第七十三話 舌戦
「後ろから誰かつけてきてる」
僕はエリに小声で耳打ちする。
ゴブリンをゴールドが倒したあと、僕らは今石造りの通路を進んでいる。
空気の流れからして、間違いなく僕らの後ろに誰かいる。匂いは、植物油と焼いた魚とあとシトラス系の何か。多分おっさんの整髪料だ。油はなんだろう。あ、歩いた時に音がしないように靴にでも塗ってるのかもしれない。焼き魚の匂いにはスパイスの香りも混じっている。高価なレストランや、高級ホテルの料理の匂いだ。あと整髪料と思われる匂いも下卑てない。歩く時にほぼ音を立ててないが、微かな音で歩幅が分かる。背が高そうだ。
「ハルト、そんな訳ないでしょ。ここの迷宮は貸し切りなんだから」
「いや、間違いなくいる。僕より背が高くて、お金を結構もってる。高レベルの忍び足が出来て、おっさんが使う整髪料のようなものを使っている。距離はここから15メートルくらいで一人で迷宮に居るのに全く息が乱れてない」
「えっ、何で分かるの?」
「言ったじゃない。僕は野生生活で耳と鼻がかなり良くなったって」
「ちょっとー。何二人でヒソヒソ話してるんですか。私も混ぜてくださいよ。あ、もしかして私の悪口?」
モモがデカい声で割って入ってくる。
「モモの悪口なんか、だれもコソコソ言わないわよ。自意識過剰なんじゃないの? あんたになら直接言うわよ。迷宮なのに声デカいのよ。緊張感なさ過ぎなんじゃない? それに誰もがあんたの事考えてるって思わない事ね。あんたなんかその羽根が無かったら、ただのデブなんだから」
アイはモモの胸をバナーヌと一緒にビシッと指差す。さすが主従。連携バッチリだ。
「ちょっと待ってくださいよ。私のどこがデブなんですか?」
「それよ、それ。胸デブ、胸デーブ!」
胸デブ。なんてしょうも無い言葉だ。確かにモモは大っきいけど決して太ってはない。小ぶりなアイの僻みだろう。
「何言ってるんですか? 私が有り過ぎるんじゃなくて、アイがなさ過ぎるんです。むにゅー、むにゅー」
モモが、むにゅーむにゅーって言うと、ついブツに目がいきそうになる。むにゅむにゅしてそうだもんな。
「無じゃないわよ。存在するわ。あんた聞いた事ないの? 頭つかって勉強すると夜更かしする事が多いから育ちが悪くなるそうなのよ。あんたは毎日豚みたいにゴーゴー寝る人生送って来たから無断にそだってるのよ。私が小さい? あんたがデカすぎるのよ。鏡見た事ある? 街中であんたのようなブツぶら下げた人見た事ある? あんたはポートカイン一の胸デブよ」
まるでラッパーのようなマシンガントークだ。それにしても良く口がそんなに回るな。なんかちょびっと羨ましい。けど、アイが言ってる事って本当なんだろうか? よく寝ると育つって。まあ、モモはよく寝るから本当なのかもしれないな。
「胸デーブ! 胸デーブ!」
「むにゅー! むにゅー!」
迷宮の中をコンプラ違反的なしょうも無い言葉がこだまする。子供なのか? 不毛だ……
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