第九十二話 滅
「ハルト、下がって」
エリが僕の前に出る。あ、エリじゃなくてエリツーだ。見た目まんま一緒だから区別がつかない。
「これは好都合だな。小僧じゃなくてエリー自ら出てくるとは。G13、ひねり潰せ!」
おいおい、エリツー、エリの身代わりなのに何前に出てんだよ。ストーンゴーレム2体相手にエリツーが勝てる訳がない。けど、僕の頭にうかんだ良くない考え。ここでエリツーがやられて死んだように見せかけたら、エリを狙う者は居なくなるんじゃ? いや、ダメだ。エリツーは仲間だ。仲間がやられるのをむざむざ見ては居られない。その一瞬の躊躇いが仇となった。前に出たエリツーに迫る巨大なゴーレムの腕。僕は前に出るが間に合わない。
「えっ」
声がこぼれる。ゴーレムの豪腕をエリツーが何事も無かったかのように片手で受けとめている。まるでハイタッチでもするかのような挙動だった。あり得ない。ゴーレムの足はガリガリと音を立てて床を削っている。
ドゴン!
鈍い音と共に吹っ飛ばされるゴーレム。その身はくの字に折れ曲がっている。いや、胴体には風穴が空き、上半身と下半身の二つに分かれている。エリツーは無造作に足を前に出している。ヤクザキック。よくチンピラとかがやる、技術も何も無いただ足を前に出しただけの蹴りだ。
2体目がそのエリの横から薙ぎ払うようなパンチを放つ。速い! 避けられない。
ゴツッ!
ゴーレムの腕が止まる。体重、スピードが乗った大振りのフックが不自然に止まる。そこにあったのはエリの頭。エリは微動だにしていない。ガラガラと殴ったゴーレムの腕が崩れ落ちる。え、エリ、何したんだ?
「うわ、エグっ。ガチで石頭……」
アイが何か呟いている。おかしいだろ。エリと勘違いしかけてたけど、あれはエリツーだ。エリツーは僕の精霊。そんなに強い訳が無い。そうか、エリ、エリだ。エリツーはエリの姿をする事でエリの力を手に入れてるんじゃないか?
エリツーは体勢が崩れたゴーレムの肩を無造作に掴む。ゴーレムがエリツーに引き寄せられる。
ガゴン!
エリは髪を振り乱しながらゴーレムにヘッドバッドをかます。ゴーレムの頭は胴体にのめり込み、そこから崩れていく。ゴーレムは崩れ落ち、エリは髪をかき上げる。その姿は美しく神々しくもある。けど、そんなの知らん。僕にはもはやエリは女の子に見えない。あれはヤバい。僕にはエリが街のチンピラが最上級に進化したものにしか見えない。魔王? 魔神? そういう人外だ。下腹部がヒュンとなる。あれはエリじゃない、エリツー。けど、エリは多分アレより強いんだろう。
「なんだ……化け物……」
おっさんは呆然としてる。僕も同じ気分だよ。
「き、聞いて無い。ターゲットがそんなに強いなんて。無理無理無理だー」
逃げ去るおっさん。けど、僕らは呆然として追っかける事を忘れていた。腕を組んで瓦礫の中にドヤ顔で佇むエリ。いやエリツー。視線を感じる。モモとアイは何故かエリツーじゃなくて僕を見ていた。
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