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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第三章
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第六十一話 無情なる暴虐者

「お前たちの身勝手はやはり変わらないんだな。本当に救えない。人の気も知らずに……」


アランは拳を戻し、アリシアから距離を取る。

アリシアにはアランの言っている言葉の意味が分からなかった。ただ分かったのは、引いてはいけない引き金を引いてしまったということ。


(こうなる可能性は予期していましたが……触れてしまいましたか)


アランから感じる雰囲気は一変した。憎悪に濁った黒い瞳がアリシアを見つめる。

これは異端者ではない、暴虐者としてのアランの姿だ。

部屋の空気が一気に緊張感を帯びる。今のアランは一つでも行動を誤れば敵になってしまうだろう。


「それで……『事件を解決しろ』だったか。もちろん断る、お前に協力などしない。する意味が無い」


「何を言っているのですか。この事件の解決には大きな意味があります。この事態を放っておけば、必ず犠牲者が出ます。最悪、リフレイム皇国が危機に陥る可能性も──」


「それがどうした」


「ッ!」


あまりに冷たい態度でアランはアリシアの言葉を一蹴する。


「犠牲だの国家の命運だの……全くもってくだらない。そんな物を何故救う必要がある。少なくとも俺には関係の無い話だ。別にこの国がどうなろうとも知った事じゃない。救う義理も価値も無いんだからな」


「価値が無い?貴方の方こそふざけないでください。蔑ろにして良い命などこの世にはありません。だからこそ力ある者として、私たちが前に出なくてはいけないのです」


「またその理論か。綺麗事を言うのは自由だが、実現もできてない、何なら加担してる側の奴が理想を押し付けるのは傲慢が過ぎると思うがな」


言いながら、アランは部屋の窓の前に立つ。


「どこへ行くつもりですか」


「どこって、帰るんだよ。エルデカ王国に。国王の指示だからと仕方なく同行してやったが、これ以上は付き合いきれない」


「これは命令ですよ。私だけでなく、父上の命令でもあります。事態の解決のために尽力する、それについて貴方に拒否権はありません」


「…………はぁ」


呆れたと言わんばかりにため息を吐いた。


「お前たちはそれしか出来ないんだな。立場に縋って物を言う。その裏でどれだけの物を蔑ろにしているのかも知らずに、矛盾した理想を張り続ける。最悪の思想だ、反吐が出る」


アランは窓を開けた。窓の枠に手を掛け、飛び降りようとする。


「ッ!」


アリシアは一歩踏み出した。

これだけは避けたかったが、こうなったら力ずくで止めるしかない。そう思っての一歩だった。


「良いのか、それで。ここで俺とお前が戦えば、少なくとも皇都の人間は全員死ぬぞ?」


「……!」


その言葉がアリシアの動きを止める。


「お前一人なら俺に勝てたかもしれないが、ここは違う。皇族、使用人、城外に出れば一般人もいるな。それに途方も無い時間をかけて築き上げられた皇都も。俺にとってはどれも無価値で下らない物だ。壊れようが死のうが心底どうでもいい。だがお前は違うだろう?それら全てを守りながら俺を止めることが、お前に出来るのか?」


「…………」


否定は出来なかった。実際、その通りだったから。

アランとアリシアが戦えば間違いなく周囲に被害が及ぶ。民間人は大勢死ぬだろう。皇都だってタダでは済まない。

それら全てを守りながらアランと戦う事は、いくらアリシアでも不可能だ。


「……どうしてですか」


絞り出すように声を出す。


「どうして……貴方は、そのような事が出来るのですか」


「それは単純な価値観の差だろう。俺にとってどうでも良いものは、お前にとって重んじるべきものだった。それだけの話だ。深く考えるような事じゃない」


「だとしても、貴方は異常です」


「俺からすればお前たちの方が狂ってるように思えるが……これ以上話しても無駄か」


窓の外に身を乗り出す。その場から動けないアリシアへと、一度振り返って。


「じゃあな、王女様。そんなに人の命が大事なら、その下らない理想でこの国を救ってみせろ」


その言葉を最後に、アランは窓から飛び降りた。



***



「はぁ…………」


アランが去った後、重々しくアリシアはため息を吐く。

もはやアリシアにはアランを止める事は出来ない。これ以上アランを刺激すれば本当に周囲へ被害が及びかねない。


(今までも何度か見てきましたが……やはり慣れませんね)                                                             


いつものアランなら問題ない。だが暴虐者としてのアランを前にして尚、毅然(きぜん)と振る舞うことは出来なかった。

あの濁った瞳で見られるだけで、アランに刻み付けられた恐怖と苦痛が蘇るような気がしてくる。


アリシアが知る限りでは、アランの暴虐者としての一面が表に出る状況は二種類ある。

一つは彼が極限まで追い詰められた時。もう一つは彼が激怒した時。

今回は後者が当てはまる。アリシアがアランを怒らせ過ぎた結果、暴虐者としての一面が表に出た。

今のアランは何を言っても無駄だ。あらゆる物も人間も、全てどうでも良いと一蹴する。それが『叡傑(エイケツ)の暴虐者』の考え方。

彼に国や人のために力を貸してくれと頼んだ所で、受け入れてくれるはずがない。


アリシアもこうなる可能性は予期していた。だからこそ海礼祭の件を話してから、事件について話すまでに時間を空けたのだ。

海礼祭に出席するよう命じられた時点で、アランは既に憤慨していた。あの状態のアランに頼んでも火に油を注ぐだけ。だが彼のストレスが軽減してから頼めば、多少なりとも引き受けてくれる確率は上がる。

故に一度自由時間を与え、少しでもアランを落ち着かせようと思っていたが、効果は全く無かった。


「はぁ……一体どうすれば」


先行き真っ暗な状況に頭を抱えるしかなかった。

アランに頼ることはできない。かと言って、アリシア一人が加わったところで出来る事にも限度がある。

そもそも、今回の件はリフレイム皇国の警備隊などが調査しても解決しなかったから、アリシア達に話が回ってきたのだ。普通のやり方ではまず解決できない。

だからこそ型破りの擬人化のような人間であるアランの協力を得たかったのだが、彼は拒絶した。それも異常なほどの憎悪と共に。


「…………」


分からない。何が彼をあそこまで怒らせたのか。彼が何を憎んでいるのか。

思えば先程の発言の中で、彼は『矛盾した理想』という言葉を使っていた。それ以外にも『お前』ではなく『お前たち』と複数形にして呼んだりと、気がかりな発言を幾つか残していた。

理解は出来ないが、適当に言っていたとは思えない。一言一言に計り知れない程の憎悪が込められていた。


「アラン君……貴方に一体、何があったのですか……」


その真実をアリシアは知るよしも無かった。

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