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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドアマット聖女に転生してしまった私

作者: まい

 書いてて、なんかオチが思ったようにならなかった。 なぜだ?(目逸らしー)

「国のためにならない聖女トナリエーレ・ヤルンっ! お前を私との婚約を破棄した上で、この国から追放する!」


「…………承知しました。 今までお世話になりました」


「うむ。 これで、このわたしがどれだけアプローチしても婚約を受け入れてくれなかったお前の妹、モイオデーレ・ヤルンとの婚約が進む事だろう」






 はい。


 どうも、私はトナリエーレ・ヤルン。


 いわゆるテンプレなドアマット聖女ヒロインに異世界転生してしまった者です。


 私はこの作品が好きでよく読んでいましたが、まさか自分がドアマットされるヒロインになるとは思ってませんでした。



 経緯を簡単に説明すると、前世は毒親家庭で育ち、高卒で逃げるように故郷から飛び出して就職。 そして、なんやかんやあって命を落とした私。


 それが聖女として初めにやる、自身のチカラの源(たましい)に触れる修行で魂に触れた瞬間、前世を思い出して今に至る。



 容姿とか自身の名前とか世界の仕組みとかから、前世で好きだった作品のドアマットヒロインだと知りました。


 容姿は前世と比べて恐ろしく優れてて、家系で家族全員美しいってなんだか怖く感じてしまったのは秘密。


 ドアマット具合は最低最悪を極めており、人類が生存圏を確保するには聖女のチカラが必要なはずなのに、その聖女の恩恵を受け続けて聖女は道具認識にまで行ってしまった王国がこの地です。


 それでも家族ならと思うでしょ?


 ところがその家族も毒親毒妹のドクドク環境。


 ヒロインの家系は代々聖女を輩出してきた名家なんだけど……いやだからこそか。


 正統な血筋であり当主は母だが、その母の代で1人も聖女が生まれなかったのも有るのだろうけど、姉妹揃って聖女のチカラを使える。


 更に(ヒロイン)は当代随一の潜在能力だと診断された聖女。


 母はそれが(ねた)ましかったんだろう。


 それはもう私をいじめ抜いた。 常識外れの厳しい修行に加え、自我を確立する前の幼い頃からダブルバインド・人格口撃なんて当たり前。


 その上でイビり抜くオニ(しゅうとめ)みたいに振る舞ってくる。


 もっと言うとこの王国の民達も似たような態度で、小さなミスとも言えないようなミスにさえグチグチ言ってくるお局様みたいなのも大集団で存在する。


 それでヒロインは主体性を亡くし、ロボットじみた性格の子になってしまう。


 ……本来なら。


 毒親から逃げたらまた逃げた先で毒親な私だ。


 自我がとっくに確立され、2度目の毒親だ。


 大量のお局様にもウンザリするが、ヒロインとして作品通りに振る舞っていれば、この国の未来は確定する。


 だからその時までヒロインらしくしてやろう。


 毒親の対処に慣れているんだ。 これくらい演じ切ってやろう。


 そう未来を想像して我慢し抜いた。



 ちなみに聖女としてのチカラは現在の時点で原作の最終回時点のチカラを越えている。


 なにせ原作が好きで何度も読み返していたので、どうすればヒロインのパワーアップが出来るのか、どこからチカラが湧き上がるのかを知っている。


 その知識を活かして、修行したらこうなっていた。 が、ソレを周りには隠し、原作ストーリー準拠のチカラまでしか出さないよう気を付けている。


 利用されたくないので、兎に角我慢して耐えきった。




 …………いえ、嘘を言いました。 ごめんなさい。


 本当は我慢するにも限界が何度も来てました。


 それで癒やしが欲しくて、本来なら物語の最後にラスボスになる妹を改変しました。


 普段から2人きりになった時を見計らってロボットみたいな態度を崩して、猫可愛がりして大切にして、たまに周囲の人間の態度に対するグチを聞いてもらったり泣きついたりしていました。


 そうしたら純粋に姉を慕って心配して、(いたわ)ってくれる可愛い妹になってました。



 原作(ほんらい)なら毒親と一緒にヒロインを見下して、冒頭で婚約破棄してきた王太子と共謀してより(みじ)めな思いをさせてやろうとかするクズだったんです。


 それがなぜこんな事に……(他責思考)




 と言うか今の妹はちょっと危なくて心配なんですよ。


 普通は聖女のチカラって人を癒したり守ったり浄化したり、大地のチカラを活性化させたりとか、そう言った方面のチカラなんです。


 でも妹の聖女のチカラはなぜかそっちが壊滅的で。


 傷を癒そうとすれば逆に広がり、守ろうとすると守ろうとした者を(もろ)くするし、浄化どころか呪うし大地を枯れさせる。


 まるで終盤でヒロインへの嫉妬が極まって、チカラが反転してラスボス化した後みたいで。


 コレについては原作で妹自身が語ってましたが、執着(しゅうちゃく)を向ける相手への歪んだ感情が、(つの)れば募るほどチカラが増すとか。


 それを便宜上黒聖女のチカラと原作の妹が呼んでいましたが、それに目覚めつつあるようで。



 ………………どうしよ、どうすればいいかわかんない(思考停止)




〜〜〜〜〜〜




 ついに追放された。


 身の回りの品と旅装と旅の食料と資金だけ渡されて、家を追い出された。


 この王国に隣接している国はひとつだけで、道は迷わないで済む。


 ……のは別にいいけど、追放するのに馬車とかも無い。 要は自力で歩いて出ていけだ。


 このあんまりな扱いに呆れ果て、この国に名残惜しさが無い事に感謝は……いらないか。


 さらば、クソみたいな王国!


 そう清々した気持ちで、国の中心である王都の門をくぐって出た。







 旅については、歩くのが大変かつ食料管理に頭を悩ませるだけ。


 正直、聖女のチカラで常に自分を守っていれば、誰からも害される心配は無い。


 歩き疲れたら、聖女のチカラで体を癒せばいくらでも歩けるから気楽だ。


 道中の街道ですれ違う人達も、旅装では私を聖女だと思わないようで、私の姿を見るたびに駆け寄ってイチャモンや罵倒(ばとう)をしてくるのも出てこなくて実に精神に良い。


 なので、どれだけ歩けばこの国から出られるだろう? なんてワクワクもしてくる。


 気分が良くなって、まだ憶えていた前世の歌の鼻唄でフンフーンとしだす位には余裕がある。




 そんな調子で歩き続け、そろそろ日が暮れ始めるかな? 薪を集めて野営の準備を始めないとまずい時間かな?


 なんて空模様になってきた頃に、それは起こった。



 ものすごい聖女のチカラが、王都の方から飛んできた。


 それから少し遅れて、豪風と砂利(じゃり)も同じ方から飛んできた。


「なにが……?」


 何が起きたのだろう。


 恐る恐る。 そう言った気持ちで既に見えなくなっているほど遠くの王都の方を身構えながら様子見。




 どれだけ時間が過ぎただろうか。


 空に夕焼けの色がハッキリ見えるようになった頃、視界の先に動きがあった。



 それは…………


「見つけた! お姉ちゃんっ!!」


 ドレス姿の、妹であるモイオデーレ・ヤルンの姿がこちらに迫ってきている。


 ナニカに追われているのだろうか? もし妹に追手がいるなら、すぐに助けに入ろうと身構え続けた。



 が、なにも無いまま無事に妹が私に……。


「追いついたっ!」


 飛びついた。 それをなんとか受け止める。


「どうしたの? 追いついたって、なんで追いかけてきたの?」


 なんだか私をギュッとハグしたまんま、離れてくれず顔を至近距離に寄せたままニコニコしている妹に、質問を投げかける。


 すると、まあ驚く答えが返ってきた。


「お姉ちゃんを国から追い出したって王太子のボンクラが言ってきたんだもん。 そりゃ追いかけるよ!」


 王太子……王族を相手にこんな発言をすれば、聖女だって首が飛びかねない危険な発言。


 それを(いさ)めても「ごめんなさーい」なんて軽い謝罪しかなくて、これを聞かれてたらどうしようなんて焦る。


 その焦りはあるけど、他にも()きたい事があるかはそっちを優先する。


「さっき王都の方から凄い風が吹いてきたのよ。 何があったか知らない?」


 と投げたのだけど、これを受けた妹はなぜか照れだす。


 「そう言うの、いいから」とリアクションを強引に止めて先を促すと、更に混乱する様な証言が妹から得られた。


「ボンクラがお姉ちゃんの代わりに婚約してやる。 なんてエッッラそうに言ってきたから、なんでそんな事をしたのか()(ただ)したの。

 そしたらお前の方がわたしの好みだからだーだって。 フッッッザケンナ!! テメーなんか人間じゃねぇっ!!!」


「お……おう」


 証言が得られたが、いきなりヒートアップし始めた妹に置いてけぼりにされて、若干引いてます。


「ワタシの大切なお姉ちゃんを奪っといてコレなんて、アタマ沸きすぎダロッッ!!」


「………………」


 そこまで言ってくれるのは嬉しいんですけどね?


 でもね? うん。


 なんかこの妹の目がね? なんか濁りだしていてね? 正直、怖いです。


「お姉ちゃんと一生一緒にイタイってワタシの気持ちを踏ミにジリ、国外追放でお姉チャンと会エなくしようナんざ、人間のすル事じゃネェ!!」


「うわ……」


 あ。 この子。


「ワタシノ唯一の味方で、唯一弱みをワタシに見せテクれたカワイイカワイイお姉チャンを、一生手放サネェッッッ!!!」


 重度の依存症も持ったヤンデレちゃんだ。


 妹に割りと本気で聖女の浄化を掛けてみる。


「だから……だから聖女のチカラで、王都とその周りを丸ごと破壊した!!! ざまーみろ!!」


 …………目の濁りは少し晴れたけど、完全に開いてしまった瞳孔を見てしまえば、変化と呼べるものではなかった。


 これは完全に黒聖女として覚醒して、ラスボス化していると見て良い。


 そう判断した私の背筋に、凄く冷たいナニカが走る。




「おねーちゃん。 これからは姉妹で、ずっと、ずーーーっっと、一緒だよ?」






 言い訳させて下さい。


 最初は仲良い妹が王都を1発で滅ぼして追いかけてきて、これからも一緒に暮らそ? 的な軽いオチにするつもりだったんです。


 でも今まで殺生とは無縁の生活をしてたのに、いきなりそんな簡単に人を大量に殺しといて、罪悪感も無しに軽いのってヤベー奴じゃね? となって。


 ヤベーならヤンデレだなと謎の変換が起きて。


 「ワタシガマモラナキャ」になった。


 なんで?


 …………もう1度言います。


 なんで?



〜〜〜〜〜〜



蛇足


トナリエーレ・ヤルン


 隣(国)へやる を変換。 ただそれだけ。



モイオデーレ・ヤルン


 重いヤンデレ からの変換。 それだけ。


 聖女としてのチカラは並。 しかしそこらの聖女には無い、黒聖女への覚醒が可能な特異体質。



王太子


 王都が滅ぶ爆発に巻き込まれ、無事消滅。

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「追放聖女な私、王都を離れ光の力でスローライフを目指す──はずが! 私のことが大・大・大好きな妹に、暗黒聖女パワーで捕まりました。誰か助けて!?」 ふぅー…。 作者様(せんせい)、連載版タイトルが上…
ドアマット聖女に転生した主人公の健気さと、改変した妹の重すぎる愛情が絶妙に絡み合ってて面白かった。軽いノリで進むのに、気づけばとんでもない修羅場に突入してる展開がクセになる。妹ちゃん、愛が強すぎだよ……
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