第四十三話 初討伐 3
「エリーっ。こっちの兜が欲しい欲しい欲しいーっ。買って買って買ってーっ」
僕は生まれて初めて『だだ』というものをこねている。僕が抱きしめているのは格好いい兜三万ゴールド。バイザーが上げ下げ出来る、ザ兜って感じの逸品だ。買ってくれるってエリが言うまで、ここは動かない積もりだ!
「駄目よ。こっちに決定よ」
エリが持ってるのはクソクソダサい兜2980ゴールド。マジヤバい。ブリキのバケツに目穴と口穴を開けただけのヤツで、ちゃんと取っ手までついてる。エリ言うには川で水も掬えて、煮炊きにも使える優れものらしい。兜にそんな性能期待してないっつーの。
「ええーっ、ヤダヤダ。それくっそだっさいじゃん。じゃ、聞くけど、エリそれ被って大通り歩ける?」
あ、エリ、目を逸らしたよ。
「だから、あたしは兜なんか要らないって。欲しいって言ってるのはハルトでしょ? それにハルトは兜なんか買ってもまたどうせ直ぐに壊すんだから、一番安いのでいいじゃない。それにしっかり稼いだら装備は少しづつ良いのに変えたげるから」
「お願い。大事にするからー」
僕はエリの目をじっと見つめる。僕の兜愛が伝わるはずだ。
「しょうが無いわねー」
やたっ。エリはなんだかんだで優しいからね。
「ええーっ、ハルトだけ狡いですーっ。なら、私もあと2本剣が欲しい欲しい欲しい」
あ、モモもだだこね始めた。人の真似すんなよ。
「モモ、あんた盾も持ってるし、剣は1本で十分でしょ。だから余裕が出来たら百本でも二百本でも買ってあげるわ」
「百本もいらないですよ。剣が3本あれば、私のスキル、三刀流が火を噴きますよ。そりゃもうゴブリンなんて無双無双無双ですっ!」
そう言えば、モモは三刀流というスキルを持ってるって言ってたような? 三刀流って、あの有名な三つ目の刀を口に咥えるってヤツだろうか? 正直少しだけ気になる。
「ねぇ、エリ、三刀流って見てみたくない? それで、凄かったらモモには3本剣持ってて貰ったがいいんじゃない?」
「そうね。凄いって感じたらそれもアリかもね。けど、剣3本は痛い出費だわ」
僕たちは店の中庭にある、武器の試し振りスペースへと行く。
「では、見て驚いてください! 私は魔纏術というものを極めてます。これは体に魔力を纏わせて自由自在に動かすスキルです。翼で空を飛ぶために必要なスキル。元々人には翼はありません。魔力を纏わせて動かしてるのです」
剣3本を腰に差したままエリは同時にとか、交互に翼を動かす。そして剣を抜き、両手に構える。
あ、分かった。
「モモ、もしかして三本目の剣って翼で持つんじゃない?」
「え、面白いけど、それは無理です。羽根の可動域的に難しいですね」
ん、じゃ、もう1本はどこで?
エリは右手の剣を胸の谷間に無理矢理挟み込む。変態かよ……え、落ちない。剣が! どれだけの圧力なんだよ。そしてもう1本剣を手にすると、天使が舞い始めた。3本の剣がまるで生きてるかのように踊り始める。緩急をつけて振るわれる剣は一撃一撃が重そうで、人に当たれば致命傷を与えられそうだ。まるで天上の舞いみたいだ。3本目の剣が無ければ。そのせいで場末の酒場の宴会芸みたいになってる。そして、駄天使の舞が終わる。なんとも言えねー。エリがぱちぱちとまばらで乾いた拍手を送る。そして口を開く。
「剣2本、返して来てね。あと、三刀流、金輪際未来永劫禁止。ハルトも兜無し」
どうやら逆鱗に触れたみたいだ。
「モモ、何してんだよ。僕の兜も無しになっただろ」
「ええーっ。村では拍手喝采だったのに。ちょっと大人向け過ぎでしたかねー?」
モモ、大丈夫かよ? 天使は頭の中にも羽根が生えてるのか?
でも、なんだかんだで、装備はグレードアップして、僕らは一般人からなんとか駆け出しの冒険者のような格好になった。兜ー……
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