第二十六話 制裁
「へぇー、アンタ、エリって言うの。男の趣味悪過ぎんじゃなーい?」
口を開いたのは、いかにも魔道士という格好の女の子、ミレだ。苛烈な性格でなんでも燃やせばいいと思っている。
「いやいや、あんなカスとつき合ってる訳ないじゃない」
イリスも口を開く。心の奥がチクッと痛む。あの時までは、僕は確かにイリスが好きだった。イリスは神官。今日も白色の折り目正しい神官衣を着ている。清純で優しい女の子だと思ってたのに、それは僕の前だけの仮面だったんだな。
「そうね、こんな何も出来ない奴に付いてきてるって事は、多分商売女よ。しかも底辺の。やっすい金額で雇われてるんだわ」
口が悪い神官だな。神様に見放されたりしないんだろうか?
「なっ、何言ってんのよ。アンタたち!」
エリが声を荒げる。
「エリ、我慢しろ!」
「へぇー、ハルト優しいのねー」
イリスが僕を見下ろしてくる。くそっ、何で昔の僕はこんな奴が好きだったんだろうか?、確かに可愛らしくはあるけど、心がドブだ。間違いなく汚物まみれのドブだ。
「エリって言ったわよね。その汚い仮面取りなさいよ。あ、分かったわ。めっちゃブッ細工だから隠してるのね。けど、仮面で隠しても臭いは取れないわ。臭い臭い鼻が曲がりそうだわ」
エリは臭くない。毎日お風呂に入ってたからな。けど、強いて言えばいつもフルーツの香りがする。そう言えばイリスは肉が大好きで野菜やフルーツは嫌いだったな。
「止めろイリス。エリは関係ないだろ。絡むのは僕にしろ」
「そうかい、そうかい、そんなに痛い目をみたいのか?」
バートンが近づいてくる。そして僕を踏みつける。
「ガッ、ウグゥ」
僕は痛いふりをする。なんか思いっきり踏みつけてるように見えるんだけど、痛く無いんだよね。全く。これはおかしい。
「おい、ミレ、コイツを一応見てみろ。強くなってるかもしれんしな」
バートンが足に体重をかける。なんか軽いな。バートン痩せたのか?
「はーい。『アナライズ』。うわ、やっばー。ハルト強くなってるわよ。レベルが3から5に上がってるわ。きゃははははっ」
アナライズは簡易鑑定の魔法だ。ミレ、そんな魔法まで使えるようになったのか凄いな。けど、レベルがバレた。
「くぅわーっはっは。ひーっひっひ」
バートンが息切れするほど笑ってる。
「相変わらず、ザコまっしぐらだな。おら、鍛えてやんよ」
バートンがゲシゲシ僕を踏んでくる。良い感じに馬車で凝った体がほぐれる。痛いというより、どっちかと言うと気持ちいい。けど、痛がらないと。
「ぐわっ! げっ! げぼっ!」
こんな感じでいいだろうか?
「俺にもやらせろ。むしゃくしゃしてんだよ。バートン、立ち上がらせろ」
ジェイルの声がする。無理矢理立ち上がらされた僕の腹に、ジェイルが金属のガントレットを装備した拳を打ち込む。
「グオッ」
僕はまた痛がるふりをする。それからは酷いものだった。ジェイルとバートンは僕を殴る蹴る。ミレは魔法の火の礫で僕に根性焼きしてくるし、イリスは尖った靴の底で僕を踏みつけてくる。そして、合間合間にエリに罵声を浴びせる。僕は亀のように体を丸めて耐え続けた。全く痛くは無いけど、心が痛い。強くなってやる。絶対に強くなってコイツらを痛い目に合わせてやる。僕が殴られる蹴られる分には我慢出来るが、奴らはエリに罵詈雑言を放ち続けた。それが特に許せない。僕が僕が強かったらエリにそんな事言わせないのに。僕の顔を涙が伝う。ゴメン、エリ、ゴメン……
「あー、スッキリした」
ジェイルの声がする。
「ぼくちゃん、床が濡れてるぜぇ。お漏らししたのか?」
バートンが僕を踏みつけてグリグリしてくる。
「バートン、ハルトは泣いてるのよ。可哀想ハルトちゃん、痛いんでちゅねー。痛い痛い飛んでけー」
腕にピリッとした痛み。ミレがまた焼き入れてきたのか。
「全く抵抗しないから面白くないわ。あっちの女もやりましょー」
イリスの声に僕の体が反応する。カスが。エリに手を出したら、何があっても僕が死んでも抵抗する。
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