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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第二章
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第二十七話 ちょっと変わった一日

第二章です。色々振り返りながらやっていきますので、よろしくお願いします。

『序列戦』──それは同学年の生徒同士が戦い、その勝敗から学年実力序列を決めるシンプルな勝負。

もちろんドーピングだとか薬物の持ち込みだとかは禁止されているが、それ以外に基本禁止事項はない。

好きな技を使い、好きな戦術を用いて戦える。相手を傷つけるのもオッケーだ。万が一対戦相手を殺してしまっても、それが意図的でなければ許されるほどに。

今のところ死人が出たことはないが、負傷者はほぼ毎試合出る。それほどに生徒たちは序列戦に真剣に挑んでいるのだ。

学年実力序列は本人の実技成績や周囲からの評価に繋がる。それこそ将来の進路にだって役立つだろう。

故に生徒たちは勝つために躍起になる。試合に備えて特訓したり、作戦を考えたりと。やれる限りの事を尽くすのだ。


そんな壮絶な序列戦の開催が、すぐそこに迫っていた。



***



アラン・アートノルトがロベリア・クロムウェルから殺意に満ちた宣戦布告を受けてから三日後の昼休みのこと。

高級感ある黒のローブを羽織る生徒たちが行き交う食堂の中。昼食を摂るべく、ある少女が食堂に来ていた。


リデラ・アルケミス──ヘアリボンがついた金色の長髪と炎のように赤く染まった瞳が特徴の少女。凄まじい才能と実力から新入生代表に選ばれ、『烈火の女帝』の二つ名で知られている。

元々は自信に満ちた少女だったが、アランに負けたことをきっかけに自分を見つめ直し、今は自己研鑽を積んでいる最中。

そんなリデラの隣にいるのは二人の友人。


片方はエレカ・ヴァルパレス──青緑の髪をポニーテールにして纏めている少女。

学園でもトップレベルの剣技の持ち主であるが、勉強が絶望的にできないという欠点を持つ。

ちなみにアランに弟子入りを志願したことがある。もちろんアランには断られた。


もう片方はナタリア・ヘンリエッテ── ヘアゴムで結んだ白髪を両肩にかけ、それ以外は肩の辺りで切り揃えている少女。

いわゆる戦闘狂であり、夜道でアランに背後から奇襲を仕掛けたという馬鹿みたいな経歴を持つ。しかし時と場は弁えるタイプなので、大事な場面では冷静な判断も出来る。


リデラたちの手には昼食が乗ったプレートがある。あとはどこに座るか。

食堂を見回して、空いてる席を探していたところ。


「……あれ、あそこにいるのリオ先輩じゃない?」


ナタリアが言った方向には知っている人物と、その友人と思わしき人物たちが座っていた。


青髪の美形な少年、リオ・ロゼデウス。

顔良し、性格良し、勉強良し、おまけに学年実力序列第七位と。完璧なイケメンとして学園全体の女子から高い人気がある。


紫の短髪をした少女、アシュリー・フォンラッド。

アランと同じ二年生で十七歳のはずだが、その仕草や雰囲気はどう考えても十七歳のものではない。

ちなみに勉強はかなり出来る。


黄緑の長髪をした美少女、フィアラ・ミシリス。

気品があり、優雅さも兼ね備えている。アシュリーとは対称的にお淑やかな雰囲気がある。


金髪の自称イケメン少年、レオン・アルバート。

実際イケメンだし性格も特に問題はないのだが、日頃の発言が終わってるためそこまで人気はない。


「あっち行ってみる?知らない先輩もいるっぽいけど」


「そうですね。いい機会ですし、先輩方と仲良くなっておきましょう」


「じゃあ早速行くっすか!」


四人の中で関わりがあるのはリオだけだが、せっかくならこの機会に他の先輩とも交流を深めよう。三人はリオの元に向かった。

すぐ近くまで来ると、リデラたちに気づいたリオが顔を向けた。


「久しぶりだねリデラさん。今からお昼かい?」


「はい。良かったら同席してもいいですか?」


「もちろん。皆も構わないか?」


アシュリー、レオン、フィアラは揃って頷いた。

リデラたちは空いた席に座ると、プレートを机の上に置いた。


「この子達が例の後輩ね。とりあえず初めましてだから、自己紹介だけしましょうか。私はフィアラ・ミシリス。こっちのどう見ても二年生には見えない子がアシュリー・フォンラッド。それでこっちがレオン・アルバート、自称イケメンよ」


「誰が自称だ!ボクは正真正銘の──」


「私はリデラ・アルケミスです。こっちがエレカ・ヴァルパレスで、こっちがナタリア・ヘンリエッテです」


「初めまして〜」


「初めましてっす!師匠のご友人とお知り合いになれて光栄っす!」


「師匠?」


「あー、なんでもアランの弟子志望らしい」


「志望ってことは、本当の弟子ではないんだな」


「はいっす!さすがに弟子は無理って断られたっす!」


「凄いわね。自分の先輩に弟子入りを申し出るなんて。この学園でそんな事あったかしら?」


「さすがに無いと思う。どう考えても生徒の間でする事じゃないし」


「ほら、やっぱりエレカの行動は行き過ぎてるんだよ」


「だとしても後悔はないっすね!結果的には師匠と仲良くなれたので!」


実際あの時アランに頼み込んだおかげでアランと仲良くなれたし、今でもたまに勉強や体術、魔法を教えてもらっている。


「それと今更なんすけど、どうして師匠はここにいないんすか?」


そこでようやくエレカはその事を口にした。

今、珍しくこの場にはアランがいなかった。

アランはリオたちとは特に仲が良い。食事だって都合が合う限りは彼らと共に摂っている。

そんなアランが何故かいない。


「もしかしてもう食べ終わっちゃったんすか?」


「いや、そもそも学園に来てないよ。アランは今、というより三日前から()()()()()()()()()からね」


「え、じゃあどこに?」


「詳しい話は僕らも聞いてないけど、王都にいないのは確かだね。なんでも少し離れた街に行っているらしい」


「街?もしかして旅行っすか?」


「いやいや、今日平日だよ?いくらパイセンでも学園を放ったらかしてまで旅行は行かない……いや、やっぱりあの人なら行きそう」


「否定しきれない気持ちは分かるわ……」


実際アランは過去に何度か学園を無断欠席している。それにアランは常に何を考えているのか分からない謎多き面倒くさがり。

そんなアランなら突然学園を休んで旅行に行ってもおかしくないと、この場の誰もが思った。


「一応言っておくけど、アランは旅行で学園を出ている訳じゃない。()()を受けて、それをこなす為に向かってるんだ」


「え、アラン先輩って依頼なんて受けてたんですか?」


「ああ、受けてるよ。なにせアランは『学園最高戦力者』の一人だからね」


「学園最高戦力者?何それ?」


ナタリアたちは初めて聞く言葉だった。

言葉からして大体の意味は分かるが、そのような存在がこの学園にいたのは初耳だ。


「そうか、一年生(君たち)は知らないのか。なら説明するよ」


食事の手を止め、リオは話す。


「『学園最高戦力者』の意味はそのまま、この学園で最高の実力を持つ生徒のことだ。今のところ『学園最高戦力者』と呼ばれる生徒は五人。全員僕らと同じ二年生だ。序列一位のアリシア様、第二位のアラン、第三位のミハイル・ラッドマーク、第四位のシエル・グレイシア、第五位で風紀委員長を務めてるグレイ・フォーリダント。この五人だ」


「なんと!師匠ってそんな凄い方だったんすか!」


「凄いなんてもんじゃないわよ。あの五人は『学園最高戦力者』なんて呼ばれてるけど、ぶっちゃけ『国家最高戦力者』みたいなモノよ。あの五人に勝る聖装士は学園長を除けばエルデカ王国には存在しないわ」


エルデカ王国は世界でも最上位に位置する大国だ。それ故に国内の聖装士の人数は比較的多い方であり、聖装士の実力も高い。

そんなエルデカ王国でトップ5に君臨するとなれば、それは規格外の実力者である事は容易に想像できる。


「それだけ高く評価されてるだけあって、『学園最高戦力者』には学園外から依頼が来るんだ。なにせこの国のトップ5に位置する聖装士だからね。彼らの実力に頼りたいという人は大勢いる」


「それで頼まれた依頼をこなす為に、アラン先輩は今学園外に出ているんですか?」


「そういうことだ。毎月アランは今日みたいに何度か依頼で学園外に出てるよ」


「へぇ、大変なんですね。アラン先輩も」


予想もしなかったアランに対する周りの評価の高さと、本人の多忙さに驚いた。

ただこれまでの話を聞いていると一つの疑問が湧いてくる。


「あれ?でも序列戦もう目の前ですよね?二日後には始まりますし……大丈夫なんでしょうか?」


序列戦の開催はすぐそこだ。もちろんアランも序列戦に出場する。

アランの対戦相手は学年実力序列第八位ロベリア・クロムウェル。いくらアランが強いとは言え、ロベリアも負けず劣らずのバケモノだ。

アランたち二年生はこの学園に於いて、ここ数十年の中でも平均してレベルが高い。特に学年実力序列トップ10以内の聖装士は全員が人間の常識を超えていると言われるほどだ。

ロベリア・クロムウェルもその一人。さらに不運なことに、ロベリアの聖装能力はアランにとって相性が悪い。

実際アランも『あ〜マジでどうしよ』と嘆いていたくらいだ。アランに他の事にかまけている暇などないはずだが。


「さぁ?そこは僕も分からない。ただ最後に僕がアランに会った時には物凄く不機嫌そうな顔をしてたよ。『ロベリアとの序列戦が控えてるってのに依頼を押し付けるとか何考えてやがるあの馬鹿野郎は!』ってキレ散らかしてた」


「……ちなみに、その馬鹿野郎っていうのは」


「アリシア様の事だろうね」


「えぇ……なんであの人そんなにアリシア様に対して遠慮がないんですか」


「それは僕らも思うけど、最初からそうだったわけじゃないさ」


「そうなの?」


てっきりアランのことだから生まれた時から礼儀知らずで、その影響で王女(アリシア)にもあのような態度をとっているのかと思っていたが。


「最初は僕らと同じように接していたさ。敬語で話していたし、名前も『アリシア様』って呼んでいた。さすがのアランも最初から王女様にラフな態度を取れるほど肝は据わってないらしい」


今でこそ友達のようにアリシアと接しているアランだが、初めは皆と同じように接していた。

逆らうこともなく、礼儀を崩すこともなく、ましてや頼まれた事をフル無視して逃げ出した結果アリシアと地獄の鬼ごっこをすることもなく、王女を相手にするに相応しい接し方をしていた。


「ならどうして今はあんな態度なんですか?」


「それは僕らも分からない。ただタイミングは確か……アランが序列戦でアリシア様と戦った後だったかな。気づいたらアランの態度が変わってた。思えばアリシア様も同じタイミングでアランに対する態度を変えていた気がするよ」


「仲良くなったきっかけについて聞いてみたけど、アランは何も教えてくれなかったわ。余程踏み入られたくないプライベートな話なんでしょうね。本当何から何まで謎な人よ」


アランの友人であるリオたちですら、その事情については教えてもらえなかった。

二人の間に何があったのか。それを知っているのは当事者であるアランとアリシアだけだ。


「そういう訳だから、もうしばらくはアランは戻ってこない」


「『序列戦までには戻ってくる』って言ってたけど、本当に間に合うのかな?」


「その時は試合を延期するって話らしいし、なんとかなるだろ。まぁアランなら序列戦だけ参加しに戻って来て、蜻蛉(とんぼ)返りで依頼の続きをしに戻ったりしそうだけど」


「本当にどこまでも自由人ですね」


「あれくらい自由な人の方が強くなれるのかもね。実際アラン含め、第二位から第五位の四人は全員自由人だから。それもアリシア様相手でも躊躇なく反抗するレベルの」


「それはただの無礼者でしょ」


強い奴ほど癖が強い。それを体現したかのような人間がアラン、ミハイル、シエル、グレイの四人だった。

彼らにはアリシアのような殊勝な精神など無い。ある者は楽を求めて、ある者は面白いものを求めて、ある者は穏やかな睡眠を求めて、ある者は己の正義を求めて。

彼らはどこまでも自由に、好き勝手に振る舞うのだ。



***



一方その頃、無礼者ことアラン・アートノルトは何をしていたのかというと……。


「あ────────暇」


とある教会の中、並べられた横長の椅子の一つに一人虚しく座っていた。

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