第五十一話 初討伐 11 (アイ視点)
「あ、あの。私達のパーティー、解散するので、私を雇いませんか?」
私は隙を見てエリさんに話しかける。腕力がある人たちは、今穴を掘ってゴブリンの死骸を埋めている。死骸を放置したら、アンデッド化する事もあるし、腐って色んな病気の元になるかもしれないから、埋めるのは冒険者のマナーだ。あんまり守られて無いらしいけど。
私たち非力な者は戦利品を運んでいる。エリさんはそれを仕分けしている。
多分バケツヘルムの化け物ハルトたちのパーティーのリーダーはエリさんだ。エリさんを口説き落とせばメンバーに入れる。
「えー、あんたゴブリンにもやられるレベルなんでしょ。メリット無いわね」
エリさんは私には興味無さそうだ。こっちを見もしない。けど、私は魔道士。ダメ元で強気に交渉する事にする。
「ちょっと待ってよ。私の格好見てよ」
「黒いローブがどうしたの?」
「分からないの? 私は魔道士よ。魔法は2つも使えるわ。なんとマジックミサイルを使えるのよ」
マジックミサイルは素晴らしい。威力は大した事無いけど、必中だ。どんなものにでもダメージを与える事が出来る。
「そう、それで。もう一つはなんなの?」
えっ、マジックミサイルはスルー……
「マ、マイトよ。珍しいでしょ」
マイトとは補助魔法で、少し腕力を強化するものだ。決して人気がある魔法じゃないけど、冒険者になるって決めた時に覚えた。この魔法を使うと、非力な私でも一般男性と同じくらいの力が出せる。いざというときの護身用だ。
「ん、マイト?」
エリさんの口角が下がる。やっぱり無駄魔法認定された。
「あ、待って、それ、いいかも」
「え?」
「ハルトー。ちょっと来てー。ほら、あんたハルトにマイトかけて」
「んー、なーにー」
ハルトが駆けて来る。
「分かったわ。マイト!」
私の手から出た橙色の光がハルトに吸い込まれる。
「ハルト、凄いでしょ。この娘のスーパーパワーアップ魔法よ。これで、ハルトの腕力は桁違いに上がったわ」
「え?」
そんな事は無い。私のマイトは腕力2割増しになるくらいだ。
「おおおおーっ。すげー。体に力が溢れている。これなら何だって出来そうだ!」
そう言うと、ハルトは走り去り、恐ろしいスピードで深い穴を素手で掘り、ゴブリンをどんどん放り込んでいく。やば、あれはあの力とスピードは人間じゃない。
「ありがとう。君って実は凄い魔法使いだったんだね」
ハルトが弾む声で話しかけてくる。
「そ、そうよ。私は凄い魔道士なのよ。引く手あまただけど、助けて貰った恩があるから、あなた達のパーティーに入ってあげるわよ」
多分、私の魔法じゃなく、ハルトがヤバいんだと思う。なんか少し胸がチクリとするけど気のせいだ。
「そりゃ素晴らしいや。よろしくねアイ」
ハルトが出した手を私は握る。こうして、私はハルトたちのパーティーの一員となった。