第十二話 レッツ遺跡探索!
パレスの地下遺跡──それは約千年前存在した『パレス・ハトラートス』という聖装士が作ったとされる研究施設。
研究施設とは言ったものの、その概要はほとんど分かっていない。なにせモノが千年前だ。
パレス・ハトラートスについての文献でも残っていれば多少の手がかりは掴めたかもしれないが、今では大した文献は残っていない。強いて分かっていることがあるとするなら、パレス・ハトラートスは魔法生物についての研究をしていたということか。
ここで言う魔法生物とは、ある特徴を持つ生物の総称だ。
魔法生物はその全てが人間と同様に体内に魔力を宿しており、一部の魔法生物はその魔力で特別な力を行使したりもできる。人間の魔法や聖装能力と似たようなものだ。
魔法生物は種族によって特徴が分かれるが、多くの魔法生物は大気中の魔力濃度が濃い場所に惹かれやすい傾向がある。そして遺跡というのは大抵魔力濃度が濃いもので、それはこのパレスの地下遺跡も例外では無かった。
目的不明の研究施設の跡地。事前情報では、内部は相当な複雑構造と攻撃性を備えているらしい。それもただの研究所の跡地とは思えないレベルで。
一体どんなトラップや魔法生物が待ち構えているのか。かくして時は流れて四日後。遂に一年生たちやアランたち引率役がパレスの地下遺跡に入る日がやって来た。
ある者は期待や好奇心を、ある者は不安や恐怖を抱きながら、遺跡探索に挑む────その中で。
「パイセン、何ボケっとしてるの?」
「師匠!そんな暗い顔をしてはいけません!らしくないっすよ!」
「先輩ため息つかないでください。気持ち悪いです」
「………………」
アラン・アートノルトは現在、ヤバいくらいの困惑と倦怠感を抱いていた。
***
では今アランが置かれている状況を説明しよう。
まずアランがいる場所はパレスの地下遺跡の内部。遺跡に入ったのは二十分ほど前のこと。そこからちょこちょこと進み続けて、今は石造りの一本道の場所にいる。
壁には火が灯った燭台が並んでいる。元から付いていた物なのだろう。近くに魔力を持った者が近づくと、それに反応して点火するよう作られている。
これがアランの現在地なわけだが、ここにいるのはアラン一人ではない。
もとよりアランは一年生の引率役だ。この遺跡探索は一年生をグループ分けして、各グループに引率役をつけるというもの。
故に当然のこととして、アランの側には引率する一年生たちがいた。ちなみにその人数は三人。
というわけで早速アランが引率している三人の一年生を紹介しよう。
「パイセンパイセン。早く進まないと時間無くなっちゃうよ?」
まず一人目。アランのことをパイセン呼びしているこの少女の名はナタリア・ヘンリエッテ。ヘアゴムで結んだ白髪を両肩にかけ、それ以外は肩の辺りで切り揃えている。口元は常にニヤついていおり、それがどこかミステリアスな風貌を醸していた。
「そうです師匠!時間はいつだって有限っすよ!」
そして次に二人目。なぜかアランを師匠呼びしているこの元気に満ち溢れた少女はエレカ・ヴァルパレス。青緑の髪をポニーテールで纏めている。纏う陽気はこの薄暗い遺跡の中でも一切衰えていない。
それでまぁ、残る三人目なわけだが……
「なんですか先輩そんな目で見てきて。言いたいことがあるなら口で言ってください」
明らかに一人、辛辣な口調をしているのは他でも無い。入学式の日にアランが嫌というほど関わった後輩、リデラ・アルケミスであった。
「はぁ…………」
改めて認識し、ため息をつくアラン。
実はアランはこの場にいる三人全員と既に知り合っている。リデラは入学式の日に、そしてエレカとナタリアは数日前に各々の用事でアランの元を訪れている。
アランも最初は驚いた。まさか知り合いがこうも見事に揃うと思わなかったから。ていうか誰だ俺にリデラを割り当てた奴。絶対わざとだろ。
「まぁ、仕方ないかぁ」
「何が仕方ないんですか。そんなに私と顔を合わせたくなかったんですか」
「そういうわけじゃないんだけどさ……お前、なんか入学式の時より当たりキツくない?」
どう考えてもリデラの態度が入学式の時より酷い。照れ隠しとかそういうツンデレ的なものでは無く、心の底からリデラは俺に対してキツく当たっている。
入学式の日にそれなりに仲を深めたと思っていたが、もしかして俺が勝手にそう思い込んでいただけのか?だとしたら悲しすぎるんだが。
「別に、ただ先輩は大嘘つきなんだなと思いまして」
「俺そんな嘘ついたっけ?」
「自分の胸に手を当てて考えてください。私から言えるのはそれだけです」
「えぇ……」
そりゃ聖装具の件とかで多少の嘘はついているが、そこまで嫌われるような嘘をついた覚えはない。だというのにリデラはこの態度だ、マジで何があったんだってばよ。
「それより早く行きますよ。こんなところで足踏みしている暇はありません」
言って、我先にとリデラが道を進んでいく。その光景を困惑の表情を浮かべながら見つめるアランと、
「パイセン、嫌われちゃったね」
面白そうにニヤニヤしながら見てるナタリア。それから、
「大丈夫っすよ師匠!何があっても私は師匠の味方っすから!」
変わらず元気いっぱいの声で言うエレカ。
あまりに先行きが不安すぎるが、確かにここで止まっているわけにもいかない。個性の強い一年トリオに囲まれながら、アランは渋々前に進み出した。