第二十六話 宣戦布告は早朝に
命懸けの遺跡探索からしばらく経ったある日の早朝。アランはリオ、アシュリーと共に学園に来ていた。
三人はたった今学園に着いたばかり。これから食堂に行って朝食を摂るところだ。
「ふぁぁぁ〜眠い眠い……」
「いい加減起きろよ。お前が遅いから俺たち全員遅れたんだぞ」
「レオンとフィアラが先に行って席を取ってくれているけど……この分だと食堂は混んでるだろうね」
朝食、昼食、夕食、その全てを学園の生徒は基本食堂で済ませる。なので朝の食堂は朝食を摂りに来た大勢の生徒で混雑するのだ。
混雑を避けたければ他の生徒より早く食堂に行くしかないのだが、今日はアシュリーが少し寝坊したせいで遅れてしまっている。
アランとリオがアシュリーを起こしている間に、レオンとフィアラは食堂に行って席を確保しに行った。これ以上二人を待たせるわけにもいかないので、早急に食堂に向かいたいところだが。
「にしても、今日はいつも以上に皆ザワザワしてるな。なんかあったのかな?」
「この時期にイベントなんて無い筈だけど」
「朝っぱらから皆元気過ぎる。なんで眠くならないの?」
「俺だって眠いよ、けど頑張って起きてんだよ。て言うか本当に見れば見るほどお前シエルに似てるな」
「むぅ……私はあの人とは違う。もっと知的だから」
「そうは言っても、シエルさんも定期試験の順位高くなかったか?確かいつも学年順位は二、三位くらいだったはずだけど」
「アイツは地頭良いからな。おまけに聖装能力で睡眠学習も出来るから、寝てても講義の内容完璧に覚えられるし。チート聖装能力をフル活用してやがる。ちょっとくらい俺にもその能力を分けて欲しいんだけどな〜」
「そのシエル・グレイシアを押し除けていつも定期試験で学年一位に居座ってるアランが言う?」
「俺は勉強してるから」
「私も勉強してる」
「僕も勉強してるはずなんだけどなぁ……君たち二人に全く追いつける気配がしないのはどうしてだろう」
学園入学前、シリノアと同居していた頃にアランはシリノアから大聖者流英才教育を受けていたので、勉学には自信がある。
そしてアシュリーも同様に勉強はかなり出来る、定期試験の学年順位で常に学年一桁代をキープしている程には。
リオも勉強が出来ないわけではない。むしろ出来る部類なのだが、アランたちには及ばない。定期試験の学年順位はいつも十位代だ。
「あと二、三週間もすれば定期試験だし、また勉強しないとな」
「それはそうだが、君は勉強する時間あるのかい?」
「まぁ頑張って時間は確保するけど……一年生がどう来るかによるよな」
遺跡探索からしばらく経った今でも、アランの元を訪ねて来る一年生は途絶えていなかった。むしろ以前より人数が増えてるまであった。
アランが『封印指定クラス』の怪物と一人で互角以上に戦ったという話が学園中に広まったからだ。そこからアランの実力に頼ってみたいと思った一年生がほぼ毎日のようにアランの元に押しかけて来ており、今でもアランは一年生の対応に追われていた。
ちなみにその話を広めたのはエレカである。
「でも僕も巻き添い喰らってるからね。最近一年生がちょくちょく押しかけてくるから、ちょっと対応に困ってるよ」
さらにその被害の巻き添いを受けたのがリオだった。
途中からアランと共闘し、二人で怪物を倒したということで、リオにも注目が集まった。
もとよりイケメンなことで知られていたリオだが、今回の一件が彼の人気に拍車をかけていた。
もちろんリオの話を広めたのもエレカである。
「人気者は大変だね、やっぱり私はゆったり出来る今の状況が一番」
「俺もゆったりしたいんだけどなぁ。いつになったら落ち着くんだ、この一年生ラッシュは」
「君が活躍する限りは落ち着かないんじゃないか?」
「うげ、めんどくさ」
「そう言いながら真面目に一年生の対応してる辺り、アランも優しいよね」
「そりゃ皆も真面目に学びたくて訪ねてきてんだから。めんどくさいの一言で一蹴する訳にもいかねぇだろ」
我ながら中途半端な性格だと思う。面倒だと感じながら、他人の誠意を無視できない。
悪いことでは無いのだろうが、この性格はどうしたものか。
アランが考えていた、その時。
「ここに居たか、アートノルト」
不意にアランの名を呼ぶ声が聞こえてきた。
右を向いてみると、そこに居たのは一人の少女。
赤髪をポニーテールで束ねている。雰囲気は厳格で、覇気を感じる。あまり他人が寄ってくることはなさそうだ。
この少女の名は───。
「あ、《破壊の君主》じゃん!」
「なぜ聖装具の名で呼ぶんだ。普通に名前で呼べ」
学年実力序列第八位、ロベリア・クロムウェル。アランたちと同じ二年生。
朝っぱらからのアランの弄りに対して、ロベリアはため息まじりに返答した。
「ははっ冗談だよ。それで、どうしたロベリア?今から俺たち朝飯だけど、一緒に行くか?」
「朝食は既に済ませているから遠慮しておこう。私が会いに来たのは別の要件だ。アートノルト、お前に少し話したい事があってな」
「それって長いヤツ?」
「一分以内には終わるから安心しろ」
早く食堂に行きたいところだが、一分程度なら構わないか。
アランはロベリアの話を聞くことにした。ついでにリオたちも一緒に。
「お前が知っているかは知らんが、五日後から今年度の『第一回序列戦』が始まる。形式はいつも通り、平日は放課後、休日は一日通して試合をする」
「序列戦……ああ、そういやそうだったな」
一年生の来訪のせいですっかり頭から抜けていたが、もう序列戦の時期だった。
「そして今日、序列戦の対戦相手が発表された。正面玄関の掲示板に対戦相手は貼ってある」
「もう対戦相手が出たのか。だから今日は皆やたらと騒がしく…して………」
そう言いかけて、
「………ん?」
気づいた。自身が置かれているであろう状況に。
わざわざロベリアが自ら俺に会いにきた理由。そして序列戦の話を持ち出し、さらに対戦相手について語り出す理由。
考えたくない。まったくもって考えたくないが……まさか。
「なぁロベリア、俺の対戦相手って……」
「ああ、私だ」
「ッ────」
最悪の予想が、的中してしまった。
「ここに来たのは宣戦布告のためだ。私は殺すつもりでお前に勝ちに行く、死にたくなければお前も聖装具を使う準備をしておくんだな」
「…………」
もはや言葉も出なかった。
嘘やろ?俺の対戦相手よりにもよって第八位ってマジ?初っ端から?
思考が驚愕に染まってフリーズしている。
「それでは私は戻らせてもらおう。邪魔をして悪かったな」
言いたいことだけ言って、ロベリアは去っていった。
数秒は誰も動けなかった。全員驚愕しているのだ、まさか初戦からアランの相手がこれほどの強敵だとは。
それでも、ようやく動いた口でアランは言った。
「…………なぁ、俺もしかせずとも今殺害予告された?」
「はははっ……頑張れよアラン」
「笑い事じゃないって!アイツやばいって!何が『殺すつもりで勝ちに行く』だよ『殺すついでに勝つ』くらいの勢いだったぞアレ!?殺す方がメインだったぞ!?」
「アラン頑張ってね、もし死んだらアランの遺骨を私のコレクションに入れとくから」
「いやそこは普通に墓に入れてくれ……ああクッソ、ただでさえロベリアは相性悪いのに、どうして初っ端から……!」
遺跡探索で『封印指定クラス』の怪物と激闘を繰り広げたかと思えば、今度は学年実力序列第八位ロベリア・クロムウェルとの序列戦。しかもロベリアは殺す気満々だ。半端な覚悟で行けば本当に死ぬかもしれない。
まさに一難去ってまた一難。アラン・アートノルトは次なる強敵との戦いを前に、深いため息をつくのだった。
数日前、『パレスの地下遺跡』の最下層にて……。
「あちゃ〜これ完全に崩落してますね」
崩落した一本道を前に、気楽な声で男が言った。
男は全身を漆黒のローブで身を包んでいる。顔もフードを被っていて見えない。
「さすがにこれじゃあ先には進めないですね」
「そうだな。それにこの先からもう魔力を感じない。おそらく目標は既に消滅している。回収は不可能だ」
隣に立つもう一人の男が言う。彼も同じくローブで姿を隠していた。
「せめて『魔装具』を抽出できたら良かったが、完全消滅していてはそれも不可能だな」
「誰がやったんですかねぇ。仮にも『封印指定クラス』なんだから簡単にはやられないと思うんですけど……やっぱりここに聖装士が来たんですかね?」
「そうとしか考えられないな。こればかりは運が悪かったとしか言えない。まさか『封印指定クラス』に打ち勝つほどの聖装士がここに来るとは」
思わぬ障害によって、彼らの計画は瓦解した。
これはかなり痛手だが、起きてしまった事は仕方ない。こうなったら代わりの計画を進めるまでだ。
「あ〜あ、せっかく苦労してここまで来たのに。これじゃあ無駄足じゃないですか」
「文句を言っている暇はないぞ。一度戻って報告を済ませたら、代わりのモノを取りに行く」
「え〜また仕事ですか?いい加減休みたんですが………って、ちょっと!置いて行かないでくださいよ!」
愚痴を吐く相方を無視して、男は遺跡から帰るべく歩き出した。その後をもう一人が慌てて追いかける。
人々が生きる世界、その裏で。密かに影は蠢いていた。
《第一章・完》




