第五十五話 精霊
「お呼びいただいてありがとうございます」
黄色いもやから声がする。それははっきりとした輪郭を形作る。イチャついていたエリとモモも動きを止めている。
「え、あんたナニ?」
アイの目が点になってる。そっか、目を見開いてまん丸になったら、本当に点みたいだ。けど、僕も同じようになってるんじゃないだろうか?
「私の名前はバナーヌ。貴方様の熱い思いにより生まれし者です。以後お見知りおきを」
そのクリーチャーは片足をつき手を胸? に当てアイにかしづく。
なんで?
なんでこんなに礼儀正しいんだ?
でっかい、バナナが……
時って止まるものなんだな。誰も動かない。いや動けない。
アイの前に手足が生えたでっかいバナナがいる。しかもプンプンとバナナ臭がする。甘い。なんかお腹空いてきた。
「エリっ。なによこれっ。不良品なんじゃない」
アイが叫ぶ。えっ? オカリナが不良品?
「あたしが鑑定したんだからそんな訳無いじゃない。あ、あたしはオサレな精霊だと思うわ」
エリが心にも無さそうな事言ってる。
「ご主人様、何かご不満でも?」
バナナがイケボで問いかける。口、無いよな?
「で、あんた精霊なんでしょ? 何が出来るの?」
「ご主人様、見て分かりませんか? バナナに出来る事と言えばひとつしか無いですよね」
なんか、若干小馬鹿にしてるような響きが。
「頭脳明晰な私でも分かんないから聞いてんのよ!」
あ、アイ、イライラしてる。
「しょうが無いご主人様ですね。私に出来る事と言えば、ただ1つ」
バナナは立ち上がるとエレガントに先っちょから自分を剥き始める。中から白い実が顔を出す。もしかして、何かのスキルか? 僕は直ぐ動けるように立ち上がる。
「さあ、召し上がれ」
バナナは先っちょをアイの眼前に突き出す。
「食うかボケェ」
アイの右ストレートがバナナに突き刺さる。
「ご主人様、食べ物は大事にしましょう」
平然とバナナは自分からアイの手を抜く。怪我したんじゃないか?
「ご主人様、何を恥ずかしがってるんですか? 本当は私の事大好きですよね」
「な、何言ってるの。猿じゃあるまいし、私がバナナなんか好きな訳ないじゃない。私が好きなのはイチゴ。イチゴよ」
「でも、私はイチゴなんかじゃない。バナナ。バナナです。私はご主人様の強い愛によって生まれました。さあご主人様、ご友人方にしっかり伝えてください。私はバナナが好きですと」
「そんな訳無いでしょ。バナナなんか食べんし」
「嘘おっしゃい! ご主人様は生まれてから今まで軽く千本を越えるバナナを食してます。まさに千本バナナです。嫌いなものをそんなに食べますか? ご主人様の体のほとんどはバナナで出来ていると言っても過言じゃないです。声を荒げて申し訳ございません。素直におなりなさい。もし、バナナが好きと言うだけでご主人様を愚弄するような者はご主人様の友人になるに値しません。全てを受け入れてくれる者のみ友とすれば良いじゃないですか。大丈夫です。ご主人様の素晴らしさは私が理解しております」
うー。なんか良い事言うバナナだな。
「ゴメン。バナナ。私はバナナが好き。愛してる」
アイは立ち上がり、カバッとバナナに抱き着く。バナナの実が潰れてる。なんか汚い。
「ご主人様。私の名前はバナーヌです」
「分かったわ。バナーヌ」
バナナと抱き着く少女。なんか悪い夢を見てるようだ。僕は何を見させられてるんだろう?
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