第二百九話 バトルルート6
「あたしたちじゃ倒せないわ。倍、耐久、力、HPが脱皮前の倍になってた」
エリは悄然としている。それが言葉にリアリティを出してる。
「え、倍? それなら誰も倒せないんじゃないか? 間違いじゃないの?」
一応聞いてみる。間違っては無さそうだけど。
「まあ、そうとは言えないけど、数字は間違って無いわ。あたしたちの攻撃が全く効いてなかったし。けど、それよりも見えたスキルがやばい」
そうとは言えない? まだ倒せる算段があるのか?
「どんなスキルよ。私の最高の頭脳をもってすれば、どんなスキルもなんとかなるわ」
アイが明るく言う。空元気ってやつか?
「最高の頭脳ですかぁ? アイのアイデアが役に立った記憶無いんですけど」
モモがアイを煽るけど、いつもより、なんかしんみり感が少しある。そりゃそうだ。ドラゴンは絶望的に強いんだから。
「スキル名は、『セイントには同じ技は二度と通用しない』っていうのよ。言葉はイミフだけど、セイントって聖人って意味よね。多分対象者の事ね。スキル内容は、一度食らった攻撃はノーダメになるっていう破格なものよ」
え、なにそれ。じゃ、一撃で倒すか、毎回違う攻撃方法を使うしかないのか? 無理ゲーじゃん。
「じゃ、逃げよっか」
なんか遠くからバキバキと音聞こえる気がするんだよね。
「何言ってるの。あとはハルトよろしくね」
エリが訳分かんない事言ってる。
「ハルト、私の魔法を信じて。最高のバフをかけるわ。アルティメット最強ブースト魔法!」
アイが僕に向けて両手を向ける。両手は白く光りその光が僕に吸い込まれていく。あたたかい。まるで高額な1000ゴールドはする栄養ドリンクを飲んだみたいだ。疲れた時につい飲んでしまう、モン汁230ゴールドの4倍の価格には躊躇ったけど、前に一度贅沢して買って飲んでみた。効果は4倍以上だった! けど、一つ弱点が、なんかやたらムラムラするんだよね。そばを肌面積が多いお姉ちゃんが通るだけでドキドキするほど。うん、その時と同じ感覚だ。元気元気の万能感、あと数時間は元気に働けそうだ。けど、ちょっとムラムラが……
「今のハルトなら、ドラゴンも楽勝よ。ヤバいと思ったら逃げてもいいから」
エリが拳を突き出してくる。僕は少し躊躇って拳を当てる。
うん、なんか体から力が溢れ出す。少し怖いけど、今なら一発くらいはドラゴンをぶん殴れそうな気がする。
そう、多分ここが本当の分岐点。怖いから逃げるか、勇気を出して立ち向かうか。多分逃げたら、僕はこのパーティーから捨てられるだろう。本当の役立たずだから。死ぬよりはそれもいい気がする。
けど、嫌だ。凶暴だけど僕には優しいお姫様みたいに綺麗なエリ。文句ばっか言うけどなんだかんだで僕を助けてくれるアイ。お胸は妖怪だけど可憐な天使で食べて寝てばかりなモモ。ん、モモってなんかいいとこ無かったかなー。まあ、いいや。彼女たちは僕の大切な仲間だ。少しは格好いいとこ見せたい。僕だって男だから。
「じゃ、ドラゴンの様子見てくるよ。殴れたらぶん殴る。信じてみるよアイの魔法」
僕は駆け出す。
「ちょっとー。あんたもう少しちゃんとしなさいよ。今の魔法、ただのマイトでしょ」
エリの声が聞こえるけど。そんなはずは無い。この僕に溢れる力が証明してる。
走る。走る。ドラゴンに向かって。全力で音のする方に。僕が走ると木々がまるで風にたなびく草のように避けていく。あ、ドラゴン。デカっ。止まらないと。遅かった。ぶつかる! え、ドラゴンが居なくなった。なんとか止まるとドラゴンは居ない。振り返ると凄い事になってた。蠢くグチャグチャな肉塊。なんだ、もしかしてドラゴンじゃなかったのか? 幻覚だったのか? それともドラゴンの殻を被ったスライムみたいなのだったのか? けど、アイの魔法凄ぇな。森に道が出来てる。どうしてか分かんないけどアイに聞けば説明してくれるだろう。僕は道を駆けてくる仲間たちを待つ事にした。
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