第四話 鑑定 (女の子視点)
「僕はアヤスイ者じゃないョ」
あたしの前で、怪しい生き物が変な事を言っている。筋骨隆々の上半身を晒して、謎の素材で出来た腰蓑みたいなものを纏っている。髪はボサボサで顔は髭まみれ。こんな汚い人は貧民街にも居ない。なんか動物園のような臭いもするし最悪だ。それに、『アヤスイ』って何よ。多分『怪しい』って言いたいんだと思うけど言葉すら満足に言えて無いじゃないの。これで怪しく無いって微塵も根拠が無いわ。
夢、夢を多分視てるんだわ。王国が誇る最新鋭の船が沈む訳無いわ。けど、あたしは髪を含めずぶ濡れ。寒い。自然に体が震える。この感覚夢じゃ無い。あたしは体を抱きしめる。少しでも暖かくなるように。
「さむィんだね。僕のうち、うちにクル? 大丈夫。ナニもしないョ」
目の前の化け物が歯をむき出して言葉を使ってる。
あたしが座ってるのは間違いなく救命艇。護衛の騎士が命がけであたしをこれに乗り込ませた。やっぱり船は沈んだんだ。ここはどこだか分からない。けど、あたしは生きている。あたしの命を繋いでくれたみんなのためにも、あたしは生き残らないと。この汚くて気持ち悪い生き物は拙くも人の言葉を話している。多少は知恵があると思われるから、交渉次第ではなんとかなるかも。幸運な事にあたしのポーチだけは無事だ。この中のものが役に立つかもしれない。あたしはポーチを握り締め立ち上がる。
「ついてきなョ」
あたしに背を向ける生き物に、スキルを使う。鑑定。頭がクラクラで力が入らないから普通の鑑定を使う。
『ハルト・バークレー ヒューマン 17歳 レベル5』
「ブッ」
あたしは息を吹き出す。え、人間なの。しかもこの見た目でまだ17歳。あたしと同い年だし。それにレベル5! よっわ。あたしですらレベル20有るのに。なんかびっくりして損したわ。めっちゃ見かけ倒しじゃないの。レベル5って下手したら訓練した小学生以下だし。
「大丈夫?」
変な生き物が振り返る。名前はハルトだったわね。
「大丈夫よ。早くあなたのお家に連れてって」
レベル5なら何されても大丈夫。簡単に反撃できるわ。あたしはハルトに付いていく。
「ねぇ、ハルト、あたし、喉が渇いたし、お腹空いたの。何かある?」
「のんで、ボクの名前、スィってル?」
滑舌悪いわね。ま、けど、無害と知ったら少し可愛らしくも見えるわ。
「スキルよスキル。そんな事より何か無いの?」
「ちょっとまテテョ」
ハルトはしゃがむと小石を拾う。そして、横を向く。そこには椰子の木。実が生ってる。
「数少ないから、トクベツだョ」
ハルトは椰子の木に向かって石を投げようとする。うーん、もしかしてハルト、頭は残念なのかも。石投げたくらいで椰子の実が落ちてくる訳ないじゃん。
ヒュン!
ハルトが投げた小石が椰子の実に一直線に飛んでいく。コントロールいいわね。
「え!!」
あたしは開いた口が塞がらない。
ボトッ。
落ちてきた椰子の実を何事も無かったかのようにハルトが受け止める。
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