第三十一話 決闘
「問答無用! 行くわよ!」
天使が空へと駆け上がる。キラキラと光る羽根が舞い散る。なんかいつの間にか遠巻きに人混みが出来ている。仮面の怪しい人間を可憐な天使が懲らしめてやろうとしてるようにしか見えないだろう。これ、まずくないか? そもそも僕はあんまり目立ちたく無いのに。
「エリ、どうしよう?」
「そうね。さすがに天使をやっつけちゃったらまずいから、攻撃はしないで、
かわしたり受けたりしてたらいつかは諦めるわよ」
そうだよな。それしか無いよな。エリは僕の荷物を受け取ると、離れていく。
「受けてみよ! 正義の刃! 天滅神葬斬」
天使は頭の上に剣を掲げる。日の光を浴びた剣を光りの輪が囲んでいる。なんか凄い。格好いいし強そうだ。
天使は空から僕の方に頭を向けると剣を突き出して突進してくる。けど、のろいなー。手加減してるんだろう。どうしよう。木刀を構える。かわしたら多分天使は床の石畳に激突するかもしれない。さすがに天使に怪我させたら良くないだろう。斜め上から突撃してきてるから、上に逸らしてやったら、また空に飛んでくんじゃないだろうか? 天使の剣が僕に迫る。落ち着いて、それを木刀で上に逸らす。
ギィン!
あれ? 何かが割れた様な音? ゲッ、剣が折れた。木刀じゃなくて天使の剣が! またハリボテだったのか? 王都じゃ流行ってるのか? あ、いかん! ぶつかる!
ゴスッ!
天使の頭が僕の胸に刺さる。
「おっと」
取り敢えず抱きかかえる。やば、なんかめっちゃやらかいものが……
「ぴゅうーーーーーーっ」
なんか小動物の鳴き声みたいなのを天使は上げて動かなくなる。まずい! 首の骨折れたりしてんじゃないか?
「はーい! 皆様!」
エリが声を張る。なんだ?
「今度、公演予定の劇、『天使と仮面の勇者』の予告、いかがだったでしょうか? ぜひ、皆様、公演の際にはお越しください。それでは皆様! さようならーっ!」
エリは言い上げると、僕の袖を掴む。
「おい、エリ、この天使、大丈夫か?」
「大丈夫よ、鑑定したから。それより、今のうちに逃げるわよ。これだけ騒いだんだから衛兵くるわよ」
「分かった。じゃ、一端、森に向かおう」
「昨日の所ね。あたしが先導するわ」
「ああ頼んだ」
エリは人気が無い所を選びながら走り、僕らは森にたどり着いた。
「ちょっとー。いつまで抱っこしてるのよー」
「けど、地べたに寝かせてもいいのか? 天使だよ?」
「いいわよ。天使って言っても、襲いかかってきたのはあっちだし。あのまま放置してきても良かったのよ。そしたら多分、罰金ふんだくられてたから、感謝される事はあっても文句言われる筋合いはないわ」
なんかエリは天使に辛いな。僕は少し名残惜しいけど、優しく天使を草の
上に寝かせる。土の上よりましだろう。
「うーん。首が痛いー」
しばらくして天使は目を覚ました。
「私の神剣アスカロンが……三万ゴールドもしたのに……」
天使はうな垂れている。
「三万ゴールドって普通の剣じゃない。
それより、あなたハルトに負けたんだから言う事ききなさいよ」
エリが天使の顔を覗き込む。なんか僕的にはこの天使とは関わりたくない気がする。
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