第二百十話 バトルルート 7 (エリ視点)
あたしの前をハルトが走ってる。なんだこれ。ハルトの目の前にあるものが当たる前に吹っ飛んでいく。よく見るとハルトの体を仄かに光る膜みたいなものが覆ってて、それが全てをなぎ倒している。あれ、なんだろう? オーラ的なものかな? あたしの鑑定が通らない。まあ、ハルトだしいっか。ん、ナニコレ。鑑定バグった? ハルトの力が500を超えている。他の数値も400超えてる。アイの魔法だと数割アップがせいぜいだし、おかしい。
もしかして……
ハルトはずっと力を抜いていた? あたしが見てた鑑定したハルトは大きく力をセーブした状態だったんだわ。あたしは勘違いしてた。ハルトは暗黒竜なんかよりヤバ過ぎる存在。島で穏やかに暮らして貰うべきだった。あたしはなんてものをこの世界に解き放ってしまったんだろうか?
その化け物は太い木をまるで雑草のように吹き飛ばしながら走る。全く追い着けない。そして、ドラゴンに迫りそのまま走り抜けた。
「はあぁ?」
何が起きた今? 悪夢のような暗黒竜はハルトに触れる事なく飛び散った。オーラだけで吹っ飛ばした? いや、まるで熟れて柔らかくなったトマトに石でも投げつけたような。シュポンと子気味良い音が後からやってきた。
ダメだ……
絶対ダメだ。ハルトに本気を出させるのと、ハルトに自分の強さに気付かせるのは。
禁呪。ハルトへのバフ魔法は禁呪確定だ。
あたしたちはハルトに追い着く。アイとモモに目配せする。二人とも肯く。上手く口裏合わせてよ。
「ねぇねぇ、アイ、今の魔法なんだったの?」
ハルトはアイに目を向ける。げっ。ヤバい。アイは目が泳ぎまくってる。それに汗をダラダラかいている。ハルトから凄い力を感じる。多分アイはその力に怯えている。猫がライオンに遭遇したようなもんだ。このライオンは無邪気だけど、ちょっとした手違いであたしたちはミンチにされる。彼が少し全力で走るだけで、あの木々みたくなるし、アイの労をねぎらって頭ポンポンなどしようものなら、アイの存在は地中深く消え去る事だろう。良かった。ハルトが女の子にベタベタなチャラ男じゃなくて。そうだったら、あたしたちは四散してる。早くこの本気モードを解除しないと。
「すっ、すごい魔法」
アイはガタガタ震えながら答える。まずい、ハルトの意識をアイからそらさないと失神、下手したら粗相してしまうんじゃ。あたしでさえ、ヤバいし。
「うん、すごい魔法だねー。道を作る魔法って初めて見たよ」
魔法じゃねー。ハルトがほぼ物理で作ったんだよ。けど、チャンス。ハルトは自分じゃなく魔法が凄いって勘違いしてる。
「そうねー。凄い魔法ねー。それで、その魔法ってもうじき効果が切れるのよねー」
「そっ、そうよー。もう終わってるわよ……」
アイからアンモニア臭がしてるような? 終わったのは魔法じゃなくてアイなんじゃ? その疑問は封印して。
「ドラゴン、大した事なかったわねー。鑑定も間違える事あるのねー。ホホホホッ」
とにかく場を和めようと笑うけど、不自然になっちゃったわよ。
ん、なんか浮いてる。ハルトの横に黒い球が。
「うわっ」
いきなり吹っ飛ばされた。もしかしてハルトが走った? いや、ハルトは動いてない。あたしと一緒にアイとモモも吹っ飛ばされてる。けど、見えたのは一瞬。あたしは何度も何度も木々にぶつけられる。これは、ダメかも……
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