第二十七話 誤解
「いや、もういいだろ。十分満足した。その女は何もしてねーから、さすがにソイツをやったら犯罪者だろ」
ジェイルにしてはまともな事言ってる。僕にここまでした時点で犯罪者じゃないのか?
「それにもうすぐ馬車の時間だ。今日はいい門出になったな。これで、ここの連中も俺らの強さが身に染みただろ」
バートンの足が僕から離れる。
「そうね、王都、楽しみだわ。可愛い服も沢山あるのよね」
イリスが嬉しそうな声を出す。
「美味しいものも沢山あるわ」
ミレも楽しそうだ。
「じゃーな、カスヤロー。ブッ」
頭になんか落ちてきた。もしかして、ジェイル、僕に唾をかけたのか?
僕から足音が遠ざかっていく。4人は終始楽しそうに騒いでいた。なんで、僕がこんな事されるんだろう? それに、何が楽しいんだろう?
「ハルト! 大丈夫!」
エリの声がして、頭を撫でられる感触。あ、服で僕の頭を拭ってくれてるのか。汚れるのも嫌がらずに。やっぱりエリは天使だ。
「大丈夫だよ」
僕は顔を上げる。
「ゴメンね、あたしが戦わないでって言ったから」
エリは人を傷付けないでとは言ったけど、さっきは戦っていいって言ってた。戦わなかったのは僕の意思だ。エリを巻き込まないため。
「いや、僕こそゴメン。僕が弱いから、何もやり返せないで」
「んーん、ハルトは強いわ」
我慢した僕の心を強いって言ってくれてるんだろうか?
「それに、全く痛く無いんだ。多分、手加減してくれてたんだろう」
「えっ、じゃ、ハルト、なんで泣いてるの?」
「悔しいからだ。弱い僕が悔しい。僕は強くなりたい。あんな奴らに好きにされないために」
僕とエリは見つめ合う。エリは何とも言えない表情をしている。何か変な事言ったかなー?
そして、気を取り直し僕が気付いた真実を話す。
「多分、今のは芝居だ。エリに手を出さなかったのが、何よりもの証拠だ。アイツらは多分、シルバーランクになってまだ間もない。だから、周りになめられ無いように、目立つギルドで僕をボコボコにするふりをしたんだ。他の冒険者だと問題になるけど、僕はアイツらの元パーティーメンバーだ。だから融通が利くだろうと思ったんだろう。まあ、けど、それもアイツらのわがままだ。絶対、絶対に強くなって今日の借りは返す」
「いや、ハルト、多分あいつら全力だったと思うわよ。すっごい音してたし、ほら、今も周りはドン引きしてるわよ」
「いや、そんな訳ないじゃん。ほら、僕、ピンピンしてるよ。シルバーランクが全力をだしたら、僕のようなザコはミンチになってるよ」
エリと僕はしばらく見つめ合う。なんか僕は変な事言ったんだろうか?
「分かったわ。じゃ、登録したら、服を買ってお風呂行くわよ。ハルト、ドロドロだわ」
うん、踏まれまくったからね。立ち上がった僕を見て、周りからどよめきが起こる。ん、僕、何かしたかな?
エリに体をはたいて貰って、受付へと向かう。この街ではギルドの受付嬢は人気職で、美人なお姉さんしか居ない。前に受付嬢になんで若い人しか居ないのか聞いたら、みんな寿退社していくから、常に若い人しか居ないそうだ。
エリが急かすから、事務的な会話だけして登録を終わらせる。エリ、ギルド職員嫌いなのかな?
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