第百八十九話 1月の神
「……、まあ、そんな感じかなー」
僕はさっきの出来事を話した。余すこと無くつぶさに。正直、夢や幻覚かもと思ったけど、ここに居るみんなも鐘の音を聞いていた。
僕らは船室でテーブルについて飲み物など飲んでいる。甲板は酷いものなんで、桟橋で船を停留させてから掃除する事にした。
「さすが、私のスキルですね。なんか凄そうです」
モモはそう言ってるけど、イマイチ分かってなさそうだ。それに、さっきの謎空間、スキルの所有者のモモも引きずり込むべきだったんじゃないのか?
「ヤヌス。聞いた事があるわ」
アイのウンチクがはじまるみたいだ。
「まあ、一度聞いたら忘れにくい名前だから」
「忘れにくいって、言いにくいからすぐ忘れそうよ、ヤヌス、ヤヌス」
エリは連呼してる忘れないようにだろう。
「じゃ、ヤーヌスって何度も言ってみて」
「やあーぬすやーあぬすやーあぬす。それがどうしたの?」
「うっ、効かない。無知って強いわね」
「何よ、何のこと?」
「モモ、隅で説明してあげて」
「はいなー」
エリはモモに引きずられて、隅で耳打ちされる。その顔がまっ赤になる。
「アイ、ぶっ殺す!」
「私は、言ってみてって言っただけで、言ったのは自分でしょ」
「知らなかったんだからしょうがないじゃないのー」
これってどこかでヤヌスも見てるんだろうか?
「それくらいにしときなよ。ヤヌスで遊ぶのは止めなよ」
「そうね、ヤヌスで遊ぶのは止めたがいいわね。上級者っぽいし」
上級者ってなんのだ? どーせ良くない事っぽいからツッコまんとこう。
「それで、私が知ってるとこでは、ヤヌスは西方の古い神様で、始まりと終わりの神様って言われてたわ。あと、1月の西方語、ジャニュアリーはヤヌスの月って意味で、1月を司ってるそうよ。あと、扉や門の神様だったと思うわ」
「門って、学校の門もですか?」
モモがしれっと言う。
「学校の門って、ヤヌス神はお尻の神様じゃないわよ。あんた、そんな事言って、ヤヌス神に呪われても知らないわよ。女から男に変身とかして、モモ二分の一って呼ばれても知らないわよ」
二分の一、あ、あれか。さすがアイ、オタク体質。昔の物語にも詳しい。僕もヤヌスを見たときにそれを連想した。ヤヌスに水をかけたら完全な女性になるかもしれない。こんど会ったら試してみよう。ちなみにエリもモモもちんぷんかんぷんって顔だ。
「脱線はこれくらいにして」
エリが僕を見つめてくる。照れるよ。
「ハルトってそんな事で悩んでたの?」
「うん、そうだよ。ドラゴンなんか忘れて、みんなでここで平和に暮らすのもいいかなって。けど、ヤヌスが言った事が本当なら、僕はみんなと一緒に行く事になる」
「ホーリージャッジメントって、世界の分岐点でしか使えないのよね。ハルトの判断で未来が変わるって事よね。この島から出るとこから始まる。嘘か本当か分からない話だから、実際一回試すまでどうなるか分かんないわね。じゃ、それまでの時間、その事は忘れて楽しみましょ」
そう言うとエリは微笑む。けど、エリの楽しみと僕の楽しみには違いがありすぎる。うなぎを大量虐殺するような事はもう勘弁して欲しい。
読んでいただきありがとうございます。
みやびからのお願いです。「面白かった」「続きが気になる」などと思っていただけたら、広告の下の☆☆☆☆☆の評価や、ブックマークの登録をお願いします。
とっても執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。