第二百十四話 島ルート 2
「モモー。どーしたのー?」
僕は飛んでるモモの下から叫ぶ。
「ハルト! ハルト! ハルト! ハルト! ヤバい! ヤバい! ヤバい!ヤバいんですーー!」
モモは急降下してくると、抱き締めてるものを差し出す。下着姿の女の子。アイだ。その目は閉じていて口から血を流した跡、血は乾いている。全身青ざめていて、唇なんて紫だ。僕は知ってる。見た事がある。死体だ。もう手遅れだ。
「アイ……」
一瞬ドキッとしたけど、僕の考えが間違って無ければまだ方法はある。けど、やっぱりついて行けばよかった。そしたら、こんな事にはならなかったはず。多分ドラゴンにやられたんだと思うけど、僕がその場に居たのなら、なんとかしてみんなを逃がす事くらい出来たはずだ。
「ハルト、なに呆けてるんですか。早く、早くヒールしちゃってくださいよ」
「モモ、無駄だよ。ヒールは死人には効かない」
「あ、そうですけど、見て、見てくださいよ。これはアイですよ。アイがそう簡単に死ぬ訳ないでしょ。ただ息してなくて、心臓が動いてないだけで、中身は生きてるに決まってるですよ。まあ、ちょっと体も固くなってるような、あと、なんかアンモニア臭がするような気もしますけど」
「モモ、悲しいかもしれなけど、現実を見るんだ。アイは神様の下に召されてしまったんだよ。けど、大丈夫だよ。ジャッジメントがもう片方を選んでくれたら、これも無かった事になるはずだよ」
「ちょっとー、そういうのいいですから、とりあえずヒールしちゃってください。ハルトの愛の力で奇跡を起こしてちゃってくださいよ!」
ま、そこまで言うのなら、やるだけやってみよう。それでモモの気が済むのなら。僕は魔力を練り上げ、アイの手に触れる。冷たくて弾力が無い。死んで結構時間が経ってるのかも。アイ……
「ヒール!」
アイの体が一瞬光る。口から垂れていた血が潤いを取り戻し口の中に戻っていく。僕のヒールは便利だ。回復魔法じゃ失った血は普通は戻らないからしばらく貧血になるって前の仲間たちが言ってたのを思いだす。
ぴきっ。ぴちっ。くきっ。
え、うそだろ。なんか関節を鳴らしながらアイの手が動いた。
「ぐぐぇげうっ。げぼっ」
その喉から人では無い声が漏れる。
「良かったですぅ。ほらアイ立って」
モモがアイをゆっくりと地面に足をつけさせる。アイが立った。僕に目を合わせる事なく、カクカクした動きで海に向かって歩きだす。
ゾンビ。間違いなくゾンビだ。
「知らなかった。死体をヒールしたらゾンビになるのか。いや、僕のヒールが特別なだけかもしれない。まさか、僕に死霊魔術師の力があるとは……」
「違いますって。ほら、ほらアイ、生きてますよ」
モモはゾンビアイの背中をペチペチ叩く。モモがそう思いたい気持ちは分かる。けど、言葉も話せず、動きは緩慢で血の気が無い顔。え、あるね血の気。むしろ全身赤いような?
「ぅみ……て……がぃ」
ゆっくり歩くアイから低い謎言語が聞こえる。ゾンビ語か?
「え、アイ、なんですか? え、一生のお願い? 海に投げ込んで? どうして海に入りたいんですか、あ、分かりました。お漏らし、お漏らししちゃったんですね。やっぱりアイはお子ちゃまですねー」
あ、アイの全身が茹で蛸みたく真っ赤っかだ。え、生きてるの? それより! お漏らし!!!
「ちょっと、トイレ行きたくなったなー。モモ、アイの事よろしく」
気遣いが出来る男ハルトは、とりあえず中座する事にした。
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