じゃあとりあえず報酬金は倍な。別に大金に興味は無いけど、アンタらには色々とムカついたから倍だ。その上で市販されてない限定物の魔導器とか俺が気になってた物ありったけ用意させるから」


「構いませんよ。それだけの役割を頼んでいるのは事実です、何でも用意しましょう」


「そうか。なら次だが、今回の事件解決にかかる費用は全部アンタらが出せ。百万セルクでも二百万セルクでもアンタらに払わせる」


「それはもちろん、というより最初からそのつもりですが……そう言うということは、何か当てがあるのですか?」


「確かに当てはある。だが上手く行くかは分からない。今日はひとまず情報収集に全部を費やすが……どこまで集まるやら」


確信が無いのか、悩まし気に言った。


「……ところで、貴方はどうやって情報を集めるつもりなのですか?」


「あー、それは内緒」


「内緒って……我々は今日から共に事件解決のために動くのですよ?どう動くのかは共有しておくべきだと思いますが」


「その通りだけど、これはちょっと話せないかな。うん」


「……まさか、違法な手段に手を出すつもりでは」


「それは無いから安心してくれ。常識的な手段で成果は出すよ」



***



(ああ言ってみたが……実際違法かどうかと言われたら、ちょっと微妙なところあるんだよなぁ)


朝の会話を思い出して、若干不安になってきた。

リフレイム皇国の法律は知らないが、おそらく法律の範囲内ではある。だが一般的な手段では無い。少なくとも普通の人間ならまず頼ろうとはしない手段だ。


(確かこの辺の路地を曲がった先にあった気が……)


右を向けば、そこには建物の間に一本の道が続いていた。この先は路地裏に繋がっている。日の光が通りにくい故、この時間でも路地裏は薄暗くなっている。

あまり人が寄り付かないであろうその道に、アランは当たり前のように踏み入った。

路地裏を進み、何度か道を曲がった先、ようやく目に入ったのは一軒の店。扉には『占い屋』と安直過ぎる店名が記された看板が吊り下げられていた。


「店名変わってねぇのかよ……」


アランは扉をノックしてから開くと、店内に入った。


***


店内はあまり広くなかった。十人も入れば満杯になってしまうだろう。

青を基調とした内装、天井から布やカードが吊り下げられている。いかにも占い屋といった雰囲気だ。

部屋の中には大机が置かれており、二つの椅子が向かい合うように置かれている。

片方は客席、もう片方は──


「これはこれは。誰かと思えば、貴方でしたか。お久しぶりです、アートノルトさん」


そこに座っているのは一人の女。レースが付いた美しい青のローブを纏っている。頭にもフードを被っていた。


「俺が来ることくらい分かってただろ。()()()なんだから」


「ふふっそれはどうでしょうかねぇ」


アランは客席に座り、女と向かい合った。


「さて、本日はどういったご用で?」


「知ってるとは思うが、今この国で二つの事件が起こってる。『リフレイム地下刑務所連続脱獄』と『国王殺害予告』、これらについて知ってる情報全部教えてくれ」


「全部とは……これは大きく出ましたね。商売人としては嬉しい限りですが、これは高く付きますよぉ?」


「構わない。金ならいくらでもある」


「なんと随分な大盤振る舞いではありませんか。エルデカ王国の王家の資金からとは言え、金の使い方に遠慮が無さ過ぎでは?」


「必要経費だ。それに惜しんでいられる状況じゃない」


「なるほど、今日は情報屋を回って情報を集めようということですか。そのために金銭の使用許可をアリシア・エルデカから得たと。昨日あのような別れ方をしたばかりだというのに、よく話を聞いてくれましたねぇ」


「あれは完全にアイツが悪い。俺は反抗して当然の立場だ、文句を言われても困る」


「そうかもしれませんが、貴方も少々やり過ぎな気がしますよ?私も話を知った時は笑っちゃいましたよ。アリシア・エルデカも変わった趣味をしていますねぇ。貴方のような方を友人に選ぶとは。さぞ慈悲深い方なのでしょう」


当たり前のように世間話を続けているが、二人が会うのはこれが初めてではない。

最初に会ったのは以前、依頼を受けてリフレイム皇国に来た時。皇都の路地裏を歩いていた時、アランは偶然この店を見つけ、興味本位で入ってみた。

店の内容は店名通り『占い屋』。そんな商売をこのような路地裏で営んで、果たしてやっていけるのかと思うところだが、これがやっていけている。

この店にはもう一つ売りにしている物があるからだ。


その売り物とは『情報』。客が望んだ情報と引き換えに対価を得る。いわゆる情報屋というヤツだ。

この店は占い屋であると同時に情報屋でもある。アランはそれを分かってこの店に訪れた。


今日のアランの目的は情報収集、その主な手段とは情報屋を訪ねて回って情報を聞き出すことだ。

リフレイム皇国が正攻法を試し尽くした今、今更同じような正攻法をアランが試したところで成果が出るとは考えにくい。

だからこそアランが狙ったのは、まだ試されていない非正攻法と言えるような手段。それが情報屋という存在だった。


「さて、世間話はこのくらいにしましょうか。お求めの情報は『リフレイム地下刑務所連続脱獄』と『国王殺害予告』、あとは皇都で使われていない建物や空き地、皇族と関わりの深い貴族についての情報でしょうか」


「なんか勝手にトッピングを付けられてるんだが」


「その辺りについても聞くつもりだったのでしょう?でしたらお話ししますよ。もちろんその分、料金は高くなりますけどねぇ。あ!もしくは貴方の情報を料金代わりにしても良いのですよ?例えば貴方の()()でも──」


「いくら払えば良いんだ?」


「少しは話を聞いて欲しいのですけどねぇ。まぁ料金をお支払い頂けるのであれば構いません。ひとまず六十万セルクほどでどうでしょう。より詳しい情報が知りたい場合は追加料金という事で」


「分かった。払う」


ポケットから取り出したのは黒い手袋型魔導器『虚空の手』。両手に付けると、掌から紙幣の束を取り出して女に渡した。


「……確かに六十万セルク、受け取りました。ではお話ししましょう。まずは何から聞きたいですか?」


「そうだな。それじゃあまずは───」




***




一時間後……


「……と、ここまでがお話しできる情報となっています。追加料金を頂ければより詳しくお話しできますが、どうしますか?」


「いや、このくらいで良いよ。知りたい事は十分知れた」


「そうですか。お役に立てたようで何よりです」


知りたい事を知れたということで、アランは席を立った。


「じゃあ俺はこの辺で。情報提供感謝する」


女に背を向け、店を去ろうとした時だ。


「待ってください」


女がアランを引き止めた。


「え、何?押し売りか?」


「押し売りではありません。最後に少し占っていきませんか、というだけの話です」


「それを押し売りって言うんじゃないのか」


「まぁまぁそう(おっしゃ)らずに。一回たったの三百セルクですから」


「思ったより高けぇな」


「最終的に七十万セルクを使って情報を買ったのですから。三百セルクくらい誤差ですよ、誤差。さぁ席に座ってください。貴方の命運を占って差し上げましょう」


「えぇ……」


占いなんて興味は無いし、そもそもこの女に大層な占いが出来るのか。


「もしかせずとも貴方、占いを信じてませんね?以前も試したというのに、疑い過ぎではありませんか?」


「そりゃな。相手が情報屋を兼業してる胡散臭い占い師なら尚更だろ」


「情報屋はおまけですよ。本業は占い師です」


「本物の占い師はこんな裏道で店を構えないと思うけどな……まぁいいか」


なんだかんだでアランは席に座った。

別に占いを信じている訳では無いが、一度くらいなら良いかと思った。どうせ占い料金の三百セルクも王家の資金から出すし。


「そこまで言うなら、一回だけ頼もうか」


「承知しました。では早速始めましょう」


そう言って、女は後ろに置いてある棚からカードの束を取り出した。

カードを机に置くとバラバラにして混ぜる。それを再び束にしてシャッフルした。

カードが混ざり切ったところで、またカードを机の上で横に広げた。


「タロット占いです。カードを一枚抜いて(めく)ってください。そこから貴方の今後を占います。あ、カードを捲る際にカードの上下は変えないでください。カードの上下も込みで占いますので」


「そうか。じゃあこれで」


アランは適当にカードを抜くと、表を向ける。そこには絵が描かれていた。


「ふむふむ、これは……」


女はカードを見て、数秒考えると。


「……分かりました。これは面白い物を引きましたね。近い内、少なくともこの皇都にいる内に貴方は()()()()()をするでしょう」


「良い出会いって……どういう事だ?俺がここで新しく誰かと関わることになると?」


「そうなりますね。確実に言えるのは、この出会いは貴方にとって有益なものであるということ。特に今後の行動を改める必要はありませんが、頭の片隅にでも入れておけば良いでしょう」


「……そうか」


正直、あまり想像は出来ない。

皇都にいる間は海礼祭まで事件解決のために忙しくなる。調査の過程で誰かと関わる事はあるだろうが、特別良い出会いと呼べるような瞬間が訪れるとは思えない。


「……なぁ、その良い出会いってのは、事件の調査に役立つ奴と会えるって意味なのか?」


「それは私にも分かりません。ですが出会いは向こうからやってきます。貴方の意思に関係なく」


「ますます分からなくなってきたな……」


ため息を吐きながら、『虚空の手』から硬貨を数枚取り出す。それらを机に置くと、席を立った。


「ほい、三百セルク。これで良いだろ?」


「ええ、受け取りました。それではまた知りたい事がありましたら、是非お訪ねください。この『占い屋』に」


「その店名絶対変えた方が良いって」


「この方が面白いでしょう?」


「それ以上に安直過ぎるってのと紛らわしいって思いが勝るんだよ、普通は」


その言葉を最後に、アランは店から出て行った。


***


「ふ〜む、次はどうするか」


欲しい情報は大方手に入った。事件の詳細、大まかな経緯や現状、皇族と貴族の関係、皇都の地理など。

あと二、三件ほど情報屋を巡れば丁度いい。情報屋によっては特定の分野の情報に特化している者もいる。

可能な限り詳細な情報を集め、ついでに情報の裏も取る。大まかな情報は先程の占い屋で手に入れたから、そこまで高額になることはないだろう。

それが終わったら皇都の大図書館で調べたい事を調べ尽くす。やる事は山積みだ。


「さて、アリシアの方はどうなってるかねぇ」


今後の動きについて考えながら、路地裏を進んでいった。



***



アランが去った後、占い屋の中で女は頬杖を付いていた。


「……ああ、また知り損ねました。せっかくのチャンスだったというのに」


不服そうに声を漏らす。

情報屋は情報を売り物にする。そのために彼らも様々な手段で秘密裏に情報を入手する。

当然、情報にも価値という概念は存在する。秘匿されている情報や注目されている情報など、需要の高いものほど価値は上がる。

だからこそ、彼女は惜しく思った。情報屋にとって間違いなく財宝に匹敵する存在を取り逃したのだから。


「……良い出会い、ですか」


改めて占いの結果を思い返す。

彼にしては面白い物を引いた。以前店に来た時にカードを引かせた時はもっと物騒な運命を引いていたし、実際その後も物騒な事になっていたのだが。


「さてさて、謎と悪意に満ちた嘘吐きさんを求める物好きとは、一体どこの誰なのでしょうかねぇ」

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