第二十八話 採取依頼
「もう時間無いし、帰って寝ましょうよ」
エリがまた同じ事を言う。これで三度目だ。僕たちは森に向かう街道を走ってる。ギルドで登録を終えた僕たちは、銭湯に行く前に常設依頼の薬草採取を受けることにした。服は酷かったので古着を買って着替えて捨てた。エリもシャツは買い換えた。日が傾いてるからあんまり時間は無い。
それにしても走りながら息切れもせず喋るエリは凄い。僕なんて息切れせずに走れるようになったのは島で一ヶ月経ったくらいだったのに。
「いや、少しでも稼がないと、お金無いからね」
「お金は、あたしが持ってるじゃない」
「なんか、エリにばっかり頼ったら悪いじゃん」
僕はギルドの資料室で流し読みした薬草の本の中身を思いだす。絵が多い本だったから、簡単に覚えられた。採取場所、種類、効能、採取の仕方。完璧だ。あとはギルドで借りた背中の籠をいっぱいにして帰るだけだ。
まずは、薬草採取やドブさらいとかで依頼成功を三つ稼いでFランクになる。そうしないと討伐系の依頼が無い。ランクを上げたら討伐依頼で魔物を狩りまくってレベルを上げる。
結構飛ばしたので、資料で見た採取場所には直ぐ着いた。夜になると魔物が活性化するから、夕暮れには帰る。
「ねぇ、ハルト、採取依頼ってあんまり稼げないんでしょ。それに普通は1日かけてやるものなんでしょ?」
「まあそうだけど、少しでも早く強くなりたいから」
「……そうね。じゃ、頑張りましょ」
エリは僕に微笑んでくれる。さっきはあんなにも情けなかったのに、エリはまだそばにいてくれる。その期待に応えるためにも僕は命をかけて薬草を毟ってやる!
レベルは上がらなかったけど、島での生活は僕を強くしてくれた。
「ハルト、はい。ハンドスコップ」
エリがギルドで借りた小っこいスコップを差し出す。
「エリ、島にはそんな便利なものなんて無かった。素手で十分だよ」
あ、そう言えば、エリには僕の山菜採取の腕は見せて無かったな。基本、エリの入浴時にしてたもんな。
「どうやって土を掘るの?」
エリがキラキラした目で見てる。もしかして、この手の作業好きなのか?
「指だよ。こういうふうに三つの指を土に指して土ごと薬草を引っこ抜いて、叩いて土を落として籠に入れる」
この間、1秒かからない。エリも真似するけど、薬草の根っこは千切れた。根っこごと採取するには微妙な力加減が必要なのだ。一朝一夕では身につかない。しみじみと思い出す。魚や鳥を捕れるようになるまで、僕のご飯はずっと木の皮と山菜だったもんだ。
「凄いわねー。けど、あたしは不器用だから難しいわ」
そして、エリはスコップ、僕は素手で薬草採取し始めた。
「じゃ、エリ、帰ろっか」
「うわ、すご。あたしなんかまだ10本くらいなのに」
エリは僕の籠を見てびっくりしてる。
「生きてくために必要な技だったからね」
多分、10分くらいかかったんじゃないだろうか? 群生地だから早かった。当然また生えて貰うために取り尽くしては無い。マナーだ。ここは運が悪かったら、グレートウルフというそのままでっかい狼の魔獣が出るらしく、薬草が手付かずだったのが勝因だ。本当はエリが居るからその狼と戦いたかったんだけど、犬っぽい遠吠えが聞こえるだけだった。
「ねえ、ハルト、あたしたちこれで生活出来るんじゃない?」
宿探しに向かう途中エリが話しかけてくる。薬草、ギルドで売ったら5000ゴールドになったもんな。
「それもいいかも。けど、早く討伐依頼受けたいからね」
毎日エリとのんびり薬草を取って生活するのも悪くは無いな。けど、薬草には限りがあるし、冬には仕事が無くなるからかなり稼がないと難しい。それに5000ゴールドだと銭湯、ご飯、安宿でギリギリだ。明日はもっと稼がないと。
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