第九十八話 腹筋
「デートの事はおいといて、エリ、あんた本当に大丈夫なの?」
アイがエリに近づいてくる。うまく、話を反らして、デートという謎苦行の話を無かった事にしてほしいもんだ。そもそも、なんでエリは僕なんかとデートしたいんだろうか? なんらかのエリのメリットがあるはずだ。それが分からない限りどうにかして逃げないと、エリの機嫌を損ねる事になるだろう。
「なんかさっきのオークナイトの突撃、全力疾走の馬車並みだったじゃないの。ちょっとお腹見せなさいよ。なんか内臓破裂とかしてていきなり血吹いて倒れられたりしたら困るわ。私、少しは医療かじってるのよ」
アイはエリの背中をこっちに向けて、エリの裾を上げる。なんか強引だな。昔はこういうお節介なおばさんがよくいたけど、最近見ないな。コンプライアンスという言葉に駆逐されたのだろうか?
「うわ、なんとも無い。あんたガチで化け物ね。何食べたらそんなになるのよ」
「フルーツ」
フルーツ? なんの冗談だろう? 女の子にしか分からないネタなんだろうか?
「…………」
アイが黙る。なんだろう? なんかエリのお腹をまじまじと見てる。僕からは白い真ん中に背筋が張った背中が見えてるから眼福ではあるが。
「凄く割れてるわね。シックスパックね」
「いいでしょ。やっぱり女の子はエイトパックよりシックスパックよね。なんかエイトパックって胴長に見えるからね」
「な、なんだと」
例えエリでも今の言葉は聞き捨てならない。島でやれる事の少ない日々。僕の数少ない楽しみの一つが筋トレだった。自分の体が引き締まって変わっていくのは無上の喜びだった。その末に手に入れた僕の愛するエイトパックの腹筋。それを愚弄する事は許せない!
「それは違う! 腹筋はエイトパックが最高だよ」
僕は服を捲って力を込め、自慢のエイトパックを披露する。
「ゲッ、ハルトも割れてるの? 腹筋……」
なんか汚いものを見る目でアイが見てる。たまに女の子で筋肉嫌いな人居るらしいもんな。
「ハルトー、女の子、女の子はよ。男の子だったら、エイトパックも素晴らしいわ」
エリが焦った声を出す。けど、今、エリ、エイトパックもって言ったな。エリの中では至高はエイトパックなのか。今度腹筋について深く語り合う必要があるな。
「あんたたちパックパックってばっかじゃない。女の子はワンパック。割れてたらキモいのよ」
アイがお腹を出す。うん、可愛らしい女の子のお腹だ。
「ふっ。アイには勝ったですね。私はツーパックですっ!」
モモもお腹を出す。プヨンとしたお腹には真ん中に横に筋が入ってる。贅肉で段腹になってる。
「何勝った気になってるのよ。あんた食べ過ぎで太ってるだけでしょ。あんたそれで水着着れるの? デブ天使って呼ばれるわよ」
まあくびれているし、デブって程じゃないと思う。
「アイもああなるわよ。好きなだけ食べて痩せるためには体動かすしかないのよ。食べるのを控えないなら、割れるまで鍛えるか、モモみたいに段々腹になるかの二択しかないのよ。あんたももうすぐツーパックまっしぐらよ」
「うー、それなら鍛えるしかないわね。けど、エリはやり過ぎよ。程々でいいじゃない」
うーん。なんて言うかラッキーだみんなのお腹を見られるなんて。けど、ただ単に男扱いされてないだけかも。けど、悩ましい。モモは太ってる訳じゃなく少し肉付きがいいくらいだし、アイは少女って感じだった。エリも割れてるって言ってもくっきりって感じだったし誰のお腹がいいかって優劣つけがたいな。
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