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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第二章
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第四十四話 街歩きは後輩と共に

「アァァァァ……疲れた……」


午後三時頃。疲労感を漂わせながら、アランは学園長室から出てきた。

これ以上戦えば明日に響きかねないし、何よりシリノアの時間が無いということで、今日の特訓は終わった。

やれるだけの事はやった。後は明日までゆっくり休み、コンディションを整えるだけだ。


(どこ行こっかな……)


この後は特にやる事はない。

闘技場に行って序列戦を観戦しても良いが、友人たちの試合はとっくに終わっているだろう。

知り合い以外の試合は正直あまり興味がないので、行く気は湧かない。

学生寮の自室に戻るのもアリだが、それはそれで暇すぎる。かと言って友人たちの居場所も分からないから、会いに行くこともできないし……


「……散歩でも行くか」


思い付いたのは散歩だった。買いたい物は特に無いが、食べ歩きなんかも出来るし、もしかしたら面白い物が見れたりするかもしれない。

考えたアランは学園の外、王都へと向かった。



***



エルデカ王国の中枢である『王都』。王国内で最も栄えた街であり、エルデカ王国立聖装士学園がある場所でもある。

衣類、食料、家具、娯楽、医療、戦闘用具、その他諸々。王都には何でも揃っている。学園の生徒が休日に街歩きに出ることもよくある。

アランも今は街歩きを楽しむ一人の少年。ただ学園の制服は王都では目立つので、いつのも黒のローブは『虚空の手』の中に収納してある。

今は黒の長ズボンと白シャツを着た普通の少年だ。


(今日も賑わってるな……王都は)


考えながら、アランは先程買ったサンドイッチを頬張った。

この辺りは食料系の店が多く並んでいる。普通の食料品からデザートを売る店まで。食べ歩きには事欠かない。

そうして歩いていると、アランは一つのベンチを見つけた。

そろそろ座って食べてようか。そう思ったアランはベンチに腰掛けて、


「……はぁ」


一度ため息を吐いた後、こう言った。




「お前も座ったらどうだ?リデラ」


「ッ!?」


アランが座るベンチの後ろで、誰かが跳ねた。

振り向くと、そこには見慣れた後輩──リデラ・アルケミスがいた。しかも一体いつ買ったのか、手にはクレープを持っている。クリームの上にイチゴやジャムが盛り付けられた、見るからに甘そうなクレープだ。


「い、いつから気づいてたんですか!?」


「最初から気づいてたよ。俺が学園を出るちょっと前から、なんかお前の魔力反応がずっと俺の後ろを付いて来てたから」


「気づいてたならもっと早く反応してくださいよ!」


「理不尽過ぎる逆ギレに先輩は大困惑だよ……って言うか、お前の方こそなんで黙って付いて来てたんだよ。声掛けろよ」


「いやその……なんて言うか、先輩の邪魔したら悪いかなって……」


「別に怒んないけどさ、せめて一声かけてくれ。じゃないと俺も対応に困る」


学園を出る少し前から、アランはずっと自身の後ろにリデラの魔力反応を感じていた。

魔力の性質は人によって差がある。アランもリデラと関わる内に彼女の魔力の気配を覚えていたので、背後にいるのがリデラだとすぐに理解できた。

最初は偶然かと思った。リデラも王都でやりたいことがあったが、ちょうど同じタイミングでアランが学園から出たから、結果としてアランの後ろを付いて行く形になってしまったのかと。

だけど違った。どこへ行ってもリデラはアランに付いて来た。それどころか追跡しながら自分の買い物までしていた。

さすがにアランもリデラが意図的に付いて来ていることに気づいた。だが一向にリデラが声をかけてくる気配がなかったので、仕方なくこちらから声をかけてやることにした。


「それで、結局お前は何しに来たんだ?」


隣に座ったリデラに尋ねた。


「普通に暇だったので、何しようか迷ってたら先輩を見つけて……」


「それで付いて来たって訳か。ところでお前、序列戦は?」


「私は四日目なので、まだ大丈夫です。むしろ先輩の方こそ、こんな所に居て良いんですか?明日ですよね?」


「俺はもうやれるだけの事はやったよ。後は試合まで休んで調子を整えるだけだ」


「もしかして今日特訓してきたんですか?」


「したよ。内容は教えないけど」


「やっぱりそうですよね」


問いの返答はいつも通りの『教えない』。もはやリデラはアランの隠し癖に慣れてしまった。


「皆楽しみにしてますよ、先輩の序列戦。学年実力序列トップ10同士の試合なんて滅多に見れないから。先輩の聖装具が見れるかもって期待してる人もいました」


「勝手に俺の試合を娯楽みたいに考えないでくれないか?こっちは必死なんだぞ」


「本当に必死な人は聖装具を隠さないんですよ」


「あーうるせー」


あまりのド正論を前にアランの語彙力が一気に低下した。もはや聖装具を使わない言い訳を考えることすら面倒になりつつある。


「でも先輩的にどうなんですか?ロベリア先輩は」


「アイツは強いよ。実力序列はリオの一つ下だけど、俺からしたらリオよりもずっとやりにくい相手だ。むしろリオはまだ相性が良かった。俺もアイツもバランス重視だからな。ステータスが似てるだけに、小細工が効きやすかったってのはある。だけどロベリアはそうじゃない。ぶっちゃけアイツは『頭脳戦の天敵』と言っていい奴だ。マジで戦いたくない」


「そんなに強い方なんですね。なんだか明日の試合が楽しみになっちゃいました。先輩がどんな戦い方をするのか」


「だーかーらー期待しないでくれって」


それで負けたら俺どんな顔したら良いんだよ。笑えねぇぞ、マジで。


「ったく、どいつもこいつも俺をなんだと思ってやがる」


「聖装士一の異端者」


「実際その通りなのがなんとも言えねぇ……」


「先輩の象徴ですからね。最近知ったんですけど、私たちの学園って意外と異名を持ってる人って多いですよね」


「うちの学園は強い奴が多いからな。学年の最上位の奴なら、王家直属聖装士団に所属してる現役の聖装士よりも強い奴とかいるし。特に俺以外の『学園最高戦力者』はエルデカ王国トップ5なんて言われてる」


「いやなんでそこで先輩だけ除外するんですか。先輩も『学園最高戦力者』じゃないんですか」


「俺の地位は運で得たようなものだからな」


「じゃあどこに運要素があったって言うんですか」


「第四位の奴に無傷かつ魔力にも余裕がある状態で降参された」


「えぇぇ!?」


「あと第三位の奴に試合棄権された。つまり不戦勝だ」


「えぇぇぇぇ!?」


これでもかとオーバーリアクションを見せるリデラ。そこまで驚くことだっただろうか。


「そんな馬鹿なことがあり得るんですか!?」


「あの二人は試合結果や成績に固執してないからな。そういうことを抵抗なく出来る奴なんだよ」


「な、なるほど……」


いつぞや学園長室でシリノアに言われた事を思い出した。

『二年生の序列トップ4の生徒はアリシア以外が全員サボリ魔』なんて言っていたが、まさにその通りだった。


「ちなみに先輩は試合を放棄したことは……」


「無いな。まぁ強いていうならアリシアに降参したってのがあるけど……あの時はもう魔力も体も限界だったし、『奥の手』も全部出し尽くしてたからな。降参するしかなかった」


「でも聖装具を使ったら変わってたのでは?」


「いーや無理。アイツに限らず俺以外の『学園最高戦力者』は全員チートみたいな聖装能力持ってる奴しかいないから。仮に俺が聖装具を使えたとしても結果は変わらなかったよ」


言って、アランは食べ終えたサンドイッチの包み紙をポケットに入れた。同じタイミングでリデラもクレープを食べ終えた。


「さて、俺はそろそろ別のところ行くが、お前も来るか?」


「え、良いんですか?」


「良いよ。俺も目的がある訳じゃないから、面白い所には連れて行ってやれないけど。一人で歩くよりはマシだろ」


「だったら付いて行きます!」


ベンチから立ち上がると、二人は共に移動を始めた。

その後は適当に目についた店を見て回った。他の食べ物を買ってみたり、書店に入って本を見たりと。自由な時間を過ごしていると、やがてその場所にたどり着いた。


「……?先輩、あそこに人が集まってますよ?」


「ホントだな。何かやってんのかね」


王都の一角、少し開けた場所に人集(ひとだか)りができていた。

なにか見せ物でもやっているのだろうか。気になった二人が近づいてみると、聞こえてきたのはピアノの音だった。ストリートピアノというヤツだ。

誰がピアノを弾いているのか、遠目で二人は演奏者の姿を見た。


そこに居たのは、一人の少年だった。

年齢はアランと同じくらい。伸ばした灰色の髪を三つ編みにして束ねて、背中に垂らしている。

少年の演奏は見事な物だった。流麗かつ軽やかな手つきで奏でられる音色はまさにげ術的だ。


「……すごい」


思わずリデラは呟いた。普段はあまり音楽を聴くことはないが、それでも聞き入ってしまう。それだけ彼の演奏は上等な物だった。


だが、その隣で……


「……何やってんだアイツ」


アランは困惑の表情を浮かべていた。


「先輩、もしかして知り合いですか?」


「え、まぁ知り合いだよ。うん」


微妙な反応を示すアランに疑問を感じていると、演奏は終わった。聞いていた者は皆拍手をし、少年は椅子から立ち上がってお辞儀をしている。

どうやら今のが最後の曲だったようだ。人集りがなくなっていく中、アランは少年に近づいて、言った。


「お前にストリートピアノをする趣味があったとは思わなかったよ。本業は指揮者じゃなかったのか?()()()()


「確かに僕は指揮者だ。だが指揮者たるもの、指揮する相手や楽器のことも理解していなければならない。だからこうして他の楽器もやっているんだ」


「殊勝な心掛けだな。感心したよ」


「それはどうも、アートノルト」


慣れた感覚でアランは少年と言葉を交わす。少年もアランの事を知っているようだ。


「あの、先輩。この人は……」


すっかり置いてけぼりにされたリデラが困惑しながら尋ねる。

アランはリデラに向き直って、話し始めた。


「コイツはミハイル・ラッドマーク、うちの学年実力序列第三位で『学園最高戦力者』の一人だ」


学年実力序列第三位、ミハイル・ラッドマーク。『学園最高戦力者』の一人であり、『理想』を司る聖装士だ。そのことから『万色(バンシキ)の聖奏者』の異名を持つ。


「この人が第三位だったんですか。学生でこんなにピアノが上手な人っているんですね」


「コイツは音楽家だからな。『レーヴェル交響楽団』って知ってるか?コイツはあそこの指揮者やってる」


「え、えぇぇぇ!?」


派手に驚愕した。リデラはアランが言う『レーヴェル交響楽団』を知っている。なんなら過去に演奏を聴きに行ったこともある。

『レーヴェル交響楽団』は主にエルデカ王国の王都で活動している音楽団体だ。同時にエルデカ王国で最も人気がある音楽団とも言われている。

普通、学生が所属するような組織ではないはずだが、ミハイルはそこで指揮者を務めている。


「はははっ!良いリアクションだね」


「そりゃ驚きますよ!『レーヴェル交響楽団』って王都一の音楽団じゃないですか!学生がそんなところで指揮者なんて……学業と両立できるんですか?」


「出来てないからコイツもサボリ魔って呼ばれてんだよ」


「君が言うかい?」


「お前よりは出席しとるわ」


ミハイルは頻繁に学園をサボっている。その理由は単純で、彼が学業よりも音楽を大切にしているからだ。

勉強よりも楽団の仲間たちとの練習を。聖装士としての責務よりもオーケストラを。そうして音楽を優先し続けた結果、彼もまたサボリ魔と呼ばれるようになった。


「そういえば、アラン先輩って第三位の人に序列戦で試合棄権されたって言ってましたよね。その人ってもしかして……」


「ああ、コイツだ」


「なんだアートノルト、あの時の事を話したのかい?」


「別に隠すような話でもないからな。流れで話したってだけだ」


「そんなこと言って、実は根に持ってたり?」


「ある意味根には持ってるよ。お前のせいで俺はアリシアと戦わされることになったんだからな」


「そっか。先輩が不戦勝で勝ち上がったから、アリシア様と戦うことになったんですね」


「そうだよ。まったくお前らサボり組のせいで酷い目に遭ったよ」


「どちらかと言えば酷い目に遭ったのはアリシア様の方だと思うけどなぁ」


誰に対してのものなのか分からないが、同情の意を込めてミハイルは言った。


「とりあえず、そろそろ僕は学園に戻るよ。もう演奏は終わったからね」


直後、ミハイルの右手に指揮棒が現れた。

銀と金を基調とした外見で、持ち手には虹色の植物の模様が付いている。

ミハイルは指揮棒をピアノに向けて軽く振った。するとピアノと椅子は光の粒子となって、彼らの前から消滅した。


「ピ、ピアノが消えた!?」


「君は本当に良いリアクションを見せてくれるね。感性豊かな人は好きだよ」


「後輩の反応で遊ぶなよ……」


「はははっ!『叡傑(エイケツ)の暴虐者』とまで呼ばれる君がそれを言うかい?」


「勝手に妙な呼び方するな。俺はあくまで異端者だ。その変な異名は認めてねぇ」


「そうか、悪かったね。なら僕はさっさとここから消えるとしよう。明日の序列戦、応援してるよ」


そうしてミハイルはアランたちの元から立ち去った。

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