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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第二章
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第四十五話 散歩中のハプニング

ミハイルと別れた後も、アランたちは王都を歩いていた。今日はこれ以上の予定もないので、こうして暇潰しを続けている。


「ミハイル先輩、不思議な人でしたね」


思い返すのはミハイルのこと。少なくとも彼のような生徒は学園には他にいないだろう。


「アイツは常に面白さを求めてる。だから面白くない事には絶対に関与しない。依頼だって同じだ。アイツはアリシアが依頼を持ってきても『面白くないから』って理由で全部拒否してる。そんでアイツが受けなかった依頼は全部俺に回ってくる」


「そういえば先輩って依頼受けてましたね」


「知ってたのか?」


「この前リオ先輩たちと一緒に昼ご飯を食べる機会があって、その時に色々と教えてもらいました。先輩って普段どんな依頼受けてるんですか?」


「どんなって言われてもな……魔法生物を退治したり、やべー奴の相手をさせられたり、お偉いさんの護衛をさせられたり、すごい時は他国に飛ばされたりもするな」


「他国まで行くんですか!?」


「ああ、四回だけ他国に行かされた事がある。あの時は大変だったよホント……『封印指定クラス』程じゃないけど、とんでもない魔法生物の相手させられたし、他にも魔装具の影響受けた奴を止めに行ったりしたし……とにかくヤバい依頼だった」


「その時はどうやって他国まで移動してたんですか?」


「流石にそこまで移動時間はかけられないから、学園長の聖装能力で転送してもらってた」


「確かにそれならすぐですけど……なんと言うか、あまり学生がやる仕事とは思えませんね」


「実際面倒だが、金は稼げるからな。やる意味はある」


「お金貰ってたんですか?」


「そりゃ貰うさ。これは慈善事業じゃなくてビジネスだ。戦力が欲しければ対価を用意しろって話だな。とは言っても、報酬については俺は特に指示してないけど」


「へぇー、先輩のことだから報酬を釣り上げたりしてたのかと」


「お前俺のこと悪徳業者と勘違いしてないか?」


「冗談ですって。そこまで酷い印象は抱いてません──」




「誰かあの人を止めて!ひったくりです!」




その時、すぐ近くから誰かの悲鳴が聞こえた。



***



「え、何!?何事!?」


反射的に辺りを見回した。すると地面に倒れ込む十六歳ほどの少女が目に映った。

先程の発言からして、おそらく彼女がひったくりにあったのだろう。人通りが多い王都では稀にあることだ。


「先輩!あの人ひったくりにあったみたいです!助けないと!」


「そうだな、流石に無視するのは気が引ける。お前はあの人の所に行ってこい。ひったくり犯は俺がどうにかして捕まえる!」


「はい!」


アランの言う通りに、リデラは少女の元へ向かった。残されたアランは相手を追う準備をする、


「《透明化(スクリーン)身体強化(ブースト)》」


先に唱えたのは透明化魔法。自身の姿を周囲の景色と同化させ、視認不可能にする。

これで動いても目立つことはない。強化した身体能力で跳び上がったアランは、続けて唱えた風魔法で滞空した。


アランは犯人の顔を見ていない。被害者に相手の特徴を聞くことも出来たが、時間が惜しかった。

こうなった以上、犯人を見つけるには、それらしい人物を自分で探すしかない。


(とは言っても……これは)


上から見ている限り、怪しい動きをしている者はいない。しかも運の悪いことに、道には多くの人がいる。

ここから一人の相手を見つけ出すのは簡単ではない。


(どうすっかな……明日のこともあるから、あんま魔力消費したくなかったんだけど……)


かなり絶望的な状況だが、一応手段は残っている。だがソレはアランがなるべく避けたかった手段だ。

やるしかないだろうか。アランが悩むその最中、


「ふぅむふむ、悩んでるみたいだぁね」


背後から聞き慣れた少女の声がした。アランは今、空中に透明化した状態でいるにも関わらず、少女は間違いなくアランへ話しかけていた。

アランは振り返らなかったし、驚きもしなかった。むしろ内心で安堵していた。

何故なら今、ひったくり犯を捕らえられることが確定したから。


「だったぁら、私の『超技術』でお助けしてあげるよう。ほらぁ、これ持ってぇ」


少女は背後からアランにメガネを差し出した。

一見なんてことのない普通のメガネに見える。アランも正直疑問はあるが、それでも黙ってそのメガネをかけた。


「さっきのひったくり現場の記録を読み取るからぁ、ちょっと待ってぇね」


少女は一人で話を進めると、


「《幻視(ダウンロード)》」


その一言を唱える。それから二秒ほどアランの背後で硬直すると、再び動き出した。


「なるほどぉ。犯人が分かったよぉ。今そのメガネにデータ送ったぁから、後は頑張ってぇね」


直後、レンズ越しに見えるアランの視界が変化した。

地面に青白い線が見えた。その線を辿れば、そこには一人の男がいた。

如何にも冷静に男は振る舞っているが、その手には不似合いなバッグを持っている。

間違いなくあの男が犯人だ、なにせ彼女がそう断言したのだから。


「ありがとう」


そっと感謝の言葉を告げて、アランは移動した。

道端の店の屋根に着地すると、そのまま走る。すぐに男に追いついた。

今度は屋根から地面に移動した。男の背後に辿り着くと、背中に手を当てて、


「《透明化(ステルス)消音結界(サイレンス)》」


それらの魔法を男にかけた。

男の姿が透明化した。突然魔法をかけられた男は反射的に声を上げたが、その声は誰にも届かない。

アランは男の服を掴むと、近くの路地裏へと風魔法で放り投げた。アランもすぐに路地裏に入り、魔法を解く。ついでにメガネも外した。


「だ、誰だお前は!」


追い詰められた男は焦りながらアランに問う。


「誰って、ひったくり犯を捕らえに来ただけの、通りすがりの聖装士だ」


「聖装士だと!?ふ、ふざけんな!そんなことがあってたまるか!」


「あったんだから仕方ないだろ。諦めてそのバッグを渡せ。じゃないと痛い目に遭うことになる」


「俺のことは悪者扱いするってのに、自分が攻撃するのは良いのかよ!?」


「さぁ?そんな面倒なことは考えたことが無いから分からないな。そもそも原因はお前だろ。お前に文句を言う権利はない」


アランは男へと近づく。男は抵抗しようと、必死に魔法を発動しようとしていた。だがそれら全てが不発に終わる。

当然だ。『魔法崩し』を扱うアランの前では、アランが知る魔法は全て無効化されるのだから。


「う、うぁぁぁぁぁぁぁ!!」


やけになったのか、男はアランに殴りかかってきた。

遅い。

繰り出された右拳を少し体を傾けて回避する。後はカウンターに男の鳩尾に一発、拳を叩き込めば、


「うぶっ……!」


悶絶しながら男は倒れた。もう彼に動けるだけの気力はない。痛みを堪えるだけで精一杯だ。

その間にアランは盗まれていたバッグを拾い上げた。一見無事そうに思えるが、他に何か盗まれていないか。一応確認した方がいいだろう。


「おいお前、他は何も盗んでないな?」


「ぬ、盗んでない!本当だ!だからこれ以上は──」


「なぁにアラッチ。もしかしてぇ拷問してるぅの?」


再び響く少女の声。少女は空中からゆっくりとアランの背後に着地した。

今度こそアランは少女の方を向いた。ピンクの短髪に、透き通るような青い瞳を持つ少女だ。


彼女は学年実力序列第四位、シエル・グレイシア。『学園最強のサボリ魔』と呼ばれるほどの凄まじいサボリ癖を持つが、その実力は本物。

この世の理を外れた『超技術』を操ることから、『超越の機巧者』の異名を持つ。アランやミハイルと同じ『学園最高戦力者』の一人だ。


「拷問なんてしてねぇよ。これ以上隠してる物がないか聞いただけだ」


「そうだったんだぁね。まぁ見た感じぃ、これ以上は何もないっぽいよぉ。盗まれたのはぁそのバッグだけだぁね」


特徴的な話し方をしているが、これがシエルのデフォルトだ。

彼女の最大の趣味は『睡眠』だ。それ故なのか、ほぼ常に眠気に苛まれており、このような話し方になってしまう。


「だ、誰だお前!?お前も聖装士か!?」


「そうだよぉ。でもこの人よりは弱いかぁら、安心して良いよぉ」


「なーにが俺より弱いだよ。お前序列戦途中で降参したじゃねぇか」


「あれはもう私の負けみたいなものだったかぁら、降参したんだよぉ。聖装具すら使わない相手を半日以上戦ってぇも出し抜けないなんてぇ、『技術者』としてはぁ敗北してるも同然だぁね」


「変なところだけ(こだわ)りあるよなお前」


「まぁねぇ」


過去にアランはシエルと序列戦で戦ったが、これがまたとんでもない試合だった。

なんと彼らの試合は半日以上経っても決着がつかなかったのだ。その原因は単純で、アランもシエルも戦闘スタイルが似ていたからだ。

お互いに相手の力を分析して適応するというのが繰り返され、いつまでも勝負が終わらなかった。


だがこの試合は最終的にはシエルが降参したことで終わりを迎えた。彼女にはまだ余力は残っていたが、『技術者として敗北した』という考えで、アランに勝利を譲ったのだ。


「さて、コイツはその辺の警備隊に突き出すとして……お前なんでここに居たんだ?」


「買い物だぁよ。私だってぇ必要な時にぃは買い出ししなくちゃいけないんだぁよ」


「買い出し、ねぇ……」


アランはシエルの目の前に立つと───次の瞬間、デコピンをした。

コツンッと()()()が鳴り、シエルは「いてっ」と言いながら額をさする。

それでアランは確信した。


「お前、やっぱり()()だろ。本体は今も自室のベッドだな」


「ふふふ〜せいかぁい」


直後、シエルの顔の右半分の皮膚が、青白い光の粒子になって散っていった。

皮膚が消滅した後、そこに見えたのは黒い鋼鉄。それは人間には絶対に無いはずの物であり、同時にこの場にいるシエルが人間でないことを証明していた。


「よく分かったねぇ。体温や行動の癖もオリジナルそっくりの自立型人形のなずなんだぁけど。これはぁまだまだ私の技術にも改善が必要ってぇことかぁな」


露呈した黒い鋼鉄の顔を、新たに生成された皮膚が覆っていく。

瞬く間に機械人形の顔は、シエル・グレイシアそっくりの顔に戻った。


「俺からしたら十分過ぎるくらいぶっ飛んだ技術を持ってると思うが……とりあえず俺はこのバッグを持ち主に返してくる。それまでソイツを見張ってくれないか?」


「良いよぉ。友達の頼みだからぁね。ただぁ早く戻ってきてねぇ。じゃないとここで……ふぁぁぁぁぁ……スリープモードに入っちゃうかも」


「そこまで本体を再現してるのか。すぐ戻るから起きててくれよ」


アランは足早に元の場所へ戻った。このまま放置していたら本当にシエルが寝そうだったから。



***



ひったくり犯の元から歩いてしばらく、アランは再びリデラの元に帰ってきた。

リデラは被害にあった少女と一緒にいた。アランが近づくと、リデラはすぐにアランに気づいた。魔力の反応を読んだのだろう。


「先輩!」


こちらに顔を向けながら声を上げた。


「どうでしたか?取り返せましたか?」


「ああ、無事取り返せた。このバッグで間違いないか?」


手にしたバッグを少女に見せると、


「はい、それです!ありがとうございます!」


少女はアランに駆け寄り、バッグを受け取った。そしてすぐに頭を下げて礼を言った。


「本当にもうダメかと思って……けど、さすがは聖装士様です!こんな方が居てくれるなら、この国はずっと安泰ですね!」


「それは過大評価だよ。俺たちはそんな偉い存在じゃない。偶然、他人(ひと)より少しだけ多くの物を持って生まれただけの人間だ。とにかく、これからはひったくりには気をつけるんだぞ。王都でも稀に起こるから」


「はい!今日は本当にありがとうございました!」


アランとリデラに改めて礼を言うと、少女は二人の前から去って行った。

その背中を見届けていると、


「……なんだか、こうやって人助けをするのも良いですね」


「まぁ感謝されて悪い気はしないわな」


積極的に善行を尽くせるほどの精神は無い。だけど助けられる範囲に困ってる人がいるのなら、こうして力になるのも悪くない。


「先輩、実は人助けの仕事とか向いてるんじゃないんですか?」


「いや、さすがにそこまで他人に時間使いたくないかな。もっとダラダラしたい」


「とか言いながら、いつも一年生に色々教えてるの知ってますよ?」


「あれホント何とかなんないかな……いつまでも便利屋みたいな扱いされたくないんだけどな」


「だったら断ればいいじゃないですか」


「それは分かってるけどさ……真面目に学びたくて訪ねてきてる奴を『面倒だから』って理由で跳ね除けるのも気が引けるし……」


「……ふふっ」


困り果てるように言うアランの隣で、リデラは急に笑い出した。


「え、俺なんか面白いこと言った?」


「いえ、先輩ってそういうところは律儀だなって。なんだかんだ言いながら優しさを捨てられないところとか、先輩の長所だと思いますよ」


「そういうモンなのかねぇ」


面倒くさがりで、常に楽を求め、課せられた役割から逃げて、それで誰かの迷惑になっても平然としている。

我ながら結構な我儘野郎だとは思うが、他人からの評価となると、また違ってくるらしい。


「とりあえず、俺はさっきの場所に戻るよ。ひったくり犯を放置してるから」


「それ大丈夫なんですか?」


「大丈夫だよ多分。動けないようにはしてるから」


尤もシエルが起きている限りだが。


「お前は先に帰って良いよ。一緒に来ても特にやること無いだろうから」


「そうですか。なら私は先に帰りますね」


「ああ。今日はありがとな」


「こちらこそです。明日の序列戦、見に行きますね」


「いや頼むから来ないでくれ。それで俺負けたらマジで悲惨なことになっちゃうから」


などと言ってみたものの、ほぼ確実にリデラは来るだろう。

余計に精神的な負担が増えてしまった。ため息を吐きながらも、アランはシエルの元に戻るのだった。



その後、ひったくり犯を警備隊に突き出したアランは、そのまま学生寮に帰った。

散歩に出たはずなのに逆に疲労が溜まった気がするが、それでもリフレッシュにはなったと言える。

それからは特に何かすることもなく、アランは一日を終えるのだった。








翌日、遂にその時は来た。

アラン・アートノルト対ロベリア・クロムウェル。

今年度の第一回序列戦に於いて、多くの生徒が待ちわびていた激戦の時であり、そして──



───この日、皆は改めて思い知ることになる。






アラン・アートノルトという、バケモノの()()を。

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