第十四話 隠された謎
「なぁエレカ、お前リデラと仲良いのか?」
「それなりに会話したことはあるっすよ。私も同学年の人たちとはなるべく仲良くしたいと思ってる派なので」
「ならなんでリデラが俺に対してちょっと辛辣なのか心当たりあるか?」
「いやぁさすがに無いっすね。ただ少なくとも歓迎試合絡みだとは思うっすよ。それくらいしか今のところ師匠とリデラちゃんの接点って無いわけですし」
「やっぱ歓迎試合か……」
四階層へ続く階段を降りながら小声でエレカにリデラについて尋ねてみるが、やはり原因になる要素があるとすれば歓迎試合しかなかった。
てっきり歓迎試合の件については食堂で話し合った時に解決したと思っていたのだが、
「もしかしてあの時の結果をまだ引きずってんのかな……」
「それはないと思うっすよ」
「え、ホント?」
「はいっす。確かに入学式から最初の二、三日くらいはリデラちゃんもちょっと落ち込み気味だったっすけど、その後は普通に堂々としてたっすから。自信を持ち直したんじゃ無いすかね?なにせリデラちゃんはうちの学年じゃ文武ともにトップレベルっすから!」
「まぁアイツの実力ならそうなるよな」
エレカの話を聞く限り、どうやら歓迎試合の敗北が原因では無いらしい。じゃあ本当に何が原因なの?全く予想できないんだけど、誰かマジで教えてくれ。
「はぁ……人間って難しいな」
「そうっすねぇ、ムズいっすよねぇ……」
なんか勝手に意気投合している奴らがいるが、一方その頃先頭を歩いているリデラ・アルケミスはというと……
「…………」
一人黙って思案に耽っていた。どうせ今も後ろの方で呑気な顔をしているであろうアランについてだ。
二階層にいた時アランに『大嘘つき』と言ったが、あれは間違ではない。アランにそんなつもりがなくとも、リデラからすればアランはとんだ大嘘つきだ。
なにせアランは歓迎試合の時、一切本気など出していなかったのだから。
***
それは入学式の日、アランとリデラが学園長室に逃げ込んだ後のこと。アランがソファで堂々と爆睡している間、リデラは学園長ことシリノアと話をしていた。
「あの、学園長って先輩の事どれくらい知っていますか?」
「ふむ……どれくらい、か」
シリノアはアランが十歳の頃から面倒を見てきた。アランの性格にせよ経歴にせよ実力にせよ全てにおいて、シリノアよりアランのことを知っている者は存在しない。
故に正直に答えるのなら『この世で一番理解している』というのが答えになるのだが、そう答えたら『ならどうして知っているんだ』ということになるので、敢えて適当に濁した。
「それなりに知っているぞ。 アランは学園入学時からずっと目立ってたからな、何もせずとも勝手に情報は入ってきたさ」
「なら先輩がどれくらい強いかも知っているのですか?」
「アランが表で見せている限りの実力なら知っている。いやまったく面白い奴だよ。聖装士なのに聖装具を使わず、だがそれでも聖装士を圧倒する異常者にして異端者。私もこれまで多くの聖装士を見てきたが、アランのような奴は見たことがない」
正直シリノアも驚いている。特別な力が無くとも聖装士相手に対等以上に戦えるくらいの力は身につけさせたつもりだったが、まさか聖装士を圧倒するほど強くなるとは思わなかった。
我が弟子ながら大した奴だ。
「それで、君が聞きたいのは『アランが歓迎試合でどのくらいの実力を出していたのか』ということか?」
「……はい、そうです」
肯定するリデラ。話の流れでおおよそ分かっていたが、やはり気になっていたのはそこだったか。
「さっき食堂で話していた時、先輩は言ってました。歓迎試合では何度も焦らされたって。だから先輩からしたらそれなりに本気で戦ってたんだと思います。けど、どうしてもそう思えなくて……」
アランに嘘をついている様子はなかった。話には真剣に答えてくれたし、少なくとも人の覚悟を無下にするような人では無いということくらいは理解できた。
だがそれでも、あの力がアランの全てだったとは思えない。事実としてアランは最後まで聖装具は使わなかったし、負傷もしなかった。間違いなくアランにはまだ余裕があった。
「まぁアランの言葉が信じられない気持ちはわかる。なにせ隠し事の多い奴だからな、これほど胡散臭い奴もいないだろう」
実際に話してみれば普通の人間なのに、その実態は隠し事だらけ理解出来ない事だらけの聖装士一の異端者。彼の実情を知らない者からすればそれはもう胡散臭い男である事この上ない。
「それで、さっきの質問だが……私は答えてもいい。だがその答えが君のプライドを傷つける可能性もある。それでも聞くか?」
「……聞かせてください。プライドなんてもう既に粉々ですから、これ以上失くす物もありません」
「ははっそれは結構。なら話すが……」
一泊を置いて、シリノアは言う。
「あれは私の見立てなら、半分……いや、それ以下だな」
「は、半分以下……?」
予想はしていたが、まさかそこまで低いとは。予想以上の答えにリデラはショックを覚えざるおえなかった。
「そもそもとして、あの戦い方自体アラン向きの戦い方じゃないんだ。あれでも一応、アランの得意分野は頭脳戦だからな。訳もなく相手の最大火力に対して真っ向勝負を挑むような真似は普段ならしない」
「ならどうしてわざと不利な戦い方を……!」
「……君は新入生歓迎試合の目的を知っているか?」
「いえ、知りません……」
「そうか。なら教えるが、元々歓迎試合は『新入生に今自分がどれだけ未熟か、そしてどれだけ伸び代があるのか』を教えるのが目的の試合だ。故に歓迎試合では在校生側の代表生徒は新入生の自信を砕かなくてはならない。そして自信を砕く上で最適な方法とは『相手の全てを受け止めた上で凌駕し、勝利すること』だ。だからアランはわざと君の戦い方に合わせて戦ったんだ。自分の有利を捨ててまでしてな」
「そう…だったんですか……」
手加減していたのではなく、手加減せざるおえなかった。試合の趣旨にのっとるため、アランはわざと不利な戦い方をしたと、つまりはそういう事なのだろう。
「不向きな戦い方で本領なんて発揮できるはずがない。まぁ確かにあの戦い方に於いてはアランもそれなりに本気だったんだろうが、全力と呼ぶには程遠いな。あの程度で学年次席になれるほど今の二年生の代は甘くない」
「なら、先輩が全力を出すような相手って……」
「アランと同等の相手でもなければ全力なんて出さないさ。それこそアリシアのような実力者でもない限りな。まぁ頭脳派である弊害なのか、アランは自分から本気になれないという悪癖があるからな、本気にさせたければ相応に追い詰めなくてはいけない。つまりそこまで追い詰められるほどの実力がなければアランの前ではまず勝負にならないという話だ」
「なんですか……それ……」
リデラも実際にアリシアの実力を見たことがあるわけではないが、噂ならいくらでも聞いたことがある。
学年実力序列第一位ことアリシア・エルデカが持つ異名は『極光の神格者』。文字通り神に愛された存在。圧倒的な才能と戦闘技巧、そしてこの世の理を超えた『奇跡』の力を扱う異次元の聖装士。そんなアリシア並みの実力が無ければアランの前では勝負の土俵にすら立てないだと。
なんだそれは、デタラメじゃないか。
「この学園にいれば君もいつかアランの本気を見る機会が来るだろう。興味があるならアランが出る序列戦を観戦しに行ってみるといい。そうすれば私の言っている意味が分かるはずだ」
「……そうですか」
正直リデラはこの時恐怖した。アランと自分の間にそこまで実力差があるとは思わなかったから。
信じ難いが、かの大聖者シリノア・エルヴィンスが言うからには本当なのだろう。アラン・アートノルトは紛れもない怪物、彼の真の実力はきっと自分が想像しているものより遥かに高いはずだ。
ただ、それに伴って湧いてくるのは一つの疑問。
どうして────
(どうして先輩は……そこまで強くなろうと思ったの?)
自分のように訳もなく強くなったわけでは無いだろう。ただ強さを追い求めるなら聖装具を使えばいい。だがアランはそうしなかった。
そこには必ず理由があるはずだ。自分だけの唯一無二にして最高の武器である聖装具を使わずして、ここまで強くなろうと思った理由が。
だがリデラにはその理由は見当もつかなかった。何か使命でもあるのか、それとも余程大きな目標があるのか。
ソファに横たわって爆睡するアランを目にしながら、リデラは一人ため息をついた。
***
そして時は戻って現在、アランたちは四階層にいた。
相変わらずの石造りの道、装飾品や光源は無く、ただこれまでと同じ光景が広がっている─────と、そう思っていたのだが。実際の光景はその予想とは異なっていた。
廊下の両端には、なぜか牢屋が並んでいた。
経年劣化か、牢屋は檻も内側もボロボロになっていた。一応歩きながら牢屋の中を確認してみるが、特に何も入ってい無い。空っぽの牢屋がひたすら続いていた。
「牢屋っすよね……これ……」
「けど何も入ってない。中に入れてたものは抜け出した後ってこと?」
「分からない……が、パレス・ハトラートスは何をやってたんだ……?」
研究所の跡地と聞いていたが、これでは研究所では無く収監施設だ。
まさか研究対象をこの中に入れていたのか?それもこれだけの牢屋があるということは、かなりの数を収監していたということになる。
「これ、他の人たちのルートはどうなってるんでしょうか?もしかしてこっちと同じような光景があったり……」
「考えたく無いけどね、そんな光景」
この遺跡には今他の一年生グループも入っている。彼らはアランたちとは別のルートを辿っているが、果たしてそちら側がどうなっているのか。そう考察しながら歩いていると、
「師匠、この牢屋の中なんか落ちてるっすよ!」
エレカが言った牢屋を他三人も覗いてみる。中には一冊の白い本が落ちていた。
「読んでみるっすか?」
「まぁ、手がかりになりそうな物があるなら見るしかないな」
牢屋の扉に手をかけてみる。横に引けば、牢屋は鈍い音を立てて開いた。
念の為罠が張られていないか警戒するが、特に魔法罠の気配は無い。アランは牢屋の中に踏み入り落ちている本を拾った。
本についた埃を軽く払うと、中身を読んでみる。
「パイセン、何が書いてるの?」
「う─ん、ちょっとこれは……」
目を細めるアラン。気になったナタリアが中身を覗き込んだ。
「あれ、これなんて書いてるの?」
「分からん。千年以上前の物だから当然っちゃ当然だけど、言語が違うなコレ」
綴られている言語は、アランたちには理解できない物だった。
見た感じ何かの観察記録のように見える。おそらく対象は魔法生物だろう。パレス・ハトラートスは元々魔法生物の研究をしていた聖装士、研究対象にするものがいるとすればそれしか考えられない。
「なんと、博識な師匠でも読めない言語があるとは……」
「いや別に俺歴史にまで精通してるわけじゃ無いから。読めない言語くらいあるからな?」
過剰な期待を寄せてくるエレカに否定の言葉を投げつつ、
「とりあえず先に進もう。コレの解読はまた後だな」
身につけていた手袋型魔導器『虚空の手』に本を収納すると、アランたちは再び四階層を進み始めた。
進みながらも牢屋を観察するが、それ以降は特に何かが落ちていることはなかった。
そうして二分ほど歩くと、牢屋地帯を抜けた。代わりに二、三階層と同じ普通の光景が見え始めた。
ただあんな光景を見た手前、四人の警戒心が解けることは無かった。どこから敵が来るかと、警戒していた頃。
廊下の先から複数の足音がした。足音はどんどん近づき、薄暗い廊下からその正体を現した。
現れたのは狼型の魔法生物──フェンリル。灰色の体毛に、頭には一本の角、そして獅子のような白い立て髪が生えている。
そんなフェンリルが十五匹ほど。グルグルと、獰猛な声を漏らしている。
だが、
「フェンリル……だよね」
「ああ、間違いなくフェンリルだ。だけど……」
「なんか……変ですね」
どのフェンリルも、四人が知るフェンリルとは様子が違った。
どれも挙動が不自然だった。呼吸も異様に粗い。なんなら怪我の跡もある。
何があったか分からないが、今アランたちに敵意を向けていることは確かだ。となればやることは変わらない。
「とりあえず私がやるっす。二人もそれでいいっすか?」
「いいよぉ」
「私も構いません」
エレカが前に出る。手にしたのは彼女の聖装具──《忠勇なる雷霆剣》。
剣を構えると、エレカは一気に加速。目にも止まらぬ速さと卓越した剣術で次々にフェンリルを切り伏せていく。
フェンリルも果敢に抵抗するが、やはり動きが不自然だった。急に止まったり、変な方向に飛びかかったりと、妙な動きをしながら一方的にエレカに倒されていった。
「とりあえず倒したっすけど……やっぱ変っすね」
振り返るエレカの前では、フェンリルの死体が転がっている。死体は負傷した部位から黒く染まり、そこから灰のように崩れて消滅した。
「死体が消えた……フェンリルってそんな特性あったっけ?」
「ない、はずですけど。これは……」
「肉体がそれだけ限界だったんじゃないのか?寿命だか病だか知らねぇけど、それくらいしか原因は考えられない」
「そんな状態でどうして襲ってきたのか謎だけどね。パイセン心当たりある?」
「無い。俺もフェンリルについてそんな詳しくないし、行動原理の予想なんて出来ねぇよ」
もとより不明な点が多かった遺跡だが、ここに来て一気に不穏な内情を見せ始めた。
一応他のグループにも引率役がついているから大丈夫だとは思うが、少し心配になってくる。
「とりあえず早く進みましょう。ここで止まっていても仕方ありません」
不安を振り払うようにリデラが言う。確かにここで考えていても仕方ない。
四人はひとまず遺跡の探索を再開した。進む道中で時々魔法生物に遭遇したが、やはり様子がおかしかった。
どの魔法生物も不自然な行動ばかりをとり、そして死んだ後は体が傷口から黒く変色して消滅する。
これだけでも既に意味不明だが、他にも異常な点があった。
この階層は魔法生物の種類が多すぎる。フェンリル以外にもあれやこれやと。確かに魔法生物にも他種族同士で共存するものはいるが、これほどの種類が一箇所に纏まっていることなど普通ではあり得ない。
そうして探索を続けていると、ナタリアが言った。
「……あ。ねぇ皆、ここ部屋があるよ」
見れば、そこには扉が開けっぱなしの部屋があった。何に使われていたか知らないが、それなりに大きな部屋だった。
部屋の中央には大机がいくつかあった。壁際には本棚や小机が並んでいたが、その中には何も置かれていない。
「これだけ棚があるのに何も残されてないなんて……」
「多分パレス・ハトラートスが自分で処分したんだろうな。それだけ見られたくない物があったのか」
「本当に何やってたんすかね、この研究所」
考察しながら、ほとんど空っぽの部屋を散策していると。
「皆さん、ここに本があります!」
リデラが見つけたのは一冊の赤い本。とりあえずアランがそれを読むことにした。
「どうですか、先輩。読めそうですか?」
「う──ん……やっぱ言語が違うな。っていうかまず古すぎて文字がだいぶ消えかけてる。解読以前の問題のような……」
言いながら、次のページをめくって、
「…………ん?」
その時、アランの手が止まった。
「パイセン、何か分かった?」
「いや、このページの記述……多分『封印魔法』について書かれてる」
「え?封印魔法?」
「ああ。現代のタイプとは若干違うが、この術式構造も詠唱句も封印魔法のそれに似てる。ならこの本は……」
勘付き、一気に本を読み進めていくアラン。その内容はやはりどこか見覚えのある内容だった。
封印魔法───それはその名の通り対象を封印する魔法。封印の形式は様々あるが、これを使える者はほとんどいない。単純な難易度的な問題というのもあるが、何より需要が限られるからだ。
そんな珍しい魔法に関する記述がこの本には溢れていた。封印形式、詠唱句、術式構造のパターンなどなど。解読出来る訳ではないが、現代の封印魔法と共通している節があるから少しは理解できた。
「やっぱりどこも封印魔法について書かれてる。それもこんな大量に。なんだってこんな珍しい魔法を……」
「あの、もしかしてこの本の内容ってさっきの本と関係あったりするのでは?」
「さっきの……?」
「可能性は低いと思いますけど、ワンチャンくらいはあるかと」
「まぁ確かに。見るだけ見てみるか」
『虚空の手』から先ほど収納した本を取り出す。その内容は魔法生物と思わしき物の観察記録。
今拾った封印魔法の本と観察記録の二冊を部屋の中央の大机に置くと、適当に内容を照らし合わせながら読み進めていく。
そして、
「……これ、そういうことか?」
照らし合わせること数分、アランはようやく一つの考えに至った。
「もしかして分かったんすか師匠!」
「多分そうじゃないかなってのはある。今まで見てきた牢屋、あれは多分魔法生物を監禁してたものだ。んでもってあの牢屋の数からして、パレス・ハトラートスはかなりの数の魔法生物を研究してたってことになる。つまりそれだけサンプル、もしくは試行回数を重ねたかったってことだ。じゃあパレス・ハトラートスは何を試したかったんだって話だが……」
「それがこの封印魔法ってことですか?」
「現状それしかあり得ないな。魔法生物を大量に用意して多種類の封印魔法を試してた。この遺跡はそのための場所だったんだろうな」
やけに徹底的に調べられた封印魔法。そして大量に魔法生物を監禁できる環境。そこから考えられる答えはそれしかなかった。
ただ、それが真実だとすれば必然一つの疑問が生じる。
「でもパレス・ハトラートスは何でそこまでして封印魔法の研究をしてたの?」
疑問は一つ、なぜパレス・ハトラートスがそこまで徹底的に封印魔法について調べていたかという話だ。
「封印したい何かがいて、それを封印するために研究してた。もしくは当時存在した封印を解くために研究してた。この二択だな」
「なるほど……ちなみにその封印対象は?」
「分かるわけねぇだろそんなモン。どんだけ候補あると思ってんだ」
流石にそこまではアランにも分からなかった。
「とりあえすこれでこの遺跡の謎が一つ解けたな。にしてもパレス・ハトラートスもエグいこと考える奴だな。魔法生物を大量監禁して実験対象にするとかもはやサイコパスだろ」
本を閉じると、二冊とも『虚空の手』に収納する。
久しぶりにここまで頭を使った気がする。戦ってないのに少し疲れてしまった。
「それじゃあそろそろ遺跡探索に戻ろう。俺はもう疲れたからお前ら頑張ってくれ」
「最初から私たちしか戦ってませんけど……」
「ついて行くだけでも大変なんだよ。て言うかお前ら知らないだろうけど、俺この後またこの遺跡入り直さないといけないんだぞ?」
「え、そうなの?」
「今回の遺跡探索はグループごとで時間分けされてるだろ?だからお前らが探索を終えた後に入るグループもある、んで俺はそのグループも引率しないといけない。だからまた入ることになるんだよ」
「へー大変だね。パイセンおつ」
「興味無さそうだなおい」
「そんなことないっす!師匠は超凄いっす!めちゃくちゃ頑張ってるっす!」
「逆にお前は褒め過ぎだな……」
そんな冗談を交わしながら、四人は部屋を出て行った。
目指すは最終地点である五階層。道中で魔法生物と対峙しながらも、四階層を進んで行った。
だがその中で、アランは思った。
(なんでパレス・ハトラートスはこんな所に研究所を作ったんだ?)
研究の方法はややイカれてるが、後ろめたい物ではない。封印魔法の研究くらい現代でも普通に行われている。それは千年前だって変わらないはずだ。
そんな封印魔法を何故地下で研究する必要があった?少なくとも何か後ろめたい事情はあるはずだ。証拠にパレス・ハトラートスはこの遺跡にほとんど資料となるような代物を残していなかった。
間違いなく何か隠している物が残っている。それが一つ目の謎、そして他にも謎は残ってる。
この四階層の魔法生物はどれも異常だ。挙動はおかしいし、種類もやけに多い。そして死んだ後は体が黒くなって消滅する。
この遺跡限定で特別な生態系や肉体構造が存在するなんてことも無いだろう。必ず何かしらの原因があるはずだ。
とは言え、これらの疑問がこの先の探索で関係するか否かは分からない。だがアランはその疑念を振り払うことは出来なかった。
***
そうして数分後、アランたちは遂に五階層までたどり着いた。
階段を降りた先、現れたのは普通の一本道。より濃い魔力の気配を感じながら先へと進んでいく。
やがて見えたのは大きな広間のような場所だった。今まで見てきたどの空間よりも広い。学園の闘技場くらいはある。
「でっかいねぇ。ここは何のための場所なのかな?」
「それは全く分かりませんが……とりあえず」
その広間を少し進んで────その時だった。
「来ますよ、上から」
『ガァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
直後、大音声を轟かせながら何かが上空から突進を仕掛けてきた。
咄嗟に四人は飛び退き、突進を回避する。その衝撃で風が吹き荒れる中、皆は敵の正体を目にした。
現れたのは巨大な魔法生物。全長は二十メートル以上で、二本腕と二本足による四足歩行型。体の全体が白銀の外殻で覆われており、目は緑眼。背中には一対の翼が、そして腰からは長い尾が生えている。
「瞬嵐龍ゼルヴァータっすね。こんな所で見れるとは……」
瞬嵐龍ゼルヴァータ、それがあの魔法生物の名前だった。
その名の通り嵐の象徴とも言われる龍だ。気性は荒く、目についた敵は積極的に攻撃する。実際ゼルヴァータに襲われて被害を受けた集落も多数ある。
そんなゼルヴァータがまさかこんな遺跡にいるとは。驚愕するが、それはそれとして。
「そんじゃ俺は後ろから見とくから、後は頑張れよー」
引率役ことアラン・アートノルトは颯爽と広間の入り口にまで戻って行った。そこから一年トリオの様子を見ている。
引率役は基本戦闘には入らない、それはたとえ危険な敵が出ようともだ。むしろそのくらい打倒してこそ聖装士というもの。倒してもらわなくてはこっちが困る。
そんな笑みを浮かべて見守るアランを見て、三人は。
「はっ、言われるまでもありませんよ」
この程度の龍が何だ、本物の怪物を知る自分にとっては敵でも無い。そう笑い飛ばすりリデラに、
「いやぁやっとボス戦だよ。体が疼くねぇ。ちょっと張り切っちゃう!」
待ちに待った強敵を前に、愉悦の笑みを浮かべる戦闘狂ことナタリア。
「二人とも気を引き締めるっすよ!一応相手も龍っすから!それなりに強いっすよ!」
唯一マトモ枠なエレカが諭すが、二人は自信満々に笑ったまま。
コイツら本当に大丈夫か?張り切り過ぎてドジったりしないよな?ちょっと心配になってきたアランをよそに、三人は同時に自身の聖装具を顕現させて戦闘態勢に入る。
前に出たのはエレカとナタリア。少し下がったところでリデラが構える。
『グルゥゥゥ……ガァァァァァァァァァァッ!!』
ゼルヴァータが吠える。その声は自身の領土へと踏み入った無礼者への敵意の表れだった。
しかしそれでも三人は臆さない。戦意をその身にたぎらせながら、遂に戦いの火蓋を切った。