第二十二話 勝利の後は?
アランが放った雷炎が消えた時には、既に怪物は消滅していた。
怪物の体は一片たりとも残っていない。千年前より未来へパレス・ハトラートスが託した黒き厄災は、アランとリオの手により遂に葬られたのだ。
アランは地面に降り立ち、『虚空の手』に武器を収納して振り返る。その先にはリオがいた。
疲労を込めた息を吐くと、リオも笑みを浮かべた。
無事に戦いは終わった。一時はどうなるかと思ったが、なんとかなって良かった。
安堵するアランとリオの元に、リデラたちが駆け寄ってきた。
「先輩!大丈夫ですか!」
「おーバッチシだ。お前らこそ怪我は無いか?」
「私たちは問題ないっす。結界で衝撃は防いでたので」
「結界越しでもバンバン衝撃来てたけどね。私たちまで巻き沿いくらうかと思ったよ」
リデラたちも怪我をしている様子は無い。
周りを気にせず戦っていたから貰い事故を受けてるのではと思ったが、無事で良かった。
「アランは随分一年生と仲が良いんだな。もしかして知り合いだったのかい?」
「まぁな。リデラは知っての通り、エレカとナタリアも数日前に会ってる」
「それは……なんとも面白い偶然があったね」
「そっちはどうだったんだ?引率する一年生に知り合いはいなかったのか?」
「いいや、そもそも僕はまだ一年生の知り合いがいないからね」
「そういやお前交流会参加してなかったな」
入学式の日、アランと一緒に夕食を摂るためにリオとアシュリーは交流会を途中抜けしていた。ちゃっかり交流会で提供されていた食事だけ持って帰って。
「先輩、そちらの方は?」
「こいつはリオ・ロゼデウス。俺と同学年の友達だ。ちなみに学年実力序列は第七位だ。めっちゃ強いぞ」
「序列二位にして『学園最高戦力者』の一人である君がそれを言うか」
「でも事実クソ強いじゃん、近距離も遠距離も俺と互角かそれ以上じゃん」
「それは君が『本気』を出さなかったらの話だろう……」
思い出すのは一年生の時の序列戦、それはリオが初めてアランと戦った日──リオ・ロゼデウスが人生で初めて『完敗』の二文字を身をもって知った日のこと。
過去の苦い記憶を回顧しながら、ため息を吐いていると、
「あ〜リオ・ロゼデウスってこの人か」
「お前知ってたのか?」
「知ってたって言うか、噂で聞いたの。二年生に凄いイケメンがいるって」
「おお、良かったなリオ。お前のイケメンは既に知れ渡ってるみたいだ」
「良くないし、そもそも僕はイケメンじゃ……」
「でもカッコ良かったっす!師匠もリオ先輩もどっちもめちゃくちゃ強くて!私感動したっす!」
「し、師匠……?」
「アラン先輩の弟子志望っす!ちなみに私はエレカ・ヴァルパレスっす!よろしくっす!」
「あ、私はナタリア・ヘンリエッテだよ〜」
「リデラ・アルケミスです。知ってるとは思いますが」
「ははっよろしく」
にこやかに挨拶するリオ。この微笑み顔を見るだけでときめく女子もいるんだとか。
「それはそれとして、どうするアラン。もうあのバケモノは消えたわけだし、そろそろ戻らないとだろう」
「そうだな、いい加減戻んねぇと先生たちも心配するし……」
言いながら天井を見上げて。
「……ん?」
気づいた。なんだか天井が震えているような気がする……って言うかマジで震えてね?
「どうかしたかアラン?」
「いや、なんか天井が揺れてるような気が──」
言いかけた瞬間、すぐ近くに小石が落ちてきた。それも一個ではない。
次々に小石が降ってきて───やがて派手な音を立てて一際大きな岩まで落ちてきた。
「あの、これって……」
「うん、そうだよね……これはもしかせずとも」
周囲に次々と石やら岩やらが降ってくる中、リオは言った。
「アラン、これ崩落してきてないか?」
「結局崩落すんのかよぉぉぉぉぉぉ!!」
岩石の落下音にも劣らぬ声量で、アランは叫んだ。
「叫んでる場合ですか!?早く逃げないと今度こそ私たち生き埋めですよ!?」
「そうは言っても、ここから地上に戻れる道なんて……!」
「僕が通ってきた穴は!?」
「今更使える訳ねぇだろ!ああ、もう仕方ねぇ!」
その場でアランは屈んだ。怪物が生きていた時は怪物の莫大な魔力が邪魔をして使えなかったが、今なら出来るはずだ。
魔力を右手の人差し指に込めると、人差し指で地面をなぞった。なぞった跡に白く光る線が生じていく。
「アラン!何をする気だ!?」
「少しの間でいい!どうにか瓦礫を防いでくれ!」
「が、瓦礫を!?」
「時間が要るんだよ!三十秒、いや一分?分かんねぇけど、とにかく頼んだ!」
「なら私が止めます!」
真っ先に動いたのはリデラだった。自身の聖装具── 《炎天の霊杖》を右手に顕現すると、地面に突き立てる。
すると彼女の足元に巨大な魔法陣が現れ、
「来なさい、炎王龍バハムート!!」
『グゥゥゥゥゥアァァァァァァァァッ!!』
命令に応じ、現れたのは『炎王龍バハムート』。最下層に落ちてきた時と同様に、バハムートを盾にするつもりだ。
だが今回は詠唱を省略しているため、バハムートの力は最大限まで発揮されていない。
三対あるはずの翼は一対しかないし、体長も二十メートルほどに縮んでいるが。盾とするには十分だろう。
バハムートはアランたちに覆い被さり、瓦礫を身を挺して防いでいる。
その間に、アランは地面に白線を描き続ける。やがて描かれたのは大きな魔法陣。この場にいる全員が収まるほどの大きさだ。
魔法陣を描き切ると、アランは両手を魔法陣に付けて魔力を込める。
「魔力充填完了……座標設定問題なし……空間接続確認……よし、いける!」
右手を魔法陣につけたまま、アランは振り返って叫んだ。
「お前ら!魔法陣の上に乗れ!」
指示に従い、リオたちはすぐに魔法陣の上に集まった。
瓦礫は降り注ぐ勢いを増している。完全に崩落したらバハムートでもどうしようもない、時間は残り僅かだ。
「お前ら絶対に動くなよ………我は扉を開く者、我は世界を繋ぐ者。彼岸に立つ者共よ、我が意志の下に共鳴せよ。ここに邂逅の時は訪れた──」
「ちょ、ちょっと待て……これってまさか……!」
リオだけでなくリデラたちも驚愕している。
この魔法は知っている。経験したことも無いし扱える訳でも無いが、それでも知られるくらいには有名な魔法だ。
この魔法は──。
「故に今、繋ぎ手たる我が告げる──」
魔法陣が視界を覆おうほどの輝きを放つ中、アランは唱える。
「──空間転移!!」
直後、周囲が光に包まれた。
足元が揺れる。音が遠のく。世界が歪み、浮遊感が生じ、一瞬だけ体の感覚が曖昧になったかと思えば──。
──次の瞬間、目を開いたリオたちが見たのは先程までとは全く違う景色だった。




