第八話 希望
「本当に、ドロップしたわ……」
僕があげたリンゴをボーッとした目でエリさんは見ている。
「だいたい今くらいで1個落ちるかどうかだから、また行くョ」
うん、口も慣れてきた。滑舌も悪く無くなってきた。僕はさらに魔方陣を踏んでスライムを出して潰しまくる。次はチェリーか。外れだな。腹持ちが悪い。あと何個か拾っとくか。エリさんはフルーツ大好きだから。
「なんで、なんでだろう」
エリさんはずっと考え込んでいる。まあ、悲しそうな顔じゃ無くなったから良かった。フルーツもそこそこ手に入れた事だし、そろそろ本題に入るか。
「エリしゃん、あの、乗って来た舟、借りてもいい」
「舟って救命艇? いいけど、どうするの? その前に、あたしの名前呼び捨てでいいわ。17で同い年だし」
え、呼び捨て、それは難易度が高い。けど、呼び捨てでいいって事は、僕との心の距離を縮めたいって事だよね。頑張らないと。けど、同い年って、なんで僕の年齢まで分かるのだろう? スキルって言ってたから『鑑定』かもしれない。僕と違って人気なスキルだな。
「え、エリ、これでいいかな?」
「うん、いいわよ。けど、あの舟、壊れてるわよ」
「修理してみるョ。1年、ずっと誰か来るのを待ってたけど、来たのはエリさん、エリだけだョ。なんとかして自力で脱出するしかないかなって」
「待って、もしかしたら、あたしを探しに船が来るかもよ」
「えっ、本当? じゃ、そうだね、しばらく待ってみよう。けど、一応、救命艇は使えるように修理するョ」
やった。やっとこの牢獄のような島から出られる。この島ではなんとか生きて行く事は出来た。けど、日が経つにつれて気付いたのは、人間は1人じゃ生きて行けないって事だ。
僕の住んでたこ汚いアパート、歩くのもままならないくらい人が集まってた中央広場のバザー。固くて顎が疲れるステーキ。毎日毎日それまでは当たり前でどうでもいいと思ってた事が思い出された。
帰りたい……
ただそれだけだった。
「やっと、やっと帰れる」
早く、早く帰りたい。
「そうよね、1年ここに居たんだもんね。で、帰ったら何したいの?」
やりたい事は沢山ある。けど、まず、頭に浮かんだのは。
「シュテーキ。ステーキ食べたい。ここで食べれる肉は、たまに鳥や兎くらいなんだョ。でっかい肉、でっかい肉食べたい」
「分かったわ。フルーツのお礼もあるから、でっかい、でーーーーっかいお肉食べさせてあげるわ」
エリは両手を広げる。そんなにでっかいお肉は食べきれないよ。そもそも、そんなに大っきい肉ってドラゴンくらいしか思いつかない。
けど、帰る目途がついた。ベストはエリを探しに来た船で帰る事。でも、もし船が来なくても救命艇を補修して浮くようにしたら海に出る事が出来るはず。船が来るのを待ちながら、準備する事にしよう。
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。