第百八十話 刺青 (エリ視点)
「お風呂の準備出来たよー」
ハルトがあたしたちを呼びにくる。力が100超えた今でもまだあたしたちには風呂掃除は早い。浴槽のお湯を捨てるには浴槽を持ち上げてひっくり返すんだけど、あたしたち三人がかりでもびくともしない。早くもっと力をつけて、お風呂の準備を出来るようにならないと。なんかハルトには雑用ばっかりしてもらってるみたいで心苦しい。
「じゃ、ゆっくりねー」
「ハルト、ありがとう」
「ぬるくないでしょうねー」
アイ、何もしないのに文句言うなよ。
「ハルトも一緒に入ります? ちゃんと水着きますから」
「い、いやぁ、ちょっとーそれは……」
ハルトは一緒に入るのはいつもうやむやに断ってくる。葛藤してるんだろう。その困るのを見るのがモモの楽しみみたいだ。あたしも少し楽しい。まあ、結局はあたしたちが乱入しない限りハルトが入ってくる事はないんだけど。
あたしたち三人にパンドラがついてくる。こいつも一緒にいつも入る。そうしないとハルトの入浴に乱入するから。
あたしたちは脱衣岩に服を脱いでかける。
「ひっ」
つい、あたしの口から軽く悲鳴がもれる。何、なんなのこれ。変な病気? もしかしてフルーツに食べ過ぎた後遺症? あたしの服で隠れてなかった体全体に目がある。虚ろな目が数え切れない程ある。確か妖怪にこんなのが居たような? 百目?
「なんなんですか、エリ、その体? もしかして、エリって本当は魔物だったんですか?」
そう言うモモの体は全身緑の鱗に覆われてる。こいつ、あたしに目を取られて気付いて無いのか? アイを見るけど、普通通りで平然と服を脱いでかけ湯してる。
「モモ、自分を見なさいよ」
「はっ、何ですかコレ? 鱗? もしかして私、ドラゴンになったんですか?」
ドラゴンというかリザードガールね。けど、よく見ると鱗は滑らかで毛羽立ってない。あたしは恐る恐る自分の体の目を触ってみる。あ、書いてあるだけだ。つるっつるだ。お風呂になんか温泉成分が入ってるのか、それとも毎日汗かくからか、お肌はめっちゃ調子いい。それよりも、書いてあるって事は、これって刺青みたいなもの? あたしはアイを見る。アイは浴槽の中から面倒くさそうに口を開く。
「私がおでこに落書きするくらいで満足する訳ないでしょ。いいもの見れたわ。エリ、さっき凄い顔してたわよ。20点ね。エリもモモも似合ってるわよ。それでビーチに行ったら注目の的ね」
まじか、アイの魔法か。と言う事は明日の昼くらいまで、ずっとこのまま。
妖精がアイへのかけ湯を止めると、あたしたちの周りを飛ぶ。
「合格ね。かなり愉快な姿ね。お前たち、とっても似合ってるわよ。今日のとこは特別に主様に見せる事を許すわ。主様ーーっ。来てくださーーい!」
パンドラが叫びやがった。
「どうしたのーーーーっ」
山の裾からハルトの声。そう、覗きには来ないけど、ハルトは何かあった時にスタンバってる。脱衣岩を見るけど服が無い。パンドラ。アイとグルか。
「すっごい。すっごいものがありまーーーーす!」
「ちょっと、エリ、多分ハルトは来ますよ」
「さすがにこの格好は見られたくないわ。ヤバい人にしか見えないわ」
「武士の情けよ。水着くらいはあげるわ」
あたしたちはいそいそと水着を着る。ハルトが轟音を立てながら駆けてくる。あたしとモモは浴槽に入ろうとするのをアイが力技で阻止してくる。
「どうしたの、エリ、モモ? もしかして、なんかの呪い?」
げっ、ハルト。なんか汚いもの見るような目をしてる。ちがう、これはあたしの趣味じゃないわ。
「違いますよ。アイにやられたんですよ魔法、魔法です」
「主様、タトューの魔法の結果です。けど、あの魔法は本人の許可が必要です。ですから、望んでやってる事かと」
「許可がいる。望んで?」
「確かに許可したけど、間違えたのよ。間違いよ」
「いやー、感性は人それぞれだからね。何かあったかと思ったけど、大丈夫そうだね、じゃ」
ハルトはそそくさと立ち去る。あああああーーっ。あたしのイメージがぁああああああっー!
誰かがあたしの肩を叩く。アイだ。
「大丈夫よ。似合ってるわよ。DQNやマフィアって感じね」
「ぶっ殺す!」
「私も手伝いますっ!」
そして風呂場で、あたしとモモVSアイとパンドラの仁義なき戦いが始まった。けちょんけちょんにやられた。絶対にもっと強くなってやる!!
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