第四十七話 破壊の君主
試合が始まった瞬間、アランはいつの通り手袋型魔導器『虚空の手』を取り出し、両手につけた。そして両手を軽く振って、掌から武器を出した。
出てきたのは緑色を基調とした双剣だ。名を『双嵐剣マガツカミ』。風属性に特化した武器型魔導器だ。
「魔導器……やはり聖装具は使わないか」
「事情があるんでな。ただ勘違いはしないでくれよ?俺はお前を舐めてこんな真似をしてるわけじゃない」
「よく言う。相変わらず胡散臭い奴だ」
言いながら、ロベリアは右手を突き出して、
「良いだろう。聖装具を使う気がないと言うのなら、その魔導器もろともお前を打ち砕いてやる。始めるぞ、《破壊の君主》」
ロベリアは自身の聖装具を顕現させる。
右手に現れたのは一本の銃剣だった。護拳が付いた茶色の柄と銀の刃は、どこか軍刀を思わせる。
特徴的なのは、刃の峰に銃口が付いていること。柄には引き金のような物も付いている。
これがロベリア・クロムウェルの聖装具── 《破壊の君主》。彼女を破壊者たらしめる聖装具だ。
ロベリアは刃先を天に掲げる。銃剣に込めた魔力により、 《破壊の君主》の聖装能力が遂に解き放たれる。
その聖装能力とは───
───『異界のあらゆる軍事兵器を使役する力』だ。
「さぁ、まずは挨拶だ。受け取れ、アートノルト」
直後、ロベリアの周囲の空間のあちこちが水面のように波打った。そこから突き出てきたのは大量の銃器だった。
ライフル銃、ショットガン、マシンガン、グレネードランチャーなど。よりどりみどりの銃器が、その銃口をアランに向けた。
ロベリアは銃剣を振り下ろす。それを合図に、銃器が一斉に弾丸を放った。放たれた弾丸はまさに雨のようにアランを襲う。
「《水抱障壁・風域結界》」
アランは落ち着いて魔法を唱えた。
まず生成した三重の風域結界がアランを覆った。その上側に分厚い水の盾を三重に展開。これで準備は整った。
直後に弾丸がアランに降り注ぐ。だがそれらがアランに直撃することはなかった。
最初に触れた水の盾により、弾丸の速度が落ちていく。水の抵抗は空気の八百倍以上。潜り抜けるだけでも弾丸の速度、すなわち威力は削られる。
そして減速した弾丸を逸らすのが風域結界の役目。結界に触れた瞬間に弾丸は風に軌道を変えられ、アランから逸れていく。
「なるほど、この程度では反撃の必要すらないか」
大抵の者は今の砲撃だけで終わるのだが、やはりアランには通じない。余裕綽々とした様子で耐えている。
これ以上この砲撃を続けても無駄だろう。ロベリアは砲撃を中止した。
「なんだ、もう終わりか?」
口では挑発するアランだが、もちろん調子に乗っているわけではない。
初撃からの集中砲火は予想できていた。今のはただシュミレーション通りの行動を辿っただけに過ぎない。
次、いつ何処から攻撃が来るか。内心では常に全方位へ警戒を張り巡らせている。
「このまま砲撃を続けても弾の無駄のようだからな。無駄遣いは好きじゃないんだ、私は」
対するロベリアも冷静さを崩さない。砲撃を無傷で耐えられたことなど、彼女は気にも留めていなかった。
彼女にとってはこの程度、まだ序の口ですらない。
「どうやら普通の弾ではお前には通じないらしい。なら結構、次は威力を盛るとしよう」
虚空から突き出る銃器が、空間の向こう側へと消えていった。それと入れ替わるように、新たな兵器が現れた。
パンツァーファウストやロケットランチャー、果てには戦車砲や対空砲まで。
兵器の数は先程と比べて少し減ったが、その威力は先程の比ではない。
「さて、今度は防御魔法だけで防げるか?」
今度はロベリアが挑発する番だった。笑みを浮かべ、無慈悲に砲撃を再開する。
砲弾はフィールドの全域に降り注いだ。もちろんアランにはこれらの砲弾の詳細は分からない。だが込められた魔力量から、その威力は想像できる。
おそらく防御魔法だけで防げるものではない。だが全ての砲弾を迎撃するのも不可能だ。
「《爆撃連投・断熱結界・結界》」
先程まで展開していた魔法を解く。次いで放ったのは爆発性を込めた大量の火球。弾数はロベリアには劣るが、それは構わない。
アランは全ての砲弾を撃ち落とすつもりなどない。自分に直撃しそうな砲弾だけは火球で撃ち落とす。残りは展開した通常の結界と断熱結界で耐えればいい。
両者の攻撃が空中で激突し、数え切れないほどの爆発を起こしていく。迎撃していない砲弾は着地しては派手に爆発し、耳をつんざくほどの轟音を響かせる。
瞬く間に辺りは爆煙に包まれた。同時に、ロベリアの砲撃が再び止んだ。
爆煙の中ではアランはロベリアの動向も視認できない。
アランはすぐにロベリアの魔力反応を探ろうとした。だがここで新たな障害に気づく。
(魔力探知が出来ない!?)
ロベリアの魔力だけではない。何故か周囲の魔力を一切感じることができなかった。
アラン自身が何かされたわけではない。なら原因はどこにあるのか。真っ先に思いついたのはこの爆煙だった。
おそらくこの爆煙は魔力反応を誤魔化すジャミング効果を含んでいる。先程の砲弾はただの砲弾ではなかったらしい。
「嫌な真似してくれんじゃねぇか……」
魔力探知が出来ないなら、正確に脅威の位置を捉えるのは困難だ。
爆煙を風魔法で晴らすべきか。考えている内に、何処かから銃声が聞こえた。
先手を打たれた。攻撃の位置が分からない以上、ここは広範囲攻撃で凌ぐしかない。
「《紫電双嵐》」
魔力を込めた双剣を振り回す。剣を振るたびに紫電を帯びた衝撃波が放たれた。それは嵐の如き勢いと拡散性を持って砲弾と激突する。
大体の攻撃は弾くことが出来た。衝撃波によって周囲の爆煙も晴れてきたが───やはり完璧にはいかない。
直後、アランの目の前に砲弾が見えた。この距離で切ったらその後の爆発に巻き込まれる。
ここは一度逸らして距離を離しかない。
「《風域結界》」
風域結界により砲弾は軌道を逸らした。そのままアランの横を過ぎて後方へ向かい───次の瞬間、突然軌道を変えてアランの背中へ直進してきた。
「はぁッ!?」
全自動の追尾式弾、それがこの砲弾の仕様なのだろう。これでは逸らすのは不可能だ。
「これだから『異界の力』は嫌いなんだよッ!」
横へ跳んで砲弾を回避した。そして砲弾を斬撃で破壊するべく双剣を振りかぶり───カチッと何かを踏んだ音がした。
「あ、やべ」
気づいた時にはもう遅い。直後、アランの足元が爆発した。その爆発に連鎖して、周囲の地面が次々に爆発していく。
今のは地雷による攻撃だろう。爆煙を展開してから砲撃までに時間差があったのは、地雷を設置するために時間を使っていたからだ。
不意を突いたゼロ距離での爆発。普通ならこれで終わるものだが──。
「……このくらいは躱せるか」
ロベリアが見上げた先、上空には無傷のアランがいた。寸前で爆発を躱したらしい。
これでアランは危機を脱したのだろうか。いいや違う、むしろ逆だ。
この時点でアランは既にロベリアの術中に嵌まっている。
「だがアートノルト、今のお前は実に狙いやすいぞ?」
空中にいるアランの全方位の空間が波打つ。そこから大量の銃器が現れた。
銃器はアランに銃口を向け、一斉掃射を開始する。囲まれたアランに逃げ場はない。
アランに出来る事は防御魔法で耐え凌ぐことのみ。だがアランが倒れまでロベリアは砲撃を止めないつもりだ。
ここからどうやってその危機を脱却するのか。観客席の生徒たちが見守る中。
「ッ!!」
突如、ロベリアは振り向きながら後退した。
銃剣の刃先を正面に向ける。ロベリアの周囲の空間から突き出てきた六台の機関銃が、ロベリアの正面へ大量の銃弾を放った。
側から見れば理解不能な行動だっただろう。だがこの一挙は間違いなく意味のあるものだった。
放たれた銃弾は不自然に空中で弾き返されていった。次いで正面から放たれた六本の熱戦が機関銃を粉砕した。
それらを放ったのは他でもないアランだった。先ほどまで上空で集中砲火を受けていたはずのアランは、突然ロベリアの視界に現れた。
(《空間転移》か?いや、そんな余裕は無かったはずだ。ならどうやって……)
考察の隙も与えずに、アランはロベリアに双剣を横薙ぎに振るった。後方へ飛び退くことで回避するが、そこへ刺突が繰り出される。刃先からは鋭い衝撃波が放たれた。
ロベリアは銃剣を横に向けて引き金を引いた。銃口から弾丸が放たれ、その反動でロベリアは反対方向へ押し出さる。寸前で衝撃波を回避した。
地面を転がりながらもロベリアは聖装能力を発動。周囲の空間から突き出た十数丁の銃器から弾丸が放たれる。
アランも双剣を振るい、放った衝撃波で弾丸を弾く。この程度の弾数であればアランの方が火力は上だ。押し負ける事はない。
体勢を立て直したロベリアは再び銃剣を向けるが、今度はアランが先手を打った。
「《凍結》」
アランの足元から氷が生じた。それは地面を伝ってロベリアまで届き、ロベリアを足元から腰付近まで氷漬けにした。
これでロベリアは動けなくなった。魔法が使えれば解除は出来ただろうが、『魔法崩し』を扱うアランの前ではそれも不可能。
よってロベリアが次に取る行動は決まっている。周囲の空間から現れた銃器たちがアランに銃口を向け───しかし。
「《灼熱砲火》」
銃弾を放つよりも早く、アランは熱線を放って銃器を破壊した。
予想さえ出来ていれば先手を打つのは容易い。銃器の攻撃を封殺しながら、アランはロベリアとの距離を詰めた。
ロベリアに刺突を繰り出す───が、届かない。二人の間に横から現れた機関銃が盾となって、剣を受け止めている。
アランは大して驚きはしなかった。ロベリアが兵器を盾代わりに使うことも、予想の内にはあった。
すぐに機関銃を破壊した。このままロベリアとの距離を詰めるか───否。
アランは後方へ大きく飛び退いた。ロベリアにトドメを刺し得る機会を放棄して、この選択をした。
その理由は何か。それは今、アランの視界外から降ってきていた物にある。
────ッ!!!
直後、先程までアランが居た場所にミサイル弾が落ちてきた。巻き起こる大爆発を見ながら、アランは言った。
「やっぱり離れて正解だったな」
「いや、さすがだアートノルト。初見でこれも避けるとは」
爆煙が晴れる。そこから現れたのは無傷のロベリアだった。先程まで受けていた氷の束縛も爆発によって消し飛んでいる。
「便利なモンだな、自分の聖装能力では負傷しない特性ってのは」
「当然だろう。私は『破壊の君主』だ。自身の破壊兵器でダメージを負うことなどあり得ない」
それがロベリア・クロムウェルの聖装具──《破壊の君主》が宿す特性の一つ。
ロベリアは自身の聖装能力では負傷しない。故に相手との距離や威力を気にする事なく、常に最大限の破壊力を発揮できる。
「お前があそこで突っ込んでくれていたらそのまま勝てたのだがな。仕方ない、もっと派手にいくとしよう」
銃剣の刃先を空に向けれる。上空の至る所が波打ち、そこから大量のミサイル弾が現れた。
「さぁ、弾はまだまだ残っている。遠慮せず持って行け、アートノルト」
悠々と告げる破壊の君主。既に絶望的な状況だが、戦いはまだまだ始まったばかりだ。
ロベリアが銃剣を振り下ろせば、ミサイル弾もまたフィールドへ落ちていく。その光景を前にしたアランは、
(あーやってらんねー)
心の中で毒づいた直後、ミサイル弾は着弾した。




