第二百二話 洗髪
エリが頭をワシャワシャ洗ってくれる。アイで練習しただけあって、いい力加減だ。正直少しドキドキしてた。僕の旅はここで終わるのではないかと。頭をクルミのようにカチ割られて。
「フフンフン、フフンー」
鼻歌交じりにワシャワシャされる。人に頭洗って貰うのなんていつぶりだろうか? 思い出せないけど、懐かしい感触。ちょっと眠たくなってくる。たまに暖かいお湯が背中にかかる。パンドラが気を遣ってくれてるんだろう。
「どっか痒いとこないー?」
痒いとこ? 特にないけど、これは痒いとこを言えば掻いてもらえる。水着の美少女に掻いて貰える。けど、これは罠だ。強いて言えば腰に巻いてるタオルのお尻のとこが痒いけど、これを口にしたらキルされる。ここは無難に。
「右の耳の後ろかなー」
かなーって、自分が痒いのに何故疑問形? 嘘なのモロバレだなー。
コリコリッ。
それでもエリが掻き掻きしてくれる。自分でやるのと違って力が強くないのがなんかいい。
けど、もしかしたらこれが最後の入浴かもしれない。ドラゴンの事が頭に浮かぶ。
そして、また髪を洗ってくれてるんだけど、長いなー。もしかして僕の頭ってそんなに汚い?
「はーい。タイムオーバー!」
パンドラの声がして頭にお湯がかかる。
「何やってんのよ。まだ終わって無いじゃない。ハルトの頭は念入りに洗わないとでしょ」
「もう、主様のみ頭は綺麗です。派手豚、何お前、主様のみ頭に永倉触れたいからって洗ってるフリしてるのよ。主様の髪の毛が全部抜けたら、お前の髪の毛も全部抜くわよ」
結構頭流して貰ったから目を開ける。ヤバいエリが立ち上がってダラリと構えている。それに対してパンドラがゆっくりホバリングしてエリに近づいてる。やる気だ。二人共。今はお互いの間合いを測ってるんだろう。二人の攻撃範囲が交わった瞬間バトルが始まる。エリはめっちゃ強いのに、パンドラがそれより強いのは今だに謎だ。
ブバッ!
なんか汚い破裂音のようなのが聞こえたと思った瞬間、エリの頭が吹っ飛ばされる。そして弾ける飛沫。
「キャハハッ! 当たった。当たったわー。あんたたちどきなさいよ。次は私がハルトの体を洗うのよ」
アイが浴槽で哄笑を上げている。もしかして、今のは水鉄砲? にしては偉力がハンパ無い。エリが仰け反ったし、顔が赤くなってる。多分、オークナイトやゴーレムの打撃くらいありそうだ。
「いったいわねー。けど、あんたどうやったの? ぶきっちょだから命中率、激低いでしょ」
「私は頭を使ったのよ。幾らエリが素早くても視線はかわせないでしょ。だから視線を送る要領で」
アイは顔をお湯に浸けると、両拳を縦に重ねて口に当てて顔を出す。なんか見えない吹き矢を口にしてるみたいだ。
ブバッ!
そこから水の球が射出される。それはすいこまれるかのようにパンドラに命中し、吹き飛ばす。え、もしかして、お湯を口に含んで吐いてるの? なんか汚い。
アイは初めて会った時には儚げで大人しい良識ある女の子だったのに。強くなったなーって思ったら、なんか大事なものを沢山無くしてしまったんじゃ? 力を手にしたら人間変わるもんだな。なんか寂しい。
「ブッ殺す!」
パンドラが矢のようにアイに突進する。
「やる気なのね!」
アイは浴槽から飛び出すとそれを迎え打つ。
「あたしも協力するわ。ゆるせない。今までの人生で顔に唾を、吐きかけられたのは初めてよ。ブッ殺す!」
「楽しそうですね。模擬戦ですかっ!」
飛んでたモモも参戦する。僕は人知れず体を洗い、浴槽に入る。女の子たちが入ったお湯だ。
目の前ではガチなバトルが繰り広げられている。色っぽさも風情もあったもんじゃない。全てを赤く染める黄昏の中、洗い場やそこらの岩石が破壊されていく。苦労して作ったのに。最期だからってぶっ壊す気か? ここは地獄か? けど、まあ、こんなに強い彼女たちならドラゴンをなんとかしてくれるだろう。僕は目を背けて、暖かいお湯に浸かりながら沈む夕日を眺める。とても綺麗だなー。
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