第十八話 上陸
「しっかりつかまってて!」
僕は顔を上げて声を張る。
「うん!」
まあ、エリなら当然分かってると思うけど、念のためだ。陸地が近づく。目指したのは砂浜だ。こっちに飛び出してたゴツゴツしてそうな岬を避けて、それから少し右よりにあった入り江の砂浜を目指した。チラホラ建物も見えたから、もしかしたらここら辺は海水浴場なんじゃないだろうか?
ザザン!
手に衝撃、舟が砂浜に乗りあげた。僕は舟の前に回り引っ張る。
「上陸成功ね!」
エリが舟から降りて僕に飛びついてくる。初めての激しいスキンシップに僕は戸惑う。めっちゃ強く抱きしめられる。エリも大陸に帰って来て嬉しいんだろう。
「ごめん、つい」
エリが離れる。もっとしがみついててもよかったのに。それよりも!
「帰って来たーっ!」
僕は叫ぶ。正直涙がこぼれそうだ。帰って来たんだ。国に。長かった。これでやっと人間らしい生活に戻れる。疲れた。僕は砂浜に横になる。舟の処理もあるけど、あとでいいだろう。エリは、自分が生きてるのを誰にも知られたくないから、舟は隠して欲しいそうだ。
結構はしゃいだけど、誰も来ないな。そう言えばここはどこなんだろう? 僕は身を起こして見渡す。そして、エリと目が合う。
「多分、ここは、メイセレンの町だと思うわ。あの綺麗にカーブを描いている岬はサンタエルモ岬。よく絵に書かれるから知ってるわ」
メイセレン。海水浴場と港で有名な町だ。けど、王国のどこら辺にあったか詳しくは分からない。
「北には王都、北東にはポートカインがあるわ。どっちも馬車で四五時間でつくわ。けど、まずは休んで、それから片付けしてからにしましょ」
おお、エリって何でも知ってるな。これだけ物知りって事は多分貴族なんだろうな。もしかしたら、僕なんかが話出来る身分の人じゃないのかもしれない。こりゃ、目立たないようにしないとエリの実家に連れ戻されるかもしれない。僕は荷物の中から仮面を取り出してエリに渡す。エリは直ぐに装備する。
「ハルトも、早く仮面しなさいよ」
「いや、僕は仲間くらいしか顔知られてないし」
「何言ってるのよ。あたしよりハルトの方が仮面は必要なのよ」
何か食い違ってるような気もするが、僕は仮面をつける。
少し休んでから、筏は解体し、舟は千切って端材に変えてしまう。なんか勿体ないけど、しょうがない。エリがビーチの管理人を探して、丸太と端材は引き取って貰った。乾燥させて薪にするそうだ。僕らは変な仮面してるけど、エリの話術でなんとかなってる。外国の落ちぶれた貴族という設定だ。残ってたフルーツはエリが食べ尽くし、樽とかはビーチの管理人に教えて貰った雑貨屋で売った。僕が懸命に作った樽より、干物の方が高く売れたのはショックだ。物々交換で古着とバックパックと小袋も手に入れて数日分の干物と水を残して売っ払った。残ったお金は約4千ゴールド。これじゃ木賃宿とご飯で一日分保つか保たないかだ。
けど、ここで、エリが大金貨を出して両替する。ポーチに入れてたそうだ。大金貨一枚で10万ゴールド。2人の共用財産って言ってる。エリは気にするなって言うけど、たかってるみたいで嫌だから足りない分のお金は借りて、後で返す事にする。
あと、護身のために武器が欲しいって言ったら、エリが買ってきたのは『ひのきの棒』。なんでかって聞いたら、エリは安全のためって言ってた。ひのきの棒のどこが安全なんだろう。最弱って言ってもおかしくない武器なのに?
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