第七十七話 汚染
「なんだとー! Gシリーズにそんな弱点があるとは……そのバナナの化け物もGシリーズ対策だったと言う訳か……い、急いで報告せねば。さらばだっ」
狼イケオジはそう言うと、懐から何か出すと地面に投げつける。
ボムッ!
破裂音とともにそこから煙が立ち上り、鼻を突く異臭がする。一瞬にして視界が遮られる。
「まずい! 毒か?」
「大丈夫よ」
僕に答えてくれたのはアイ。
「それはイタチ玉よ。煙で姿を隠して、さらに悪臭で犬とかの追跡を防ぐ逃げ用のアイテムよ」
さすが魔道士。アイはなんでも良く知ってる。けど、酷い。まるで数百人分のオナラをかき集めたような臭いだ。誰も臭いの事についてツッコまないから口にはしない。うちのパーティーは下品禁止だからね。
すぐに煙は晴れるが、イケオジはもう居ない。逃げられてしまった。走って行く音はしたけど、追っかける事よりパーティーのみんなの無事を確かめる事の方を取った。みんな問題は無いようだ。エリは鼻をつまんで超不機嫌そうな顔してる。モモは羽根をパタパタして自分から臭いを遠ざけてるんだろう。アイはバナーヌにかじりついている。マジか。この臭いの中でもの食えるのか。鉄人か? メンタル鋼か?
「うぇー。苦っ。私のバナーヌが汚染されたわ」
アイは文句言いながらもバナーヌを食べ続けてる。何もツッコまないどこう。
「エリ、今さっきの奴は何者なんだ?」
「わはらないわ。あたしを狙ってたという事しは」
エリは鼻つまんで鼻声で答える。マジで臭い。少しイライラするくらい臭い。
「それにしてもバナーヌ。大活躍でしたね。けど、皮が無くても大丈夫なんですか?」
モモがバナーヌに話しかける。
「お褒めいただいて恐縮でございます。ですが、残念な事に皮が無いと、変色してしまいます」
「だから、私は急いで食べてるのよ」
そうか、アイはバナーヌが変色する前に食べようと思って食べてたのか。理由があったのか。空気を微塵も読めない訳じゃなかったのか。
「まあ、さっきのおじさん、追っかけても追いつけそうじゃないわね。捕まえて話を聞きたかったとこだけど、しょうが無いわね。臭っ」
エリは喋るとまた鼻をつまむ。
「ご主人様、どうぞ」
戻って来たゴールドが手にキラキラした石をエリに渡している。
「あっ、ゴーレムの魔石ね。良い質ね。これを売ったらしばらく生活費に困らないわ。けど、この臭い不愉快ね。じゃ場所を移してバナーヌを食べましょ」
僕たちは小部屋に戻って休憩と食事を取る事にした。ナイフでバナーヌをこそいで食べたけど半分が限界だった。今はハーフサイズになってる。バナーヌの表面は臭く、食べると玉子が腐ったような臭いが鼻を抜ける。さすがに女の子たち特にエリに食べさせるのは憚られるので、できるだけ表面は僕が食べた。僕の中に食べ物を捨てるという選択肢は無い。スライム島でどれだけひもじい思いをしたものか。
腹立たしい。あの狼イケオジ、今度会ったら絶対にこの恨みを晴らす。食べ物の恨みを思い知らせてやる!
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