第八十話 安心(エリ視点)
「フゴー、フゴフゴフゴー」
目の前に二匹の豚が居る。立ち上がった豚だけど、有り難い事に腰蓑みたいなものをまとっている。あたしはオークと遭遇するのは初めて。さすがに二足歩行の魔物が裸だと尻込みするわ。
それを見て思い出す。昔幼い頃、豚舎で子豚を見た時にあまりの可愛さにペットとして飼いたいと思った。それから豚飼いたい豚飼いたいと思いながらも月日が流れ。豚に触れるチャンスがやって来た。喜び勇んで触ってみたけど、想像してたのと違い触り心地はゴワゴワだった。なんて言うか固いブラシやタワシみたいでかなり萎えた。モフモフじゃなかった。ハグしても気持ち良く無さそうだった。なんで愛玩用のペットとして豚を飼ってる人が少ないかが分かった。やっぱり犬や猫ちゃんみたいにモフモフスベスベで撫で撫でしての癒しが欲しい。そのショック以来、あたしの中では豚はただの食べ物だ。
それにしてもオークはそれよりさらに剛毛っぽい。あたしの剣だと当たり所が悪かったら折れてしまうかもしれない。なんだかんだで剣は高価だ。折らないようにしないと。
「ゴールド、左をよろしく。右はあたしが行くわ」
「承知いたしましたご主人様。討伐します」
「エリ、右手には私が行きます。援護お願いします」
モモがあたしの前に出る。
「やっぱり危険だ。僕も戦う」
ハルトの声がする。
「大丈夫よ。あたしたちに任せて」
「こんな豚ヤロー、らくしょーですよ」
「けど、けど、デカい。強そうだよ」
「あたしたちを信じて」
「そうですよ。ラブリーでストロングでクレバーでパーフェクトボディで天使な私を信じてくださいっ!」
せっかく使った、あたしの『信じて』というパワーワードがモモのせいで胡散臭いものに落ちてしまった。
「とにかく、危ないって思うまで見てて」
「ああ、わかった」
どうにかハルトを押しとどめられたみたいだ。これで今晩はハンバーグじゃなくステーキが食べられそうだわ。んー、オーク見て料理の事を考えるなんて、なんかモモやアイにあたしも毒されてるな。
「デンジャラスパーンチ」
モモが大振りな攻撃を放つ。さすがにオークを舐めすぎよ。その拳をかわしながらオークがあたしの前に躍り出る。両手を広げて掴みかかって来ようとする。うわ、さすがに大っきい。ちょっとびっくりしてしまった。オークのくせに生意気な。
ガシッ!
つい、オークの両手を両手で受け止める。確かこれって手四つに組むって言うのよね。城下町でやってた格闘ショーで見た事がある。
ギリギリとオークが押してくるのをとどめる。甘いわ。どれだけあたしが力のリンゴを食べたと思ってるのよ。あたしは逆に押し返す。これでハルトも大丈夫って安心して見てられるはずよ。
「メスゴリラ」
ボソッとアイの声。
「えっ!」
口から声が漏れる。やってしまった。確かにオークと真っ向から組み合って押してたら、ハルトの心配は無くなると思う。それに増して、あたしの女の子としての魅力がゴリゴリと減ってるのでは? あたしが男の子だったら嫌だ。オークを力押しで圧倒出来る女の子は。
メスゴリラ……
あたしの心が抉られる。
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